田口商店 五代目継承の物語。 田口商店 五代目継承の物語。
下北沢にある「夢眠書店」は、
店主・夢眠ねむさんと、料理担当・まあさんが
ふたりで営んでいる本屋さんです。



ねむさんと、まあさんは、実の姉妹。



ふたりは三重県伊賀市にある老舗、
「田口商店」に生まれました。
乾物や鮮魚を販売するお店の、長女と次女です。



その「田口商店」が、
「生活のたのしみ展」に初出店します!
おいしいかつお節などを、たっぷりとご用意して。



しかもこれを機会に、代々続いた「田口商店」の屋号を、
長女・まあさんが五代目として継承するとか。
つまり、五代目として初のお仕事が、
「生活のたのしみ展2026」ということです。



なぜ、いま、継承することになったのか。
東京で活動するまあさんは、
どういうかたちで「田口商店」を継ぐのか‥‥。



継承までの経緯を、ほぼ日が追いかけました。
「生活のたのしみ展2026」にお越しくださる前に、
その物語をお読みください。



第五回 伊賀編「五代目・まあ誕生」
写真
ねむ
あのね、お母さん、
きょうはもうひとつ話があります。
左智子さん
どうしたん、あらたまって(笑)。
ねむ
「夢眠書店」でも、
お母さんのだしを使ってるでしょう? 
左智子さん
うん。
ねむ
もし、お母さんがだしをやめたら
どうしようって思ったの。
「夢眠書店」のメニューが
できなくなるのもそうだけど、
うちらが食べるものがなくなってしまう。
ちっちゃいころから、
あたりまえのように
お母さんのだしで食べてきたから。
代わりのだしなんかない。
だから、まあちゃんとふたりで、
「困ったね、やだね」って
ずっと言ってたんです。
写真
左智子さん
‥‥‥。
ねむ
わたしがアイドルやめたとき
いっしょに焼肉食べにいって、
ちょうどお父さんも鮮魚を縮小するって。
「おたがい節目やな」みたいな。
左智子さん
言ってたね。
ねむ
お父さんの魚が
これから食べれんくなるって思ったとき、
「はっ、お母さんのだしは?」って。
「いつかなくなる?」 
「どうする?」って思ったらもう‥‥。



‥‥だから、あの、お母さん、
お姉ちゃんに、
だしを引き継がせてください。
あと、お姉ちゃんに
五代目を引き継がせてください。
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────
‥‥そういったお話は、
以前からされているとうかがいました。
ただどうしても、ご家族同士だと
うやむやになってしまうと。
ねむ
そう、照れちゃったりするから。
────
それで、
部外者であるぼくらが干渉するのは僭越と
重々承知なうえで、
先延ばしになっていることが
すこしでも進めばと思い、
今日はこうしてやってまいりました。
ねむ
ありがとうございます。
わが家のことなのに。
左智子さん
‥‥あの、だしのことで言うとね。
ねむ
うん。
左智子さん
この店でもすごく言われてます。
長く使ってくれてるお客さんが多いから、
「いや、これがなくなったら」って。
業務用も出してるので、
そういうお店の人たちからも
「ぜったい欲しい」って言われてて。
まあ
だしが変わったら
お店の味が変わっちゃうもんね。
左智子さん
そう。
だからどうしようかな、と。
写真
────
具体的にどうするかは、
考えていらっしゃるんですか? 
左智子さん
いまのお客さんたちは
たいせつにしたいんで、
おしゃべりできる場所にはしときたいんです。
常連さんも、
「机と椅子は置いといてなー」
ってみんな言うから。
コーヒーの機械置いて、
自由に飲んでもらうとか。
みんな「コーヒー代は払うよ」って(笑)。
────
おだしは、どうするんですか? 
左智子さん
すっきり、きれいな場所にしてね、
「だし専門店」を
ひとりでしようかなとは思ってます。
ひとりでちまちまパック作って、みたいな。
花かつおは予約しか売らないとか。
そんな感じでいこうかなとはいちおう思ってます。
まあ
わたし、それとおんなじことを
東京でやりたい。
写真
ねむ
お。
まあ
いまお母さんが言ったこと、
そのまま東京でやりたいです。
左智子さん
機械とかいるけどね。
ここみたいにたくさんはなくていいけど。
まあ
これくらいの空間があればできる? 
左智子さん
ここまでなくてもできるよ。
まあ
わたし、ときどきここに来て修業したい。
ねむ
おお! 
まあ
やっぱり教わらんとわからないから。
‥‥お母さん、来ていいですか? 
左智子さん
どうぞ。
ねむ
‥‥すごい。
進展した。
────
どうやら、だしについては
引き継ぎオッケーとなったようです。



