HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

その2

「好き」のもたらすものは、すごいのだ。

例えばこの会社とこの会社は
合うんじゃないかな、と思って、
社長同士を取り持つことを
僕は、よく、するんですよ。
そうすると、すごく仲良くなったってケースが多くて。
それが男女だったら恋愛になるということなんでしょう。

藤野さんは、どうして「合う」って
「わかる」んでしょうか。

価値観は一緒なんだけれど、
お互いにないものを持っていて、
お互いを埋め合うような関係だということですね。
フィーリングが一緒で、ケミストリーが一緒で、
お互いが破(わ)れ鍋に綴(と)じ蓋みたいな関係です。
そういう二人は競争をせず、協力的関係になるんです。
お互いが強いとか、強みや弱みが一緒だったりすると、
なかなかくっつきにくいんです。
いや、フィーリングとケミストリーが合えば
ひとまずくっつくんだけど、
実際にものとして結合しないというところがある。
でも、形としてデコとボコになっていると
強い合致ができることがあるんですね。

それが会社同士でも、人でも?

はい、会社もすごくよく見ていますし、
そうやって紹介していくとうまくいくような気がします。
かつ、これは、この「ツイピの会」の場合ですが、
個別に紹介しているわけじゃなくて、
ケミストリーがめっちゃ合う人たちだけを
ガシャッと集めたら、結果的にその中で
お互いに自由運動をすることによって、
お互いの破れ鍋と綴じ蓋を探し始めた、ということです。
結果的に結合しやすいものは結合した、
‥‥みたいなことになったのかな。

趣味の話を聞いてくれる人がいるだけで
うれしいですものね。
「聞く」って大事なんですねえ。

そうなんですよ。
根本的に人はどういう人を好きになるかっていうと、
話を聞いてくれる人が好きなんです。
ぼくの仕事は「投資信託」ですが、
何をするかというと、
まずは会社について知ることから始まるんですね。
だからインタビューをするんですよ。
そのときすごく大事なことは何かというと、
「ものすごく聞く」ことです。
偉い人やすごい人と話をするとき、
自分が気の利いたことを
言わなきゃいけないんじゃないかとか、
自分は果たしてその人に会うにふさわしい人間なのかとか、
そんなことをよく思うわけですよね。
でも、そんなことは実はどうでもよくて、
相手の話を気持ちよく聞いてくれた人を
人は好きになるんです。
ほとんど、そうです。

そうですよね!

話をたくさんしてくれる人よりも
自分の話をめっちゃ聞いてくれる人のほうが好きでしょう?
つまり自分に関心を持ってくれる人です。
この本『投資バカの思考法』でも書いているんですが、
人とうまくいく大きな方法のひとつは
「関心を向ける」ことだと思うんですよね。

好きとか嫌いとかいう感情はもちろん大事ですし、
尊敬している・していないというのもあるけれど、
「関心を向ける」というのは純粋な興味であり、
上下の目線ではなく、
詮索することでもありません。
深くあなたのことを知りたいんだよ、
というような気持ちがあれば、
絶対に相手は心を開いてくれます。

例えば僕と同じ職業である
ファンドマネージャーやアナリストの人を見ていると、
辛らつな質問をバンバンしてくる記者やインタビュアーと
不思議に仲がよくなることもあるし、
めっちゃ腹が立つ、もうあいつとは二度と会いたくない、
ということもあるわけです。
その背景というのは、多分そこのマインドにあって、
「この人は僕のことを知りたいんだな」
ということの中に、
ちょっときつい質問が入っているぶんには、
割と平気で話すものです。

もしくは、あなたの問題を僕は解決したいとか、
あなたのことをよく知ることによって、
問題を共有して何かできないかなというのがあれば、
すばらしいコンサルタントやすばらしい精神科医に、
患者さんが思わず話してしまうような感じで
言葉が出てくるんですよ。
興味を持つ、関心を持つということが、
実は多くの人を救うんですよね。
それってすごく大切なことだと思います。

なるほど‥‥。

逆にどういう人を人は嫌いなのかっていうと、
自分に関心を持たない人です。
無視するとか、いないかのごとく扱う人に対しては、
人は嫌悪するんだと思うんです。

「人の話を聞く」とき、
「その人に関心を持つ」とき、
藤野さんの趣味の幅の広さというのも、
とても力になっているように思います。

そうですね、僕はいろんなことを知りたいです。
もちろん、好きなもの、好きなタイプ、好きな考え方、
好きな人、好きな形、好きな色はあるんですけど、
物事の個性や違いそのものが、とても好きなんです。
ものには個性があるわけですよ。
なぜここはこんなに大きいんだろう、
なんで小さいんだろう、
なんでこんな色をしているんだろう。
同じ日本人の男性といっても
年齢も違うし家庭環境も違う。
女性でもそうですよね。
本当にもう姿かたちから考え方までまったく違う。

その違いを楽しみにするというか。
だから、意地悪な人に対しても、
この人はなぜ意地悪なんだろうか、
面白いなぁ、って考えます。
この人はなぜしゃべらないんだろう、
この人はなぜすごくしゃべるんだろう、
この人はなぜ優しいんだろう、というのも同じです。
あるいはこの人はなぜあるときに意地悪になって
ある人には優しいんだろう、
どうして変化をするんだろう、とか。
僕がいろんな人とコミュニケーションをしやすいのは、
僕自身がそういう関心を
持っているからなんだと思うんですね。

そんなふうにどんどん興味が出てくるんですね。

そうなんです。
じゃあ、どうやって興味を持てばいいのかっていうのは
なかなかアドバイスしにくいところで、
なぜかっていうと、僕は、わき上がるように
興味が出てくるタイプなので‥‥。

子どものころからですか?

