飯島食堂へようこそ。 荻上直子さんと、 『トイレット』のごはん。

その4 色味が増えたような気がするね。
糸井 いま映画の宣伝で
取材とか始まってると思うんですけど、
聞かれるごとにひとは
なにに興味があるんだなっていうことが
わかってくると思うんです。
取材で来るひとたち、
荻上さんのなにに興味をもたれているようですか?
荻上 うーーーん? うーんと‥‥
なんでしょう。なんだろう。
おもしろい質問。
なんかこう、
「『かもめ』『めがね』が一回終わって、
 新しいスタートをまた切ったんですね」
って言われたのは
すごくうれしかったです。
それから「もう日本じゃ撮らないんですか」
っていうことをよく聞かれました。
そんなことは全然思ってないんですけど、
今回は外国で母国語じゃないところで撮って
それでもじぶんがいままで
『かもめ』とか『めがね』で
やっとわかってきたような
じぶんのカラーみたいなものが
一本とおせるかどうかっていうのが
チャレンジだと思っていて。
で、できあがったものを観ると
反省点はいっぱいあるんですけど、
これはできたんじゃないかとすごい思っていて、
そういう充実感はたくさんあって。
今度は全然ほんとうに
アフリカとか行って
ことばもわかんないようなところで
映画撮ったらどうなるんだろうって。
糸井 えらいねえ!
それは観たいですねえ。
あの、ちょっとその、
前と変わったね、って言うひとの
気持ちがわかるのは、
色味が増えたような気がするのね。
荻上 ああ、はいはいはいはい。
糸井 モノクロで撮っていたものが
カラーになったみたいな。
あざやかな。
じぶんの色がどこにあったんだか
わかんないけど、
赤い色みたいなのがすっと見えた気がして。
あ、色いっぱい使えるようになった、っていう
うれしさがあるのかな、とは思いましたね。
荻上 『かもめ』は、
やっぱりフィンランドの空のスカッとした色と
かもめ食堂のブルーの壁と、っていうのが
全体の色味になって、
『めがね』は淡い空と、淡い海のブルーが
ああいう色になって。

今回はそんなにすごい意識して
撮っていたわけじゃないんですけど
家の木目のあったかい感じが出てきて
前2作は太陽の光がある感じだったのが、
今回は家でこう、中でこう、
どっちかっていうと暗い感じ、
ロックな感じになったのかなって思います。
糸井 暗い感じになるのに、色を感じるていうのは
なにかがちがうんでしょうね。
ぼくは観てて、中間色じゃないっていうか、
陰影があるっていうか、
それぞれのひとがいままでのひとたちよりも
もうちょっとじぶんの考えていることを言いますよね。
荻上 そうかもしれないです。はい。
糸井 「どっちでもいいんだけどさ」
とか言うものの、(意見を)言いますよね。
荻上 それは、家族だからだと思います、今回は。
糸井 そっかそっか、いままではちがうんだな。
で、「ばーちゃん」は考えっていうのを
ほとんど言わない。
あらゆるものにたいして
やわらかーい答えしか返ってこない。
そのおばあちゃんにたいして、
きょうだいたちは言わないと始まんない。
あれは、今までの流れのなかには、ないですね。
荻上さんのなかでもしかしたら
そういうような変化が?
わたしはこれをしたいんだ、とか
そういう変化が出てきたのかも?
荻上 そうですね、そうかもしれない。
あると思います。
糸井 そうですか。なんかあったの。
やっぱりやっていくうちにそうなっていく?
荻上 もう今回はやる前から
オレの! オレ! オレがー!
みたいなのがありました。
糸井 ふーーん。
荻上 これをやらないとオレになれない!
というか(笑)。
糸井 よろしいですねえ。
いま、だまって
『かもめ食堂』のムードでやってたら
社会、もっときつくなってるから、
ひょっとしたら
流されちゃうかもしれないですね。
あの企画もっていって、
みんなにプレゼンしたら、
なんで撮るの? とか
あらためて言われちゃったら。
荻上 そうかもしれないですね。
糸井 今度のは、どっかのところで、
刺さるものっていうか、
針を持ってるっていうか。
正直言ってぼく、
最後、泣きましたからね。
ごくふつうに、ちゃーんと泣いて
「よかったー」って(笑)。
荻上 泣くような映画をつくったつもりは‥‥。
── (笑)
糸井 そういうつもりはない(笑)?
しょうがないんですよ!
それは、あの子のせいですよ。
荻上 モーリーくん。
糸井 うん、あの子の家族みたいになってるんですよ、
ぼくらが。
そうだよね、
泣くような映画につくったつもりはないよね(笑)。
だけどふつう、泣きましたからねっていうときは、
泣いた話についてちょっとくらいは語るんだけど、
だまーって泣いて、
泣かなかったような顔をして
試写室を出た(笑)。
荻上 (笑)
糸井 荻上さんは、映画のなかで、
だれが好きとか、
つい、だれを中心に考えちゃうとか、
ありましたか?
荻上 話の流れとしてはオタクのレイっていう
めがねかけた男の子が中心人物ではあるのですが、
やっぱりそのいちばん最初に思い立つのは
スカートはいている男の子っていうので、
彼(モーリー)がけっこう。
糸井 ぼくもそうです。
で、まるで取り返すかのように
あのめがねのオタクの子のエピソードが
うしろの方でとんととんと重なって、
バランス取ってもらってよかったなあ、って。
つい、ぼくもつい重心偏らせちゃって、
スカートの子にばっかりにいっちゃうんで。
あの子の役割って
長男ってこうなんだよね、みたいなところに
終わっちゃうとかわいそうだなって思ってたから、
‥‥すーごくよかったなあ。
みんなに愛情が向いたっていうか。

