HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

いまは走れば、
いいんじゃない?
<対談> 水野良樹(いきものがかり)× 糸井重里

「NewsPicks」の企画で、
いきものがかりの水野良樹さんと
糸井重里が対談をしました。
きっかけは水野さんが会いたい人として
糸井の名前をあげてくださったこと。
テーマを決めずにはじまった話は、
33歳の水野さんが、考えていることや
いまの悩みを、まっすぐなことばで
糸井に聞いていくものになりました。
良い曲とは、ことばと自分の距離、
次の段階へのうつりかた‥‥。
そして糸井が水野さんに伝えた
「いまは走ればいいんじゃない?」。
同じような年齢や立場のかたの
ヒントになったら、うれしいです。

*「NewsPicks」に掲載されたトークを、
ほぼ日編集バージョンでおとどけします。

水野良樹さん(いきものがかり)さんのプロフィール

水野良樹(みずの・よしき)


1982年生まれ。
神奈川県出身。ソングライター。
「いきものがかり」Guitar &リーダー。

1999年に吉岡聖恵、山下穂尊とともに
「いきものがかり」を結成。
ユニット名の理由は、水野良樹と山下穂尊の2人が
小学校1年生のときにたまたま一緒に
金魚に餌をあげる「生き物係」をしていたこと。
2006年3月「SAKURA」でメジャーデビュー。
以降「ブルーバード」「YELL」
「じょいふる」「ありがとう」など、
いくつものヒットシングルを世に送り出す。
2012年のシングル「風が吹いている」は、
NHKロンドンオリンピック・パラリンピックの
放送テーマソングとなった。
最新作は2016年8月発売の
「ラストシーン/ぼくらのゆめ」。
また、著書に自伝的ノンフィクション
『いきものがたり』がある。

水野良樹さんtwitter @mizunoyoshiki

いきものがかり OFFICIAL WEB SITE

いきものがかり公式Twitter @IKIMONOofficial

1.ぼくも、いきものがかり。
水野
ロンドンオリンピックのとき、
ぼくらが「風が吹いている」というテーマ曲を
作らせてもらいました。
そしてぼくが実際に
ロンドンのオリンピック会場を訪れたときに、
ツイッターでその場のことを書いたんですね。
そのとき、糸井さんがコメントをくださって。
糸井
はい、覚えてますよ。
水野
あのとき、
「わぁ、こんなふうにつながるんだ」と
すごくうれしかったんです。

それで、NewsPicksのかたから
「お話を聞いてみたい人は?」と聞かれたときに、
糸井さんの名前をあげさせていただいたら、
こんなふうにお会いできて、今日はうれしくて。
糸井
こちらこそ、うれしいです。
水野
ただ、何を話せばいいのか、
自分のなかでずっと決まらなかったんです。

で、昨日ふと思ったことで、
ぼくは犬を飼ってるんですが‥‥。
糸井
あ、それならもう。
水野
はい。糸井さんとつながる話は、ぼく、
野球か犬だと思ったんです。
ただ、ぼくもジャイアンツが好きなんですが、
いろいろ拝見すると、
糸井さんのジャイアンツ愛は深すぎて(笑)。
糸井
愛なのかね、これは(笑)。
水野
なので、犬ってところ。
ワンちゃんを飼ってらして、
『ドコノコ』というアプリも出されていて。
この話なら、と思ったんです。
糸井
ええ。
水野
昨日、ライブで深夜に家に帰ったとき、
寝ていたうちの犬を起こしてしまったんです。
それで彼がすごく嫌そうな目で
見てきたんですが、横になったまま、
腹を見せるようにバッと手をあげたんです。
「なでろ」ってサインなんですよ。
それで、かわいいし、
申し訳ない思いもあって、撫でていたんです。
そうするとすごく喜んだ顔をするんです。
そのとき、ことばはないんですけど、
なんだか彼がしゃべっている気がしてきて
「これ、すごく今日の話のヒントになるな」
と思って。
糸井
うん、うん。
水野
犬の飼い主のかたって、ことばがなくても
コミュニケーションが結べていると思う瞬間が
よくあると思うんです。
だからまずは、そういった
「ことばとコミュニケーションの関係」
のようなところ。
そのあたりから今日は
お話しできたらと思ったんです。
糸井
たぶん、そのあたりはぼくも
ずっとテーマにしていることだと思います。

