HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

その4

藤野さんの会社と「ほぼ日」の共通項。

人とのつきあい方もそうですが、
大げさに言えば、世界をどう認識するのか。
それがすごく大事ですよね。
経済でもそうだし、会社でもそうです。
それは一つの生き物なんですね。
巨大な生き物をどう把握するか、認識するか。
会社にはいろんな人たちがいますよね。
例えば東京糸井重里事務所は
糸井重里さんというすごい人がいて、
この人がビジョンとミッションを決めているから
相当、影響が大きいわけです。
でも、糸井重里さんだけで
会社が回っているのかって言うと、そうじゃない。
この会社を理解するためには、
乗組員の人と会って話をして、
まさに右を見たり左を見たり
下を見たりひっくり返しながら
会社の形を想像していくというのがすごく大切です。

まさしく「立体的に物を見る」ですね。
株式投資も同じですか?

はい。株式投資って、
価値の見極めが一番難しいんです。
これは価値があるものなんだろうか、
価値がないものなんだろうか、
壊れやすいものなのか、
そもそも壊れるのかどうなのか。
多くの人は株式投資というと、
動いている株価に乗るサーフィンだと思っています。
そう思っている人たちが
投資をサーフィンにしているんですよね。
また、投資を悪だと思っている人もいます。
その人の心の中に投資が悪だという世界観がある。
悪は、その人の心の中そのものなんです。
怖いと思っている場合も同じです。
サーフィンも、悪も、怖いも、
その人の認識している世界観であって、
それが正しいかどうかっていうことは、
また別の話です。

投資の話であり、
自分の話のようにも聞こえます。

そうですよね、それは投資に限りません。
あらゆるものに対する見方というのは、
あらゆる人があらゆる考えの中で見ているので、
まず立体的に価値を見るということからスタートします。

その認識、認知ができたら、たとえばその後に
投資をするかどうかという判断も、
すぐにできるようになるんですよ。
あとは全部細かいテクニックの話なので。

だから『投資バカの思考法』で伝えたいのは
投資のことでもあるけれども、
価値を把握するってことについてなんです。

まさに恋愛っていう話もありましたが、
男性だったり女性だったり、
会社だったりチームだったりっていうところを
把握していく技術です。
これは専門性の高い本ではなく、
一般書としてつくりましたから、
普通の人たちが、投資的考え方を身につけることによって、
世界を把握していくという
「把握の技術」ができたらいいんじゃないかな、
ということが大きいんです。

この本はふだんの自分の考え方に役立つことが多いです。
そして、「投資」に興味がない私でも、
ちょっとやってみようという気になりました。
というのも、この本で藤野さんは、
「未来」を考えておられるじゃないですか。
藤野さんがイメージする未来がおもしろそうでしたし、
未来をつくる方法のひとつに投資があるんだ、
ということもおどろきでした。

利益を得ることも投資の醍醐味ですが、
もっと大切なのは、
『世の中を良くして、明るい未来をつくる』ことです。
投資とは、その会社と一緒に、未来を支え、
未来をつくる作業をともにすることだと、
私は確信しています。

(『投資バカの思考法』より。)

それで‥‥じつは「ひふみ投信」の
資料を取り寄せたんですが、
専門用語が難しくて、
途中でつまづいて放置中です。
たぶん、この手のものとしてはかなり分かりやすく、
文字も大きく印字されていて、
読んでほしいという熱意も伝わってくるんですけど、
なにせこういったものは読みなれていなくて‥‥。
これが「ほぼ日」にあるような説明文だったら
つまづかないのになあ、と思いました。

難しいですよね。わかります。
いい指摘をありがとうございます。
じつは、僕らが今会社で
ベンチマーク(指標に)しているのは
「ほぼ日」なんですよ。

ええっ?

僕らは金融業界の「ほぼ日」に
なりたいなという目標があるんです。
大手の会社にはすごく大きな看板があるんですよ。
その看板をテレビコマーシャルで伝えることで、
みんなに認知してもらって、信用や信頼をつくり、
ブランドをつくるわけですね。
各支店の人たちはそのブランド価値を背景に
金融商品を売りに行くんです。
もちろん僕らはそれを否定しているわけではありません。
彼らは彼らでいい。けれども僕らがやりたいことは、
投資文化を伝えることなんです。
それが僕らの主商品だと思っていて、
いわば「ひふみ投信」はおまけなんです。

たしかに僕らの収益のほとんどは
「ひふみ投信」から来るんですが、
投資文化を伝えるために、
今日こうしてお話をさせていただいているのもそうだし、
本を書いたり、ブログとかFacebookとかTwitterで
いろいろ伝えることが主業務だと考えています。
そこでは広告も取ってないし、売上はゼロです。

「ひふみ投信」はおまけなんだけれど、
そこには僕らの考え方を反映して、
日々改善し、中をブラッシュアップしています。
その売上が僕らの収入なんですよね。
だから「ほぼ日刊イトイ新聞」と
「ほぼ日手帳」の関係みたいなところがあって。
「ほぼ日」も、やっぱりある文化とかある考え方、
生き方みたいなのを伝えるのが主業務ですよね。
商品にその考え方がリンクしているから
成り立っているんです。
だから「ほぼ日」は商品をディスカウントしないし、
安さでも全然売っていない。
むしろ生き方というか考え方、
楽しい生活や自分にとってハッピーなこと、
快適なことというライフスタイルを提案している。
そのひとつのパッケージが「ほぼ日手帳」であり、
それが「ほぼ日」とすごくリンクしているという、
僕にはそういう世界観に見えています。

ありがとうございます!

