第4回
いまが、いちばんおもしろい。

藤田
最近、おもしろいなと思った表現があって、
それは
「復旧にかかるコストは経費だけど、
 復興にかかるコストは投資なんだ」って。
糸井
なるほど。
藤田
こわれてしまったものを元に戻すだけでは
ただの「経費」ですけど
いま、自分たちのつくっているものが
「将来に渡って
 きちんと利益を生み出していけるような
 新しいもの」
だったら、
そこにかかるコストは「投資」だ‥‥と。
糸井
自分たちがやってることの「確かめ算」が、
できるような話ですね。
藤田
そして、あくまで「投資」であって、
それが「投機」になってしまっては、ダメ。
糸井
うん、うん。
藤田
新しい価値を生み出しているか、
短期的な利益だけにとらわれていないか。

ちょっとした言葉の違いだけど、
そのことを意識することができたんです。
糸井
そのとおりですよね。

で、ぼくが、あとひとつ付け足すとすれば
「利益は生み出さないけれど、
 信頼を生み出しているか?」ってことで。
藤田
ああ、なるほど。
糸井
これまでのタイプの「営利企業」では
株主総会で
ブーイングもらっちゃうかもしれないけど
「たとえ利益を生んでいなくても、
 あなたの会社は、
 あなたがたのやっていることは、
 なくなってしまったら、困るんです」
という励まし方が
これからの時代には、あると思うんです。
藤田
同じように「信頼」の話で言うと、
「こいつがつくってるんだから、大丈夫」とか
生産者じゃなくても
「この店が扱ってるんなら、安全安心だ」
「ここの料理人さんが使ってるんだから
 大丈夫だし、絶対おいしいよね」
というような関係性を、結んでいきたいんです。
糸井
そうなったら、強いですよね。
藤田
福島大学の清水修二先生が
「コミュニケーションの核にあるのは
 説得じゃなくて、信頼だ」って。
糸井
なるほど。
藤田
本当に「あぁ、そうだよなぁ」と思いました。

もちろん「理屈」も大事なんだけど、
結局は、その人や、組織や、取り組みなどが
いかに信頼できるのか‥‥ですよね。
糸井
うん、うん。
藤田
で、「じゃあ、どうしたら信頼されるの?」
って言ったら、やっぱり
「生き生きしてる人」だったり
「思いやりがある人」だったり
きっと、そういうところなのかなあ‥‥と。
糸井
そういう人って、
人と人をつなげてくれますもんね。
藤田
そうなんです。

震災前から震災後1~2年くらいのあいだは
郡山の野菜をどうしようかって
農業者だけで集まって
カンカンガクガクの話し合いをしてたんですが
震災後3年めくらいから
クリエイターの方とか、学問の世界の方とか、
PR業界の人とか‥‥
それまで、私ら農民とは
まったく関係なかった世界の人たちと
話をするようになったんです。
糸井
ええ。
藤田
そしたら、おたがいに
すっごいリンクすることが、たくさんあって。

だから、本当におもしろいんです、最近。
糸井
たとえば、どんな取り組みがあるんですか?
藤田
奥田政行シェフが郡山につくった
「福ケッチャーノ」というレストランがあって、
そのおとなりで
「開成マルシェ」というマルシェが
定期的に開催されるということで参加したら、
すごくおもしろくて、人が人を呼んで‥‥。
糸井
へえ。
藤田
で、そのマルシェのことを聞きつけた
東京の旅好きのお姉さまが
わざわざツアーを組んできてくれたりとか。

自分には利益もないのに人を連れてきて
なんか、パンフレットまでつくってくれて。
糸井
本当に「おもしろい」って思ったんだね。
藤田
ツアーに来た人たちも
ほとんど予備知識がなかったみたいで
とりあえず
「おいしい野菜なんかが食べられるのかな」
みたいな感じだったんですが
私らの畑へ行って、ダイコン引っこ抜いて、
ワイルドに包丁で切って、
「さあ、食べてみ」みたいな感じで。
糸井
おお。
藤田
まさに「大地の味」を、たのしんでくれて。

そのあと、マルシェに戻ったら
さっき食べたダイコンを買うことができて、
ワインを飲みながら、
生産者たちの思いも聞くことができて‥‥。
糸井
いいですね。
藤田
私たち、ずっと自分たちの「郡山」のことを
「魅力のない街」だと思っていたんです。

お米の産地ではあるけれども
とりたてて有名な農作物も、なかったですし。
糸井
「何でも2番」って言われてたって‥‥。
藤田
そうなんです。

優等生なんだけども、器用貧乏みたいな街で
「いいところねえなあ」と思ってました。

でも、たのしんでくれている人たちの顔を
見ていたら
「そんなことないじゃん、ぜんぜん」って。
糸井
お客さんに、教えてもらうんだよね。
藤田
そうなんです。

畑でダイコン引っこ抜いてかじって食うなんて
自分らにとっては「ふつう」のことも、
お客さまにとっては、そうじゃなかったんです。
糸井
つまり「コンテンツ」だったわけだ。
藤田
「みんな、こんなにも好奇心を持って、
 驚いてくれるのか!」

そのことを知ったら、
「じゃあ、次にこの人たちが来てくれたとき、
 もっともっとたのしんで、
 もっともっとおどろいてもらうには
 どうしたらいいだろう?」
みたいなことを、
ぐるぐる考えるようになったんですよ。
糸井
いやあ、いいですね。

藤田さんがすごくたのしそうに話すところが
なにより、いい。
藤田
はい。

もちろん、いろいろ難しいこともありますが
ひとつだけ言えるのは
「いままでの人生のなかで
 いまが、いちばんおもしろい」ってことで。
糸井
おもしろいですか。
藤田
おもしろいですね。

震災後1年目、2年目なんかは
「このあと、
 この郡山で農業を続けていくためには
 どうしたらいいだろう」
みたいなことを、ずっと考えてましたが
いまはもう、
「どうやったら、自分たちがたのしんで、
 どうやったら、
 みんながたのしいと思ってくれて、
 どうやったら、
 もっとみんなが集ってくれるだろう?」
そんなことばっかり、考えてます。
糸井
藤田さんの顔を見てたら
強がりじゃなく、そう言えてるのがわかる。
藤田
はい、無理なく言えるんです。
本当に、いまが、いちばん、たのしいって。

<つづきます>

2015-03-27-FRI

copyright HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN