HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

いまは走れば、
いいんじゃない?
<対談> 水野良樹(いきものがかり)× 糸井重里
6.走ればいいんじゃない?
糸井
でも34歳は、ぜんぜん走れますね。
水野
走りたいですけどね。
糸井
ぜんぜん走れますよ。
世界制覇できるくらいの気持ちに
なるんじゃないですか?
水野
いや、いや、いや(笑)。
でもいま、走りたいんですよね。

いまの自分たちの現状を路上ライブで例えると、
人がいない道で最初やりはじめたのが、
だんだん人が集まって、10、20人に増えてきた。
ぼくらもその場のお客さんたちも
いい関係を築けていて、盛り上がれてる。

でも、ほんとはいま、
そのわかりあえる円のなかだけで
とじてしまっていたら、ダメだと思ってて、
立ち止まってくれてる人たちだけじゃなく、
向こうを歩いている人にも、
アクセスしたいんです。
その、もどかしさがあって。
糸井
「いきもの」って、とじちゃったら死だからね。
ずっと手を伸ばしつづける様子そのものが
「いきてる」ってことだから。

あと、人体なら、病気にもなるし、
そのとき治すまでの期間とかって、
前へはすすんでないけど、
それも含めて「いきる」じゃないですか。
だから、一見とじてるように思えていても、
それも楽なことじゃないと思うよ。
水野
そうなんですかね。
糸井
あと、生命の歴史を考えると、
最初は自分だけでは動くこともできなかった
「いきもの」が、
だんだん筋肉ができて、神経ができて、
できることが変わってきたわけですよね。
いまの「いきものがかり」は
そんなふうに進化して、
筋肉が発達した「いきもの」に
なりかけてるんじゃない?
いちばん暴力的な、ムンムンしてるとき。
水野
ムンムン(笑)。
糸井
「ほかにももっとやりたいぞ」と
足が生えかけてて、
新しいお客さんをとりにもいけるし、
新しい世界をのぞきにもいけるし。

だから、いまは
走ればいいんじゃない?
思いのままに。
水野
ほんとですか。走ればいい。
糸井
そう思うけどね。
走りだせば、もう、
楽しくてしょうがないんじゃない?
走るのに考えがついていかないとか、
そういうのでもいいと思う。
細かい問題は、あとで個別に考えればいいから。

‥‥で、厄年くらいになるんですよ、その次。
水野
あ、その次にまたなんかあるんですね(笑)。
糸井
うん、ぜんぶこう「通じた!」と思ったら、
「まったく通じない世界がこんなにでかかった」
と気づいて、がっくりくるんです。
水野
今日は来るときにずっと
糸井さんの本を読んでいたんですけど、
本のなかで、糸井さんにも
若い一時期には「万能感」があって、
さらにそれが崩れたときがあった、って。
糸井
はい、それが40ですよ。
厄年あたりで、がっくりくるんですよね。
泣きたくなりますよ、ほんとうに。

「よし。やれることはぜんぶやれるかも」
みたいな気持ちで生きていたら、
急に大きな山みたいなものがきて、
「え、世界の本体ってこっち?」みたいな。
生まれ直さなきゃダメくらいの気分になる。
水野
そこまで、ですか。
糸井
ぼくはそんな感じでした。
だから、からだが元気ならいいけど、
あそこで病気になったらきついでしょうね。
水野
それほどの山って、振りかえって、
経験したことはよかったんでしょうか。
糸井
必ずあることなんで、認識できたのは、
よかったんじゃないでしょうか。
「あのときにいちばん考えたかも」
という部分もあるし。
水野
その山を越えられなかった可能性も
あると思いますか?
糸井
ぼくはないですね、そこは。
おそらくぼくには図々しいくらいの
「楽天性」があるんじゃないかな(笑)。
お金とかの話じゃないし、
「ジタバタすればなんとかなる」と
思っているというか。
そこは、ぼくの丈夫さですね。
本人が勝ったと思えれば勝ちですからね。
水野
はい、はい。
糸井
だから、その意味では
みんな勝てるはずだと思うんだけど、
そこに辿り着かなければ負けですから、
負け慣れしてたらね、きついかもしれない。

なんだろう、その山については、
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」
みたいなことかな。
「手を離したら泳げた」みたいな。
すっごくちいさなペットボトル程度でも
浮きになって、助かるんですよ。
そしてなんとかしてたら
最終的にイルカが来てくれた、みたいな。
水野
はい、イルカが(笑)。
糸井
でも、それと同じかどうかは
わからないけれど、
きっと音楽家ということでも
次にどう飛び移るかがありますよね。
水野
そうなんですよ。
糸井
すごく意地悪な言いかたをすると、
音楽を作る人たちって、
初期の作品にその人のエッセンスが
凝縮しているというか。
やっぱりみんな、ずーっと完全に新しいものを
作り続けることはできない。

だから、そのあとでどうするかについては
きっと、それぞれに悩んで
自分の道を決めてますよね。

「ずっとすごかった」と思われてる人とかって
実は活動期間が短いですよね。
ビートルズにしたって、早くに解散してますし。
水野
そうなんです。
あと、死んじゃった人は
ずるいなあ、と思います(笑)。
糸井
同じことをこんどはパフォーマーとして
やっていく人もいますし、
作り続ける人もいるし。
みんな、いいと思うんですけど。
水野
そう、ぼくも、
どんなかたちもいいんだと思います。
ただ、そこからどうするかは難しいですね。
糸井
降りかたって、やっぱり、
ほんとうに難しいんですよ。

登り途中だと思ってずっと生きてきたのが
もう登れないとわかる瞬間がある。
そのとき
「いっそもう、ヘリコプターでどこかへ
連れて行ってくれ」とかね。
もしかしたら宇多田ヒカルさんとか、
それをやったんじゃないのかな。
水野
ああ、たしかに。
こんどアルバムを出されますね。
糸井
ぼく、みんなあれをやればいいと思うんですよ。
水野
あれをですか?
糸井
あれを試してみて、できたら、
その人はその後、大丈夫ですよね。
水野
そっか‥‥でもここでいま
「怖い!」とおもったぼくは、
やっぱり山の降りかたを知らないと思います。
糸井
ぼくは、SMAPがいちばん上り坂のときに
「みんな1年休んで就職すればいいのに」
と思ったことがあるんです。
たとえば
「こいつSMAPだったんですよ」と言いながら、
いろんなところを仕事で回ったら、
「あ、知ってますよ」って言われるよね。

で、そういう「知ってますよ」をやりながら、
家では踊りのレッスンとかをちゃんとして、
「もう1年やったから、いいですよね」
とか言って舞台に戻ったら
‥‥すごい大きさになってない?
水野
糸井さんはそういうふうに考えるんですね。
さらに大きくなるために、休む。
糸井
その状況できっと誰も「歌ってみろよ」とか
言わないと思うんです。
「いや、来てくれただけでうれしいですよ」
くらいのことを言われて、
誰もができることだけをお願いされたり、
「ちょっと考えてみて」と言われながら
答えがわからなくてもいいテーマを渡されたり、
‥‥それは、つらい(笑)。
水野
それはほんとうにつらいと思います。
糸井
その違う局面で、歌を作るときに
「よし、驚かせてやるぞ!」と思うときの
あざとさみたいなものが
浮かび上がってくるかどうかを
問われますよね。
水野
はああ、そうか‥‥そんなこと聞いたら、
急に就職したくなっちゃいます(笑)。
糸井
それはおもしろいと思いますよ。
水野
うん、おもしろいでしょうね。
そのとき自分に、どんなことができるか。
(つづきます)
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2016-10-28-FRI