妹の学校のシーンって、
あれは似た体験があったんですか?
演劇学校みたいなシーンがあったじゃないですか。
荻上 はい、詩を読んで、みたいな。
糸井 ものすごくおかしかった!
それぞれ順番に
キャラクターもった詩を読んで、
先生が講評してっていうので、
あの描き分けって、
人形遊びとしては最高の
腕の見せどころじゃないですか。
荻上 あはははは!
糸井 それぞれに、どっかまで裸になって、
どっかは隠していて。
それを表現したり受け止めたりが
もう、こんなん(手をからませる)なっていて。
あれはさっきの映画学校っていうところで
あった体験ですか。
それともまったくの創作ですか?
荻上 いまそれを言われて初めて
気づきましたが、
映画学校でやってました、たしかに。
8ミリとか見せ合って
先生が評価してって。
ああ、すごい!
自分でも知らなかった。
そこからきてたのかもしれないですね。
糸井 体験なしで、あれつくれたらすごいよね。
覗き見してたとしか思えない。
そうでしたか。
無意識だったんだ、じゃあ。
荻上 そうですね、すっかり忘れてました、
過去のこと。
そっか、すごーい!
糸井 ステレオタイプな子がいて
それが評価されたりして、
それにたいして、
ステレオタイプの裏返しの子がいて、
それは評価されなかったり。
それを両方見ている
たいして水準の高くない先生がいて、
っていうところで
主人公はなにっていうことでもなく、
ちっちゃいかけらを見つけるっていう役ですよね。
あの4つの関係って、
ぼく、ゲームをつくっていたことがあるんで、
シビれましたねえ。
ゲームって結局セリフだけで
そのひとを表していくんで、
ああいうことがおもしろいんですよ。
荻上 すっごい、思い出しちゃいました。
糸井 ほんとうですか。
荻上 きっと無意識に
あのかわいらしくて
チヤホヤされてる子がだれ、って
あてはめてやったんだなって思って(笑)。
糸井 シナリオの段階ではもうああいうふうに
つくってたんですもんね。
荻上 そうです、はい。
糸井 アドリブじゃないですもんね。
荻上 はい。
糸井 あれ、たぶん、学生とかが演技したら
素直にあの役にハマれる子とか
いるかもしれないなと思うと
ちょっと愉快で。
あのへんのいじわるさが
隠し味としてね、たまんないんです。
荻上 いじわるさが(笑)。
糸井 やっぱりいじわるだと思うんですよね。
ステレオタイプのアンチの子が
オタクのお兄さんのことをバカにしてて、
ああいう役割で決着がついたってことは
やっぱり、ああ、いじわるが完結したなって。
しゃべってると思い出しますね。

(つづきます)

2010-08-26-THU

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