子どものころからそうです。
だから投資にしても、
「儲けたい」っていうこと以上に
「知りたい」っていう動機が、すごくあるんですよ。
逆に言うと、
「知らない」っていうことが恐怖なんです。
「知らない男がそこから覗いている」
と聞いた瞬間に、不気味な感じがするし、
「知らない女が玄関に立っていた」と聞くと、
ちょっとぞっとしますよね。
でも、知っている男が玄関に立っていたなら、
早く入ればいいのにみたいな話で、
怖さがなくなりますよね。
ということは、知らないものを減らすと
世界から恐怖が消え、理解が増えていくはずなんです。
多くのものごとは「知らないから嫌い」なんです。

例えば外国人の友だちができると、
その国に対して、随分と理解が変わります。
ということは、「知る」っていう状態を
たくさんつくればつくるほど幸せが増える。
知ることによって、怒りや不安が減り、
楽しみと興味・関心が増えるということになるんですよ。
だから、やっぱり関心を向けるということが
人生の強い武器になると思います。

でも、少しずつでもいろいろなところに関心を向けなさい、
といってもできないものですよね。
だったらまず好きなものにもっと関心を向ける。
自分の好きな人とか好きな会社とか好きなものに。
関心を向ければ向けるほど
そこに対する専門性が高まるし、つらさがなくなります。
それに、専門性が高まれば競争力も増します。
だから、いかに「知る」か、そしてできれば
「好き」な状態のほうがよりパイプがつながります。

「好き」!

そうなんです。まず「知らない」っていうのは
パイプがつながっていない状態なので、
知らないものから情報が来ることはあまりありません。
いっぽう、好きな人からの情報というのは
どんどん入るわけです。
嫌いな人からの情報って入らないでしょう?
心が閉じていますからね。
だから、例えば今うちの会社には
調査をするアナリストが7名いるんですが、
彼らがいろんなところで仕入れた知識や情報を、
帰ってきたら「はい、プラグ」とか言ってね、
ガシャッとやってデータをシューッと取り込んで、
傍観できたらいいなってよく思うんですね。

(笑)

思いません? 頭の中の情報や今考えていることが
ピューッとコンピューターに入って
文字になったらいいなと。
楽ちんじゃないですか。
でも、それはできないんですよね。
まあ、人間の情報って、
実は脳が電波でやり取りしていますから、
いずれできるようになるような気もするけれど、
今はできません。
そうすると、情報を伝えるためには、
根本的には二つの方法しかないんです。
書くか、もしくは、空気を震わす、
要するに音で伝えるしかないわけです。
書いて共有するか、しゃべって共有するかです。

はい。

僕らも、もちろん書いてしゃべって共有するんだけれども、
それ以上に重要なことは何か。
実は人と人とのコミュニケーションにおいて、
嫌いという人と好きという人では、
人をつなぐ土管みたいなものの太さが違うんですよ。

好きな人とは太い土管がつながっているんで、
情報のやり取りがしやすい。
嫌いな人って土管が細いから、
嫌いな人からの情報は、
──もちろんプロは好き嫌いで
判断しちゃいけないんだけれども──
なかなか情報が入りにくいんです。
だから、ものすごく大事なことは、
仲良くなることなんですね。
うちの7人のアナリストも、
お互いを好きになればなるほど
情報量が増え伝達が速くなる。
どれだけ文書化しようが、そんな形式的なことでは、
好きが少なかったら、情報って伝わらないです。

だから、僕らは、採用するときに、
「あの人大好き!」
っていう人を採用することが
絶対的な条件です。
もちろん多様性というのがあって、
好き嫌いいろいろあってもいい、
という考え方もあるけれど、
でも、世の中の多くの人はそんなに大人じゃないから、
嫌いな人を排除するものです。

僕はなるべく好きな状態を増やしたいな。
そうすると、心の土管が大きくなる。
ブロードバンドかナローバンドかっていうことです。
人間間の情報をよりブロードバンド化する、
太い土管で接続すると、どんどん情報が伝わるんですよ。
だから好きな人と好きな仕事をするというのが、
原則だなと思っているんです。
これまでにいろいろあって、たくさん学んで、
今考えているのはそういうことです。
もう、これしかないと。

藤野英人(ふじのひでと)

1966年富山県生まれ。
早稲田大学卒業後、野村證券株式会社、
JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー、
ゴールドマン・サックス系の資産運用会社を経て、
2003年にレオス・キャピタルワークス株式会社を創業。
代表取締役社長・最高運用責任者(CIO)として、
成長する日本株に投資する「ひふみ投信」を運用し、
高い成績を上げ続けている。
明治大学商学部の講師も長年務めている。
現在、WEB版の「現代ビジネス」「cakes」にて
コラムを連載中。
著書は、
糸井重里が読んで
「非常におもしろかった」と社内にすすめた
「投資家が「お金」よりも大切にしていること」をはじめ、
「儲かる会社、つぶれる会社の法則」
「起業」の歩き方」など多数ある。