HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

女優からアイドルを経て、
人気ライターとして
本を2冊出版するまでの話。

女優として芸能界デビューしたあと、
SDN48のメンバーとしてアイドルに転身。
そんな華やかな経歴をもつ大木亜希子さんは、
現在、人気ライターとして活躍されています。
歩き方が急にわからなくなるほど
精神的に追いこまれた日を境に、
自分の人生を見直しはじめた大木さん。
紆余曲折を経たいまだからこそ、
学生たちに伝えたいことばがありました。
担当は、ほぼ日の稲崎です。

5

なにを選んでも大丈夫。

――
大木さんはいま、
ライターとして活躍されていますが、
いまのお仕事は天職だと思いますか?
大木
いまはライターとしての自分を
必要としていただくことが多いので、
それに少しでもお応えしたい感覚が強いです。
じつは仕事がいつなくなってもいいように、
まだバイトには籍を置いたままなんです。
あと、ライターが集まるスナックで、
チーママとしてもはたらいています。
タレント業とか司会業とか、
バイトのように受けることもあります。

いまは職業をひとつにしぼるつもりはなくて、
女優もタレントも何年もやってきたことだし、
いろんな足場をつくることのほうが
自分には大事なことなのかなって思っています。
大木亜希子さん画像
――
いろんな選択肢はあったほうがいいと。
大木
そうですね。
ひとつしかもってないと、
そこで方向転換したいときに
逃げ道がなくなっちゃうんです。
私も会社員をやめるときに、
そのあたりのことがよくわかりました。

お金を稼ぐ手段がいくつかあれば、
人生を詰むこともない気がしますし、
どこかが伸びたらそこに力を入れるけど、
もしダメだったとしても他があるから大丈夫、
という状況つくっておきたいんです。
――
そのほうがきもち的にも楽ですよね。
大木
そうです、そうです。
――
いまみたいな話に共感する人もいれば、
「最近の若者には夢がない」とか
「もっと一生懸命になれる夢を持とうよ」とか、
そういうふうに思う人もいると思うんです。
大木
ええ。
――
いろいろな経験をされた大木さんにとって、
「夢」ってどんなものだと思いますか?
大木
私も夢の正体って、
ずっとわからなかったんです。
でも、大人ってなぜか「夢を持て」って
言いがちじゃないですか。
――
そうですよね。
「人生をかけられるものを見つけろ」とか。
大木
私がいろいろ経験してわかったのは、
人には「夢」と「使命」のふたつがあると思うんです。
――
夢と使命?
大木
夢は自分が能動的にやりたくて、
それに向かって1つずつステップアップしてくもの。
いわゆる、人生の目標ですよね。
でも、使命というのは夢とは違って、
自分の意思とはちょっと違うところで、
こういうことをするとまわりが救われるとか、
どうやらよろこんでくださるようだとか、
そういう自分に与えられた特別な役割だと思うんです。

私がアイドルのセカンドキャリアの本を書いたり、
人生もがいているような
女子の悩みをあけすけに書いたりするのも、
それを書かせていただくことで、
私に似ただれかをちょっぴり楽にできるかも、
という思いがあります。
それは、私のいまの使命だと思っています。

それは「夢は諦めた」というような
うしろ向きの話じゃないんです。
自分に与えられた使命をがんばって、
ちゃんと人生を生き抜こうとすることで、
必然的に自分に必要な人や、
夢を手助けしてくれる人が出てくるのかなって、
そんなふうに思いはじめています。
――
使命をがんばれば、
結果的に夢の実現にも近づくと。
大木
そうですね。
でも、夢と使命って、
どっちのほうが大切とかもないと思うんです。
私のいまの考えでは、
夢は最初の第一段階でしかなくて、
ほんとうは「使命」にゴールがあって、
そこに向かうために「夢」というものを
経由するのかなって思っています。
――
もし、社会に出る前の学生たちから
「自分には夢がありません」と言われたら、
大木さんはどんなふうに声をかけますか?
大木
私がお世話になってる心療内科の先生に、
私も同じような質問をしたことがあります。
「私、これから夢とかどうしたらいいんでしょうか」って。
――
はい。
大木
そのとき先生はこう答えてくれました。
「なにを選んでもいいんですよ」って。
大木亜希子さん画像
――
なにを選んでもいい?
大木
先生は「なにを選んでも正解なんですよ」って
おっしゃってくれました。
「なにを選んでもまちがいなんかなくて、
いつか自分の本質的なところに戻って来るから、
どんな選択肢になっても、
なにを選んでもそれは正解なんですよ」って。
――
すごく勇気づけられることばですね。
大木
私もそれ言われたとき、
すごく心がホッとしたんです。
当時は100%は理解できなかったんですけど、
自分がまったく意図してなかった
人生を歩んでいるいまだからこそ、
「あのときの言葉って、こういうことだったのかも」
って思えるようになりました。

もし社会に出る前の学生さんに
ひとつだけ声をかけさせてもらうとしたら、
私は「なにを選んでも大丈夫ですよ」って、
そう言ってあげたいですね。
――
「なにを選んでも大丈夫」。
いいことばですね。
大木
そして、もしやりたいことが
ちょっとでも思いつくんだったら、
先のことを考えて悩むよりも、
そこに飛び込んじゃうのがいいと思います。
バイトでもいいから、ちゃんとお金をもらって、
まずはその仕事をやってみる。
――
まずはやってみる。
大木
はたらいてお金もらうのって、
私はすごく大事なことだと思うんです。
仕事という責任をもってはじめて
がんばれる人間もけっこういると思うんです。
お金をもらうことで、
自分でやるしかない状況を
つくっちゃうのもひとつの手だと思います。
――
自分をどうやって鼓舞するかって、
けっこう大事なことですよね。
大木
そうだと思います。
そのためにも、
まずは「なる」ことが大事な気がします。
「なりたい」と思うだけじゃなくて、
なれるものを探して、まずはそれになってみる。
一流の会社に就職したいじゃなくて、
どうしても大手の企業に入りたいとかじゃなくて、
自分が入れるところに入って、
実際に仕事をするところからはじめてみる。
先生のことばを借りるなら、
その選択にまちがいはないんです。
結果的に、自分の本質に戻ってくるから。
だから「なに選んでも大丈夫だよ」って、
学生さんたちにはそのことばを贈りたいですね。
大木亜希子さん画像
――
きょうはどうもありがとうございました。
素敵なお話をたくさんいただきました。
大木
いやいや、そんな!
私みたいな未熟者がえらそうにすみません。
でも、ほんと、なに選んでも大丈夫だと信じています。
だって、そうじゃないと人生があまりにも
「絶対に一発勝負」になっちゃうじゃないですか。
だから思い切ってはじめてほしいですね。
どうもありがとうございました。
(おわります)
2020-01-24-FRI