里中満智子さんに聞く万葉集の魅力 里中満智子さんに聞く万葉集の魅力
  • 『天上の虹』について
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  • 里中満智子さんプロフィール
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秋の修学旅行シーズンです。奈良・東大寺で大仏を見たり、鹿におやつを奪われた思い出のある方も少なくないでしょう。あの景色のなかで、万葉集の多くの歌は詠まれました。でも、古文の授業を思い出すと、頭に暗雲が垂れ込めるかもしれません。そんな雲を吹き飛ばしてくれるのが、漫画家・里中満智子さんのライフワーク『天上の虹』(講談社文庫全11巻)。ヤマザキマリさんの『テルマエ・ロマエ』で古代ローマが身近になり、池田理代子さんの『ベルサイユのばら』でフランス革命にドキドキしたように、『天上の虹』は、万葉の時代の男と女を今を生きる私たちの目の前に生き生きと蘇らせてくれる作品です。 ほぼ日の学校「万葉集講座」がはじまるのを機に、32年の歳月をかけてこの万葉大河ロマンを紡いだ里中満智子さんにお話をうかがいました。 秋の修学旅行シーズンです。奈良・東大寺で大仏を見たり、鹿におやつを奪われた思い出のある方も少なくないでしょう。あの景色のなかで、万葉集の多くの歌は詠まれました。でも、古文の授業を思い出すと、頭に暗雲が垂れ込めるかもしれません。そんな雲を吹き飛ばしてくれるのが、漫画家・里中満智子さんのライフワーク『天上の虹』(講談社文庫全11巻)。ヤマザキマリさんの『テルマエ・ロマエ』で古代ローマが身近になり、池田理代子さんの『ベルサイユのばら』でフランス革命にドキドキしたように、『天上の虹』は、万葉の時代の男と女を今を生きる私たちの目の前に生き生きと蘇らせてくれる作品です。 ほぼ日の学校「万葉集講座」がはじまるのを機に、32年の歳月をかけてこの万葉大河ロマンを紡いだ里中満智子さんにお話をうかがいました。
第3回 「万葉集」は誰がどう編纂したのか?
中学生のときに万葉集に出会い、
以来、さまざまな発見をしながら、
何度も万葉集を読み返している里中さん。
ライフワーク『天上の虹』の中で、
その成り立ちについて
ひとつの解釈を示していらっしゃいます。
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里中
最初にお話したように、
万葉集のすばらしさのひとつは、
身分や立場によって分け隔てなく、
テーマ別と、ざっくりした時代順に
編纂されていることです。
では、いったい誰が編纂したのでしょうか? 
説はいろいろありますが、
おそらく巻1、巻2は、
柿本人麻呂がかかわっているでしょう。
そして、意識的に歌を並べたことは明らかです。
最初に、伝説上の歌ですけれど、
国のはじまりのころの歌、
民間伝承の歌も入れてあります。
国の成り立ちを記録しようという
意図を感じます。
——
『天上の虹』の中で、
柿本人麻呂が古事記や日本書紀と違い、
政治に左右されない記録を残そうとする。
公式な記録に残されない
封じられた部分も含めて、
人々の心の歴史を記そうとする
姿が描かれています。
これが万葉集の成り立ちであろうという
里中さんの解釈ですよね。
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里中
はい。そう描きました。
私は研究者ではないので、
勝手に想像しているだけですが、
人麻呂が個人的に歌を集めはじめたのが、
はじまりだったのではないかと思っています。
その後、テーマ別に並べたのが誰かは
わからないけれど、
大伴家持がかなりの部分関わっているのは、
はっきりしています。



万葉集は注釈が実におもしろいんです。
歌の解説だけかと思うと、
なんとなく、ほのめかしがある。
「こういわれているけど、ほんとは‥‥まあね」と、
読む人にわかってほしいといわんばかりの
注釈がけっこうあるんです。
——
そうなんですか。
里中
たとえば、大津皇子(おおつのみこ)と
大伯皇女(おおくのひめみこ)の姉弟について。
大伯皇女は神に青春を捧げ、その後も独身で、
謀反の罪に問われた弟の悲劇を抱えて生きた人です。
他にも歌はあったかもしれないのに、
万葉集に残されたのは、弟のことを詠んだ歌だけ。
2人が恋愛関係にあったという記録はないけれど、
私はそこに編纂者の意図を感じました。
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——
2人の哀切な物語は、とても印象的です。
同様に、高市皇子(たけちのみこ)と
十市皇女(とおちのひめみこ)の悲恋も
漫画でドラマチックに描かれています。
里中
高市皇子と十市皇女も、
歴史の記録上は異母姉弟である以外に
関係はないということになっています。
でも、高市はあまり歌を残していないのに、
十市が亡くなったときの歌三首だけが
万葉集に残されている。
わたしはそこにも編者の意図を感じるのです。
——
そこを汲んで、物語を広げられたのですね。
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里中
奈良時代の漢詩集に『懐風藻(かいふうそう)』
というものがあり、
万葉集とあわせて読むと、
同じ人物についての少し違う表記があって
おもしろいのですが、
大津皇子(おおつのみこ)の幼なじみながら
裏切ったとされる
川島皇子(かわしまのみこ)について、
やはり「裏切り者」呼ばわりしています。
でも、私は人ってそんなに単純じゃないと
思っているんです。
写真
——
妻を守ろるために友だちを裏切るという
苦渋の決断をしたと
『天上の虹』では描いていらっしゃいますね。
里中
川島皇子が実際のところ、
どう考えて行動したのかわからないけれど、
きっと人と人のつながりのなかで動いている。
いい奴とか悪い奴とか、
ひとくちにいえる人なんていないと思うんです。
しがらみと理想と、自分の実力。
そうしたものを秤にかけて、
家族の事情も抱えながら考える。
それは、きっと私たちと同じです。
そういう感覚で読むと
万葉集って、とても近いものになる。
1000年くらいで、人ってそう変わりませんから、
わからない世界じゃないんですよ。
写真
(つづく)
2018-10-06-SAT
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