そしてツイッターの件、覚えてますよ。
「この人は『いきものがかり』という人だ」
と思って。
書かれていることがいいなと思って。
水野
ほんとですか、ありがとうございます。
糸井
で、いまのお話とも通じる気がするんですが、
「いきものがかり」って、
あえて何も言わないようにしている人の
名前のつけかただと思ったんですよ。
水野
はい。そのとおりです。
糸井
たとえば「パイオニアズ」という名前なら、
「自分たちはパイオニアになるぞ」という
意志を感じますよね。
でも「いきものがかり」に
そういった意志は感じない。
学級委員でも、生徒会長でも、秀才でも天才でもなく、
「そこならできそうだから」と
空いたスペースに手をあげているのが
「いきものがかり」ですよね。

それがバンド名だというのは、
「いま、自己主張とは違うそういう発想で
音楽をやっている子がいるんだ。いいな」
と感じていたんです。
水野
バンド名の種明かしをすると、
もうひとりの男性メンバーの
山下(穂尊)とぼくは
小学校1年生からの同級生なんですが、
たまたま、ふたりでクラスの
「生き物係」をやっていたんです。
糸井
まぁ、きっかけはそういうものですよね。
水野
とはいえやはり、根底の思いはおっしゃるとおりで、
自分たちは変に自己主張をしたくない。
「自分たちでなければいけない歌」からは
なるべく外れたい。
曲が曲だけでどんどんひろがってほしい。
そのあたりを大事にしたいと思いながら
やってきているのがぼくらなんです。
だから、いまのお話はすごくうれしいです。
糸井
うん、うん。
水野
そこに通じる話で
今日聞いてみたいと思っていたのが、
糸井さんは、自分が発したことばと
自分自身の関係について、
どのように考えてらっしゃいますか?
自分が書いたコピーや文章において、
「自分が書いた作品だ」と
はっきり主張したいか、そうではないのか。
なんだか糸井さんはそこを
そんなに重視していないように思えたんです。
糸井
そういう意味でいえば、
まさしくぼくも「いきものがかり」ですよ。
水野
わぁ(笑)。
糸井
自分が言ったかどうかには
そんなに興味がないんです。
あと、自分もお客さんになって、
「いいね!」と言いたい気持ちがあるんです。
水野
フラットでいたいということですか?
糸井
そうですね、誰が作ったかに関係なく、
いいものを見たときに、
さっと褒められる自分でいたいんです。

だから理想は
「誰が作ろうが、良いもの」を作って、
そのあと「あ、これ作ったの自分か」と
もういちど喜ぶみたいなことができたらうれしい。

ことばって空気みたいなもので、
「このあたり、いい香りがするね」
という香りが誰からであろうが、
みんなが気持ちよくなればいいわけだし。
そこでの「誰のもの」って、
なければないほど上品だと思うんです。

まぁ、ギャラが発生する仕事だと、また別で、
「俺という人が出さないと」はあるんですけど。
水野
はい(笑)。
糸井
だからその水野さんたちの
「主張したい思いのなさ」は
「いきものがかり」という名前にも感じたし、
オリンピックの歌の歌詞も、
ほんとうに「ない、ない、ないよ」の話ですよね。
そこが「ない」のを選びたいほう、というか。
水野
そうなんです。
「風が吹いている」という曲を作ったのは
2011年の震災の後で、
いろいろな人の正義がぶつかっていて。

もちろん、ぼくにもAかBか
どちらかを選べなどと言われれば、
そこにぼくなりの意見はあります。
けれどそこで「ぼくはAだ」とか言いはじめても、
仕方がないと思ったんです。
そのとき歌がやるべきは「風が吹いている」という
「そこに場があるよ。そして、
バラバラな背景を持つ人たちがそこにいるよ」
と表すことだと思ったんです。

だから、おっしゃるとおり、
「何も書いてない」のがすごく大事なところで。
糸井
そして、オリンピックにそういう曲を作った
「いきものがかり」もよかったし、
そういう色のないものを選びたかった
採用した人もよかったですよね。
さらに、その思いは聴く人たちにも伝わっていて。
あのときはぜんぶおもしろかったですね。
水野
ほんとですか。うれしいです。
糸井
そういうものへの敬意というか。
そうした部分での
「この人たちはそこが好きなんだな」に
ぼくは「通じるなぁ」と思ったんですよ。
(つづきます)
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2016-10-21-FRI