第7回 投資のおもしろくて知的な部分。

藤野 さきほどもウェブサイトに顔写真があるかないか、
という話をしましたが、
インターネット社会になって、ぼくは
真面目に生きるしかない時代になったと思っています。
糸井 まさしく、そうですね。
藤野 ですので、経営者も嘘をつかずに、
真面目にやるしかないんです。
投資という世界においても、
嘘つきが排除されるしくみになってきていて、
すばらしいことだと思っています。
糸井 たしかに。
ただ、ちょっと過剰なまでに、
みんな品行方正になってますよね。
といっている自分がそうなんですけど(笑)。
藤野 そうなんですか?!
糸井 はい。
今ちょっと、全体的に過剰だなと思っています。
ふつうの、健康的な人間がもつ「汚れ」みたいなものを
どうやって身につけるのか、というところが‥‥。
映画を観るとか、ゲームをするとか、
エンターテインメントと接するという安全圏の中で
「汚れ」を身につけるしかなくなっている気がしますね。
藤野 ああ、わかります。
それでいうと、
ちょうどいいスライドがあったはず‥‥。
あ、あった、これだこれだ。

▲クリックすると、拡大されます。
糸井 会社と工場?
藤野 そうです。
絵の会社の中には、仕事をがんばっている人もいれば
寝ている人やタバコを吸ってサボっている人もいます。
会社って、汚いところもいっぱいあるんですよね。
糸井 ありますね。
藤野 みなさんも、
外出先から会社に戻るときに気が重くなって、
山手線を何周もしたり、
喫茶店に寄ったりしたこと、ありませんか?
それ、ふつうです。
ちっとも異常なんかじゃない。
でも、そういう自分もいるけれど、
死ぬほどがんばって仕事をした自分もいますよね。
みなさんが
いいところと悪いところを兼ね備えているように、
ぼくは、会社も両方もっていると思っています。
糸井 なぜなら、人間がそうだから。
藤野

人間がそうだから。
会社って、法人という「人」ですからね。
会社の価値は血と汗と涙だけじゃなくて、
サボり、ねたみ、うらみ、つらみとかね、
そういうものがごっちゃごちゃにあるんですよ。

そういうものを、ぐるっと回って、
まるごと美しいと思えるか。
ぼくが考える会社の美しさというのは、
悪いところがひとつもない完全無欠なものではなく、
そういう矛盾もすべて内包しているものだと
思っています。

糸井 いやぁ、おもしろいです。
藤野 すごくいい会社なんだけど、
短期的に言うと、
市場からは評価されていないこともあります。
だからこそ、ぼくらの会社は
成果を出すことができているんですね。
ぜんぶが正しい評価だったら、
どこにも儲ける余地はありません。
評価というのは必ず、ずれていたり、
上がったり下がったりするものですから。
糸井 その、藤野さんがおもしろいと思って
見ているところを、
多くの人が見ないでくれているおかげで、
飛び抜けていられるんですね。
藤野 そうですね。
ただ、今は評価されていなくても
いずれ価値観が顕在化していくことが重要なので、
その見極めがとても大切になります。
今は受け入れられていなくても、
いつかは受け入れられるはずだ、という。
糸井 今じゃないんだけど、という
タイミングの問題はありますよね。
藤野 ありますね。
たとえば、
今はもうメジャーになっている会社ですが、
ドン・キホーテってご存じですか。
糸井 ええ、もちろん。

藤野 ドン・キホーテが株式市場に出てきたときって
まだ6店舗くらいしかなくて、
多くのファンドマネージャーやアナリストは
低く評価したんですよ。
バッタもんみたいなモノばかり売っているし、
ごちゃごちゃしていてなんだかよくわからない、と。
糸井 そうなんですか。
藤野 まず、
日本のファンドマネージャーとかアナリストは、
ほかの国と比べると
同じような出身の人たちばかりなんですね。
一流の中学、高校、大学を卒業した
中流家庭で育った人という。
だから、ドン・キホーテのような店を見ると、
理解できないんですよ。
糸井 藤野さんはどう思ったんですか?
藤野 ぼくは、遊園地の一種だと思いました。
糸井 「遊園地」。
藤野 消費の場なんだけど、
同時に時間つぶしの場だと思ったんです。
夜に友達と行って遊んだりする、
わくわくするような場所。
あの店にはユニークなものがたくさんありますから。
ぼくがそのときに見たので言うと、
「等身大の聖徳太子の人形」。
一同 (笑)。
糸井 いらないね(笑)。
藤野 いらないですよね(笑)。
でもね、500円だったんです。
糸井 500円ですか。
藤野 500円なら、買ってもいいかなと思いますよね。
お店を経営している人だったら
一種のつかみとして、
お店の脇に置いておいてもいいわけで。
糸井 招き猫なら買いますもんね。
藤野 あと、震度5以上で大騒ぎをする「ナマズ君」という
警報機もありました。
糸井 震度5だったら、みんな起きちゃうよ(笑)。
藤野 でも、それが300円だったら
買っちゃうかもしれない。
糸井 ギャグとしてプレゼントすることもできますね。
藤野 そういう、
消費のエンターテインメントとしての需要があったので、
ぼくらはその価値観でドン・キホーテを
評価し直しました。
当時の株価はとても低かったのですが、
5年後には社会現象になるほど人がたくさん集まって、
売上も利益も伸びて、株価も大きく上昇しました。
糸井 まだ生まれていないけれど、
いずれ生まれるはずの価値を見越して、
投資をしたんですね。
藤野 はい。
これが投資のおもしろいところで、
知的な部分だと思います。

(つづきます。)

2014-05-22-THU

星海社新書 820円(税別)
Amazonでの購入はこちら。
20年以上プロの投資家として活躍されてきた
藤野英人さんが、
「お金の本質とはなにか」について考えた結果を
1冊にまとめた本です。
この本を読んだ糸井重里は、
「非常におもしろかったです」と社内にメール。
希望者を募って本を配りました。
糸井重里の
「これは、いい参考書です。」いうつぶやきは
この本の帯にもなりました。

「ほぼ日」の創刊12周年記念の特集で、
テーマは「お金」でした。
なぜ、お金について「あえて」取り上げるのかという
糸井重里のイントロダクションからはじまり、
芸術家の赤瀬川原平さんや、みうらじゅんさん、
日本マクドナルド会長の原田泳幸さんなどにうかがった
お金にまつわるお話をまとめています。

日本・台湾の実業家、作家の邱永漢さんの
2000年から2002年まで連載したコンテンツです。
「金儲けの神様」と呼ばれた邱さんが
お金や経済を中心に、人間、人生についても執筆。
全900回の連載になりました。

「もしもしQさんQさんよ」を連載していた
邱永漢さんと糸井重里との対談が、
同タイトルでPHP研究所から出版されました。
このコンテンツは、対談本の立ち読み版です。
本についてはこちらをご覧ください。

就職すること、はたらくことについて
あらためて考えたコンテンツ特集です。
ミュージシャンの矢沢永吉さんや
ディズニーの塚越隆行さん、
マンガ家のしりあがり寿さんなど、
さまざまな職業や肩書きの方に話をきいたり、
読者にアンケートしてもらったりしました。