これまで多くの銀行や証券会社が
金融商品を販売してきました。
でも、投資の楽しさとかワクワクさっていうことを
どの銀行や証券会社も伝えていないんですね。
多くの人が、投資が楽しいものだと思っていないのは、
誰もそういうことを伝えてこなかったからです。
これは本来大手がやるべき仕事だけれど、
大手というのは「これ、儲かりますよ」だけ。
それは未来永劫とは言わないけれど、
しばらく変わらないでしょう。
だったら、僕らがやりますということです。

じつは変化もあるんですよ。
世の中の流れがだんだん
投資ってやっぱり文化だよねとか
もっと長期でやらなきゃいけないよねという
流れになってきたので、
金融庁の人たちにも変化があらわれました。
今までは規制に対して
法律違反をしていないかを見張ることが重要でしたが、
最近では投資ということのそもそもの考え方を
長期投資という観点の中でちゃんと伝えているか、
ということが大事だと。

ですから各金融機関は戸惑っているんですよ。
だって今まで金融商品を売る仕事だと思っていたのが、
文化を伝えるって? みたいなことになって、
どうやって伝えたらいいのだろうかと。
銀行マンも証券マンも
株式投資の意味とか価値を、本当には知りません。
そんな中で、僕らは地方の銀行に行って、
投資の文化を伝えることが僕らの主業務だから
僕らはそれをやります、タダでやりますと。
タダでやるから、もし気に入ってくれたら
ひふみ投信を置いてください、というやり方で、
僕らは、事業を拡大しているところです。

それは先方にもうれしい話なんじゃないですか。

ほかにそんなことを言う会社もないから、
とても喜んでもらえますよ。
「困ってたんです、ぜひ楽しく
 投資文化を伝えてください」と。
そうすると、初めて投資の楽しさ分かりましたとか、
株式投資の価値が分かりましたという声が聞こえてきます。
「いやいや、そんなことないでしょう。
 投資って金儲けの道具だし、汚いものだよ」
っていうことを言っていた人にも、
だんだんと伝わっていきます。

そういう意味で、僕らの主業務は
「投資文化を伝えること」なんですよ。
だから「ほぼ日」さんと
似ているんじゃないかなって思うんです。
タオルとか売っているけど別にタオル屋さんでもない。
ではなぜタオルを売っているのかというと、
売りたいものはタオルではなく、
「使いやすくてかわいいタオルのある生活」なわけです。
最近言われている陳腐な言葉でいうと
「ブランド価値から体験価値へ」ですね。

大きなブランドに対して多くの人が
「ちょっと眉唾だね」と思い始めている。
いや、信じてはいるんだけれど、
「大きい看板なら安心だ」と
100%は信じてはいません。
10%ぐらいそうじゃないかもしれないねって
思っているんですね。
それよりも隣のおじさんとかお姉さんとか
自分の息子とか娘が言った良いもののほうを
信じるというふうになってきている。
だから、「ひふみ投信」で体験をしてもらって、
それで1万円とか2万円とかの規模で積み立てを始めて、
そのひふみ体験が、ちょっとほかの金融商品と違うね、
と思ってもらえたら、
それをほかの人に一言二言伝えてほしい。
そこで少しずつ伸びていくというのが
僕らの基本的な戦略なんです。
ライバルの人たちには、
まねても絶対追いつけないという自負があります。
売り方とか販売の仕方というところがそもそも全然違って、
僕らの主商品はそこではないからです。

藤野英人(ふじのひでと)

1966年富山県生まれ。
早稲田大学卒業後、野村證券株式会社、
JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー、
ゴールドマン・サックス系の資産運用会社を経て、
2003年にレオス・キャピタルワークス株式会社を創業。
代表取締役社長・最高運用責任者(CIO)として、
成長する日本株に投資する「ひふみ投信」を運用し、
高い成績を上げ続けている。
明治大学商学部の講師も長年務めている。
現在、WEB版の「現代ビジネス」「cakes」にて
コラムを連載中。
著書は、
糸井重里が読んで
「非常におもしろかった」と社内にすすめた
「投資家が「お金」よりも大切にしていること」をはじめ、
「儲かる会社、つぶれる会社の法則」
「起業」の歩き方」など多数ある。