お母さん、
「五代目をまあさんが継ぐ」
ということについてはいかがでしょう? 
左智子さん
継いでいらないとか、
継いでほしいとか、
そんなんぜんぜん思わないんです。
ただ、継ぐならぜったい大変やね、みたいな。
写真
────
大変ですか。
左智子さん
いちばんは、原料のことです。
いちおうここでは、
かつおだったら枕崎のこれ。
煮干しは愛媛の。
昆布は日高一等上浜。
なんでもいいっていう原料ではないので。
今はもう、原料集めるだけでも大変です。
とくに大変なのが、原木しいたけがないです。
────
ああー。
左智子さん
仕入れが大変になってくるのがわかってて、
「継いでください」とは
簡単に言えないところがありました。
ねむ
そっか。
お母さんのそれは思いやりだ。
左智子さん
お父さんもおんなじ考えやと思う。
まあ
でも、大変だけど原料があればできる。
左智子さん
そうね。
まあ
東京にも市場あるから、そこでわたしが。
左智子さん
うん。やるんだったら、
そうしないとしょうがない。
ほんとうに信用できる、
いい原料を扱っているところを
探さないといけない。
ねむ
それはね、料理人のまあちゃんは、
舌がいいから大丈夫。
写真
────
こちらのお店、創業は何年ですか? 
左智子さん
創業はわからないんですよ。
そういう資料みたいなのがなくて。
────
事実として4代目である、と。
左智子さん
はい。夫が4代目です。
────
そうか、4代目はお父様ですね。
左智子さん
男の人はみんな鮮魚の方です。
女の人が花かつおを売る
っていう感じになってて。
お義母さんが硬いのをこういうふうに削るのを、
考えたらしいです。
────
左智子さんが始められたのが、
パックにしたおだし。
左智子さん
そういう感じです。
────
おうかがいしていると、
「代々続く家を絶やさない」
というお気持ちをあまり感じないのですが。
左智子さん
わたしらの時代までは、
そういう感じだったんです。
「守らなあかん」という。
主人もずっとそうでした。
でもさっき言ったように
市場の状況が変わって大変になったので、
「もう、継いでもらわへん方がいいよなー」
みたいな。
────
なるほど。
写真
左智子さん
「自分の代でいいやん」みたいな。
「ここまでできてよかったね」と。
これからの娘たちには、
手に職ついてる方がいいと思いました。
────
おふたりとも、
しっかり手に職がついています。
左智子さん
はい。
────
そしてお母さん、
まあさんもねむさんも、
残念ながらこの場所に戻ってくる
おつもりはないようなのですが。
左智子さん
ぜんぜん大丈夫です。
そう思ってるので。
────
「田口商店五代目」ののれんが、
東京に出ることに、ご抵抗はない? 
左智子さん
そんなんぜんぜんないです。
わたし、そんなん、ぜんぜんないんです。
────
そうですか。
ねむ
‥‥お母さん! 
左智子さん
はいはい、なに?(笑)
ねむ
お母さんは100以上生きるんで、
重なってる時期があると思うけど、
「五代目まあ」に「田口商店」の
東京支部をやらせていただきたいと、
妹からはっきりとお願い申し上げます。
よろしいでしょうか。
左智子さん
どうぞ。
写真
ねむ
やったーーー!! 
────
それは、四代目である
お父様にもご異論はないと
受け止めてよろしいですか。
左智子さん
反対するようなことでもないので。
いちおう本人に聞いときます。
ねむ
反対しなさそう(笑)。
左智子さん
逆にうれしいかと思いますよ。
ねむ
東京支部も、
きっといい場所になると思うんです。
どこでどうやるかはまだわからないけど。
お姉ちゃんは料理人の信用を重ねてるし、
わたしもいろいろやって、
いまは「夢眠書店」で地盤固めてるし。
だから「左智子イズム」なんですよ。
左智子さん
なにそれ?(笑)
ねむ
お母さんと同じ、わたしたちにも、
わかってるお客さんしかいないの。
気の合う方々がお店に来てくれて、
おしゃべりしてお買い物をしてくれる。
────
同じですね。
ねむ
ほぼ日さんも同じなんです。
「生活のたのしみ展」はみんなたのしそうで、
ほんとにいい人たちがいっぱい集まって。
勝手ながら、わたしたちがお店を出すのに
ぴったりなんじゃないかと。
────
ありがとうございます。
「田口商店五代目」として
まあさんが初登場するのが
「生活のたのしみ展」になりますね。
写真
左智子さん
はぁー。
お店、休まな。
まあさん
そうね(笑)。たのしみ展の期間は。
左智子さん
工場で働いてくれてる人たちがね、
ありがたいんですよ。
希望を言ったらパッと動いてくれます。
────
職人さんたちがいらっしゃる。
左智子さん
その人たちにイベントのこと話したら、
「がんばります」って言ってくれました。
いちばん上が79なんですよ。
「病気ならんといてね」って言うたら、
「いや、がんばるから」って言うてくれたんで、
ちょっと安心です。
ねむ
みなさんが「生活のたのしみ展」に向けて
長生きを始めている(笑)。
────
それでは、6月、
会場でお会いするのがたのしみです。
左智子さん
歩けたらお邪魔します。
まあさん
背負っていくわ、わたしが(笑)。
写真
(伊賀編終了。まだ、つづきます)
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