第1回 ニッポン、遅れてる!?

みなさん、はじめまして。
ファンドマネージャーの藤野英人です。

これから「投資で未来を創ろう」という話を
していくのですが、
持ち時間は1時間だというのに
実は、持ってきたスライドは5時間コースで‥‥(笑)。

(笑)

今日は時間が限られていますので、
ぼくがほんとうに大事だと思っているところだけ
抜粋してお話していきます。

まず、投資について、
いちばん最初にお伝えしておきたいことがあります。
それは、

「株式投資をすることは、
 おしゃれで、知的で、かっこいい社会貢献」

だということです。

違和感がありますか?
そう、今、ぼくが言ったことは、
みなさんがふだんもっているイメージとは
真逆の内容ではないでしょうか。

「株式投資は、
 投資家が私腹を肥やすために行うものなので、
 おしゃれだったり、かっこいいものではない。
 また、株で稼いだお金は汚いもので、
 うしろめたい思いがつきまとうもの。
 株は私欲の塊なのだから、
 社会貢献になっているわけがない!」
そういうふうに感じた人もいらっしゃるでしょう。

今日の講義を聴いていただき、
「そういう考え方もあるんだな」
ということだけでも思っていただけたら、うれしいです。

さて、これからみなさんに
3つの経済クイズを出します。
ちょっと、頭の中で考えてみてください。

いかがでしょう。
想像していただけましたか?

この問題は、数年前、
日本とアメリカの高校生、大学生を対象に
行われた経済テストの一部です。
学生がもつ経済の知識の差を調べるために、
偏差値が高い学校から、
不良校とよばれる学校まで幅広く協力を仰ぎ、
計50問の経済クイズを解いてもらいました。

では、順に答えを発表していきましょう。

Q1の答えは、③。

「生産資源」とみなしていいのは、
自動車会社の生産機械です。
この問題、アメリカでは80%の人が正解しました。
日本はというと、正答率はたったの16.5%。
44%ともっとも多くの日本人が選んだのは、
「④ 銀行に預けられているお金」なんですね。

Q2は、②が正解。

「経済における起業家(企業家)の役割」は
「創業に伴うリスクを負うこと」です。
この問いの正答率は、
アメリカが90%で、日本が36%でした。
日本の学生がいちばん間違えたのは、
「③ 会社の株式を売買すること」でした。
株式を売買することが起業家の役割だというふうに
考えた人がいちばん多かったと。

Q3の答えは、③です。

「どのような経済システムでも
人々が答えをださなければいけない問題」とは、
「財・サービスをどのように生産しているか」なんですね。
これには、アメリカは80%、日本は30%の人が正解しました。
いちばん間違いの多かった日本の学生の回答は、
「② 労働者の最低賃金の額はいくらか」でした。

この調査では、50問中ほとんどの質問で
アメリカのほうが正答率が高く、
日本のほうが低いという結果になりました。
この結果は、決して
日本人の知能レベルが低いということではありません。
これが数学や国語のテストだと、
むしろ日本のほうが成績はよくなります。
ただし経済については、今見ていただいたとおり、
アメリカとの知識の差は深刻なものになっています。

どうしてこんなにも差があるのかというと、
アメリカの80%の州では、
経済が義務教育に含まれているんですね。
アメリカ人は成長するごとに
経済の知識が増えていくような
教育システムになっている。
ところが、日本では高校や大学でも
ほとんど経済を学ぶことがないので、
経済の知識レベルは中学生から社会人まで、
ほとんど変わらないのです。

ですので、さきほどのテストのように、
日本が経済の知識で劣っているように見えるのには、
そもそも経済の勉強をしていない、という背景があります。

日本は「経済大国」といわれますが、
実は、日本人は、経済に対する知識が
ほとんどないんですね。

もちろん、経済を学んだからといって、
お金持ちになれるわけではありません。
もしそうだったら、
経済学の教授はみなさんお金持ちなはずですから。
経済の知識の有無は、
お金持ちになるかどうかには関係ありません。
ぼくら日本人にとって問題なのは、
経済的体験の欠如なんです。

経済的体験とは、
はたらいてお金を得るよろこびとか、
はたらくことのすばらしさを実感することです。
たとえば、商店街での買い物を思い出してみてください。
20~30年前は、まだ全国的に商店街が活発で
コンビニもそれほど普及していませんでした。
そのころ、物というのは
店員とお客さんが対面して話し合うことで
価格が決められていました。
こう、商店街の魚屋の店先で、
「ねえ、この魚まけてよ」
「えーまいったぁ。ちょっとだけですよぅ」
「わー、ありがとう。じゃ、これお金ね」
「まいどどうも! またお願いします!」
というようなやりとりが、日常的にあったわけです。

今では、ほとんど見かけない光景ですよね。
物の値段は値札にきちんと書いてあって、
お店にぼられるという心配もない。
そこには、うそをつかず、
真面目に物を売ってくれるという信用があります。
日本は、安心して買い物ができる社会になったんですね。

ところが、
そういう社会になったことでの弊害もあります。
人々が、サービスを受けて当然、
物を売ってくれるのは当然という考え方になり、
黙ってレジに物を置いて
淡々とお金を払うだけという人がとても多くなったことです。

みなさんは、コンビニで
「これください」とか「ありがとう」と言いますか?
売ってくれて「ありがとう」。
買ってくれて「ありがとう」。
そうあるべきだと、ぼくは思います。

いくら社会がよくなっても、
売買という行為が等価交換であることは
変わりませんから。

このような経済的体験が、
今の世の中には極端に少ないことが問題なんです。
(つづきます。)

2014-05-14-WED

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なぜ、お金について「あえて」取り上げるのかという
糸井重里のイントロダクションからはじまり、
芸術家の赤瀬川原平さんや、みうらじゅんさん、
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就職すること、はたらくことについて
あらためて考えたコンテンツ特集です。
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マンガ家のしりあがり寿さんなど、
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