自宅のベランダや庭先で福島のお米「天のつぶ」を栽培できるキット「ちいさな田んぼ」の発売に際してプロジェクト全体の監修を引き受けてくれた郡山の農家・藤田浩志さんと言い出しっぺの糸井重里が、お話しします。春、ちいさな芽が出たときの、うれしさ。夏、ぐんぐん育つ稲を眺めるたのしさ。秋、とれたお米を食べたときの、おいしさ。「じぶんのお米を育てること」って「大丈夫かなあ!?」のドキドキも含めて、本当におもしろくて、おおげさじゃく、感動する体験なんです。ふたりのお話を読んで、ご興味を持ったら、ぜひトライしてみてくださいね。

  • 第1回 都会の真ん中で、お米ができた!
  • 第2回 安心の話はあたりまえ。
  • 第3回 おいしいものをつくるだけ。
  • 第4回いまが、いちばんおもしろい。
  • 第5回秋の収穫まで、たのしみましょう。

第1回都会の真ん中で、お米ができた!

糸井
この「ちいさな田んぼキット」の商品化へ向けて、
去年1年間、青山のビルの屋上で
うちの社員と一緒に稲を育ててたんですけど、
いやあ、おもしろかった!
藤田
ああ、なんか、うれしい(笑)。
糸井
だって、本当に都会の真ん中で米が収穫できたし、
油断してたら、ちゃんと「失敗」もしましたから。
藤田
え、失敗?
糸井
ビルの屋上で育てていた稲は
ぜんぶ成功して、収穫までできたんですけど、
ぼくが自宅で育てていた苗、
まだ4月なのに、ものすごい暑い日があって、
一気に枯れちゃったんです。
藤田
へえ‥‥水が足りなかったのかな?
糸井
そうかもしれないです。

その後は、うちの社員たちが
ああでもないこうでもないと試行錯誤しつつ
育てていたのを見てたんですけど
夏休みの水やり当番とか、
「台風が来てるので避難させました!」とか、
そんなのが、いちいち、おもしろくて。
藤田
ええ、ええ。
糸井
これ、いちばんはじめのアイディアは、
「福島の木をつかって
 何か商品つくれないかな?」だったんです。

つまり、福島の檜で田んぼのワクを組んで、
土と水を張った「水田セット」‥‥みたいな、
ひとつの「風流」として遊べないかなあと。
藤田
つまり「水田盆栽」みたいな(笑)。
糸井
そうそう、でもそのうちに、
自宅で水田の風景をたのしむっていうより、
「みんなでお米をつくろう!」
みたいなプロジェクトにしちゃったほうが
おもしろそうだなって、思い直して。
藤田
それで、私にご連絡をくださったと。
ありがとうございます。
糸井
そもそも、どう思いました?
自分ちのベランダでお米を育てる‥‥って。
藤田
私、田んぼの風景が好きなんですけど‥‥。
糸井
ぼくも好き。で、みんな好きですよね。
ときどきの季節を感じられるし。
藤田
そう、だから
「都会のマンションのベランダに
 あの風景があったら、いい感じだろうな」
ってワクワクしたんですが
「でも、
 そんな簡単に、お米がつくれるのかな?」
とも、同時に思いました(笑)。
糸井
そうですよね、プロからしたら(笑)。
藤田
ただ、一般の人にとっての「お米」というと
田植えのシーンか、
黄金の稲穂が垂れている姿か、白米か‥‥
くらいだと思うんですが、
白いごはんになってお茶碗に盛られるまでには
あたりまえのように
農作物が育っていくすべての過程があるわけで、
それを実際に体験してもらうって、
すごく、おもしろい試みだなあと思います。
糸井
生長にともなって
人の側にもいろんな仕事がうまれるんですよね。
藤田
そうですね。
糸井
藤田さんたちにとっては
あまりに当然のことかもしれないんだけど
単純に
「お米って、こんなふうに育っていくんだ」
とか
「お米の花ってのが、あるんだー」
ということが
いちいちわかるだけで、おもしろかった。
藤田
‥‥私、以前、娘が風邪を引いたので
病院に連れて行ったとき、
かるくショッキングなことがあったんですが
その話をしてもいいですか?
糸井
ええ、どうぞ。
藤田
お医者さんの診察を終え、
処方された薬をもらうために薬局へ行ったら
キッズコーナーに
「ぬいぐるみのたくさん入った箱」が
置いてあったんです。
糸井
ええ。
藤田
そのなかから、
「ホウレンソウらしきぬいぐるみ」が
顔を出してたんですよ。

で、
「ホウレンソウのぬいぐるみ?
 めずらしいなぁ、かわいいのかな?」
と思って引っこ抜いてみると‥‥。
糸井
はい。
藤田
なんと、
下から「ニンジン」が出てきたんです!
糸井
なるほど(笑)。
藤田
「なぜ、ヒユ科のホウレンソウの根に
 セリ科のニンジンがついているんだ?
と‥‥。
糸井
いや、実際につくっている人にとっては
やっぱり違和感あるんでしょうね。
藤田
まあ、そうだよな、ふつうの人にとっては
それくらい伝わってないよなあと。
糸井
「魚は切り身で泳いでる」なんていうのも
あながち冗談でもないのか、と。
藤田
ええ。ですから、
今回の「ちいさな田んぼキット」のことを
うかがったときに、
「これは、おもしろいものになる」って。

つまり、育てる人にとっては
いろいろ意外な出来事が起こるはずなので。
糸井
そうでした。

真夏の稲が
あんなに水を吸うことも知らなかったし、
ひとつの稲穂から
あんなに少ししかお米がとれないことも
知らなかったし。
藤田
でしょうね。
糸井
世話をしていた社員が言ってたのは
「屋上まで水を運ぶのが、重くて」とか。
藤田
なるほど。
糸井
つまり、かつては「水利」をめぐって
人々が争ったってことも、
実感を持って、わかったんですよ(笑)。
藤田
そうか‥‥なるほど。
糸井
陽当りのことにしたって、
観葉植物を部屋に置いておくだけなら
ほとんど考えないですよ。

でも、稲の場合には、そうはいかない。
藤田
はい。
糸井
水のこと、陽当りのこと、風のこと。
ひとつひとつ勉強していったんです。

で、このおもしろさは
みんな味わえばいいのにって(笑)。
藤田
最終的にとれた量は‥‥。
糸井
どれくらいだっけ?
──
合計「9バケツ」育てまして、
とれた量が「玄米で300グラム」です。

玄米の「玄」を外して、270グラム。
藤田
精米すると
1割くらい目方が減りますからね。
──
2合に満たないくらいです。
糸井
‥‥素晴らしいでしょ?(笑)
藤田
いやあ、でも、都会のビルの屋上で
本当にお米って、できるんですね。
糸井
うん、できましたよー!(笑)

<つづきます>

2015-03-24-TUE

copyright HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN