飯島食堂へようこそ。 荻上直子さんと、 『トイレット』のごはん。

その8 わかものよ、根拠なき自信は要らない。
糸井 荻上さんの家にいる絵描きの男の子は、
音楽にもくわしかったわけですね?
荻上 それが、ピアノは初めてで、
一所懸命練習してくれて。
糸井 嘘っぽくなかったですよね。
荻上 うふふ。
嘘っぽくないように、撮りました。
糸井 撮り方によっては
嘘っぽく見えることもありえた?
荻上 そうですね。
あとは編集も、うまくつなげてくれて。
ふつうだったら、
ここで見せないだろうっていうようなところで
あえて指の動きを見せたりとか。
糸井 へえー。
そういうところは
機能の部分なんですかね、映画の。
荻上 機能‥‥そうですね。
こういうショットを撮るっていうのを
カメラマンと打ち合わせして、
ほんとうに撮っていくという作業を重ねて、
彼も彼でちゃんと練習してくれて、
編集マンは編集マンで編集してくれて。
糸井 そういう頼りになる技術があると
広がりますよね、表現できる幅が。
荻上 そうですね、ええ。
糸井 素人でもいい映画つくれるよ、ってこと、
極限ではほんとうのことなんだけど、
実は、むずかしいですよね。
荻上 うーん、どうですかね。
最近ほんとに、
いろんなかんたんな機材がいっぱい出てきて
だれでも映画を撮れることになっています。
そんななかで
ほんとうにこれは素人じゃないよな、
っていうようないい映画が
いっぱいありますよ。
糸井 なんなんだろうね、そういうのってね。
荻上 わからないです(笑)。
糸井 そのひとの沈黙が出てるんでしょうね。
荻上 技術だけじゃない、
“なにか”で見せてるっていうひともいますし。
わたしも昔、自主映画をつくってたので
まわりにお友だちがいっぱいいて、
いまも、続けたりしています。
糸井 その自主映画っていうのは
じぶんでいいとかわるいとか
判断できたんですか。
荻上 全然!
糸井 できなかった?
荻上 ただただつくっていくだけです。
わけがわからないけれども、
想像だけでつくっていくって感じで。
糸井 ひとがなにか言ってくれたの?
荻上 そうですね、ひとに見せて、
「こうすればいい」とか
フィードバックがあって、だんだん。
糸井 そのときの気持ちって
いまになると興味あるね。
荻上 そうですね。
どう思ってつくってたんでしょう。
でもそういうのは意外と、
ひねくれないで「はい」って
ちゃんと受け入れていました。
糸井 よかったですよね!
若い子がよく 
「ぼくには根拠のない自信がある」
っていう言い方で
じぶんを表現することがものすごく増えてきて。
そのことば見つけなきゃよかったのに、
って思うんですよね。
荻上 根拠のない自信(笑)。
糸井 根拠のない自信って言うと
一応礼儀はつくしてるんですよね。
つまり、自信があるって言いたいんだけど、
根拠がないんで、
まちがってるかもしれないですけど、
って言い方ですよね。
荻上 はあはあ。
糸井 でも、自信があるって言いたいんですよね。
それを言わないと
負けちゃうような気がするから。
荻上 ああ、ああ、ああ。
糸井 だから、そのことば使わない方がいいよ、
ってオレ、言ったことがあるんですよ。
荻上 へえー。
糸井 ないか、あるかでいいよ、どっちでも。
考えてもいない、でもいいし。
だけど、根拠のない自信があるんですけど、
って言われると、話が進まないんだよ。
ひとが言うことだから、それは。

荻上さんは、最初に映画を撮ろうと思って撮って、
なにがなにやらっていうときに
メゲもしなかったわけですよね。
そのときの気持ちを
もし再現できたらおもしろいなあって。
荻上 そうですね、ほんとうに。
ずっとつくっていくなかで
やっぱりどんどん歳をとっていくと、
おなじ大学行ってた友だちが
お金も持ちだすし、
家族も持ちだすってことで
ちょっとあせったりもするんですけど、
なんかどっかで一時(いっとき)に決めたんです。
ずっと自主映画のままで終わっても
絶対にこれから一生映画をつくり続けるって。
このままちゃんと商業的な映画を撮れなくても
とにかくこのまま続けて、映画をつくると決めた。
決めたらだいじょうぶになったというか。
糸井 ああ、そうですか!
ラクになるんだ。
荻上 ラクになりました。
糸井 昨日、ちょうどアニメの監督と会っていて
やっぱりどこかのところで
いろんなわがままな欲望みたいなものを眠らせて
一回社会人の部分をやらないと、
つくること自体が
おぼつかない時代になってる、と。
とくにアニメって。
荻上 ああ、たいへんそうですもんね。
糸井 そこでの悩み方っていうのは
だいぶちがうんだろうなと思って。
まあ、だいたいの仕事が
受け負いの仕事っていうのが
世の中ほとんどですから。
その場合にはきっと
ちがう悩み方してるんだろうな。
するとどっかで頼まれてやってる仕事のなかに
じぶんを込めようとしたり、
あるいは足りないものを
もっと勝手にやってやろうと思ったりして
ちょっとこう、
大げさになっちゃうんじゃないかなあ、
気の毒だなあと思ったんですよね。

いまの荻上さんの、
なんであろうがつくるんだ、っていうのは
わりとシンプルだよね。
荻上 シンプルだと思います、はい(笑)。
糸井 シンプルですよね。
少し宣伝になるようなことを
言いたいと思うんだけど。
お客さんはいっぱい入った方が
いいと思うんです(笑)。
荻上 ほんとうにそう思います。
糸井 『かもめ食堂』が好きだ、
『めがね』が好きだ、ってひとの
両方がよろこぶと、数が増えますね。
荻上 そうですね(笑)。
糸井 ボーッとしたところの分量は
どっちよりも少なくなってますね。
荻上 はい、はい、はい。
糸井 ボーっとしてるところがいいのよね、って、
もし言うひとがいたら、
ちょっとがまんしてほしいね。
もっとおもしろくなっちゃったよって(笑)。
  (つづきます)

2010-09-01-WED

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