BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。


売る言葉に買う言葉
(全4回)

第1回 「詩人」「歌人」は職業か

第2回
発見の「安売り王」

糸井 谷川さんの場合、頼まれて書いてはいるけれど、
イヤだったらやらないわけですよね。
谷川 もちろんそうです。
糸井 あのときは引き受けたけど、
今は書きたくないってこと、いっぱいありますよね。
だけど書き始めたら面白くなっちゃった、
ということが自分を支えてきたというか。
あれ何でしょうねえ……。
谷川さんの作品だって、全部頼まれたとはいうものの、
自発的につくったのと結果的には同じなんだから。
谷川 同じなんですよ。
自発的につくったものより
頼まれたもののほうがいいってことは、
しょっちゅうあります。
それと、注文されて原稿料をもらうということで
すごく責任を感じてたから、
最初から人さまのために
お役に立ちたいみたいなのがすごくあって。
ただ、そのことで僕はずいぶん軽蔑されていたんですよ。
詩人の風上にも置けないと言われて。
枡野 詩人をやって、それを生活の糧にする人は
あまりいなかったでしょう。
谷川 結果的にそうしてた人は、
三好達治さんや草野心平さんとか、いたんですよ。
だけどその後は、たとえば
音楽や広告業界のほうが金になるからと、
本来、詩人であるべき人が
そちらに流れていったというのはありますね。
僕は生活の糧として詩を書いてきたという意識が
すごく強いけど、それだけじゃなく、
雑文とか翻訳、脚本とか、
いろいろなことをしてやっと食えてきたという感じです。
糸井 でも堂々と、
「生活のために詩を書いてきた」
と言える人って、そんなにいないですね。
隠さざるを得なかった。
「生活の糧だ」
と言ったとき、
「じゃあ、金が価値か」
と取り違えられる。
谷川 そうそう。
憎まれますよ、そういうこと言うと。
糸井 でも金だけではないし。
じゃあ「生活」って何だろうと、
その延長線上を見ると、生きること自体ですよね。
つまり生きること自体の価値を
本当は求めているわけで、
何らやましいことはないのに、
途中のところで思考停止して、
批判したりする人が現われると、
何で書くのかという意味が全部失われて、
生きている面白さもなくなっちゃう。
だけど、「生活の糧」でも「働きたくない」でも、
どんどん言っちゃっていいと思う。
その上で、じゃあ、何でやってきたかというと、
「たまに面白かったからだよ」
ってね。
枡野 その、たまに面白いというのが貴重なんですよね。
谷川 書き始めるうちに、思いがけない楽しさを見つけたり。
糸井 読者カード一枚でも、
谷川さんを幸せにしたりすることあるでしょう。
谷川 感動したのありますよ、
もう一生幸せというくらい。
糸井 ねえ……。
ところで、枡野君の作品を読んだら、
「あっ、それやってたのね、きみ」
という言葉をポロポロ生み出してて、
僕はその卵の産み方が小気味よかったんですね。
谷川さんも僕にとってはそういう方ですけど、
逆に谷川さんが他人の産んでる卵を見て、
「ああーっ」
って思うことはあるんですか。
谷川 あまり人のものは見ないんですよ。
でも宇多田ヒカルさんの
『Automatic』というのには、
ちょっと感心しましたね。
たまたま知ってるバンドの人に教えられて、
聴きながら歌詞カード見たら、
女の恋愛をすごくうまく書いていると思って。
糸井 僕もこのあいだ彼女の書いた文章を見たんですけど、
いいカンしてますよね。
勉強しない子の、
なおかつやればできちゃう子のいい感じがある。
谷川 僕、歌詞というのは、
フォークの頃からずっと気になってて、
友部正人という人の歌詞は、
普通の現代詩よりずっと面白いと思ってたし、
矢野顕子さんもそうですね。
枡野 ああ。そういうところも見てらっしゃるんですか。
谷川 読むんだったら、詩集よりも
他のものを読んだほうが楽しいというのは
昔からずっとあるんです。
たとえば糸井さんもお好きな
ミラン・クンデラの小説とか。
とくに、彼の詩に対する悪口が好きでね。
もともと詩人で、
詩がイヤになって小説家になった人なんですよ。
僕もどっちかというと詩が好きじゃないから、
こてんぱんにやられてると、その通り、
ごめんなさいみたいな感じになって、小気味いい。
枡野 詩がお好きじゃないとおっしゃったけど、
いわゆる詩人のかたのやり方って、
言葉の関節をはずして
意味をわからなくさせるっていうのが
けっこう狙いだったするじゃないですか。
谷川 そういう手法があったもんね。
枡野 でも一般の人が読むとむしろ混乱するだけで、
発見もないし、あまり楽しくない。
意味をわかりにくくしたからって、
元にたいした意味があるわけじゃないし。
わかりやすく書いて、
意味が深いものを読みたいと思うんです。
糸井 だけど、もともとの発見の数ってタカが知れてるから、
そんなにしょっちゅうはできないんだと思う。
枡野 できない、きっと。
糸井 谷川さんは、その発見が山ほどあるんじゃないですか。
頭の中はものすごく働き者なんだと思いますよ。
谷川 以前糸井さんにほめられて嬉しかったのは、
「安売り王」と言われたことね。
糸井 僕が名づけた「三大安売り王」は、
吉本隆明、橋本治、谷川俊太郎。
値段、場所に関係なく、
取っては出し、取っては出し。(笑)
枡野 僕は詩を読んで
「これは素晴らしい」と思ったら、
一篇が本一冊の値段と同じであっても
いいと思うんですよ。
糸井 そう。
「すごいじゃない」と言うんなら、
金払えよってね。
枡野 この詩一つあれば、
何年も過ごせるというものがあるでしょう。
いつもいつも取り出して読むとか、
何かというとよみがえってくるというような。
谷川 古典なんか、そうですね。
枡野 そういうものだったら、
本当にお金を払いたくなる。
だけど、そういうことでは流通しないし……。
僕の出した歌集はめちゃめちゃ字がデカくて、
見開きで歌一つなんです。
自分ではぜんぜんうしろめたくないんですけど、
まわりからは、さんざんに言われました。
糸井 だから僕は、
切手を発行すべきだと思うんですよ。
谷川 切手?
糸井 小さな切手に詩が書いてあって、
一枚千円のもあるし、二万円のもある。
枡野 詩によって値段が違う。
谷川 虫眼鏡で読むような……。
いいけど郵便局に持っていくと、どうなるの?
糸井 郵便としては使えないの。(笑)
枡野 でも、その詩が好きな人は買ってずっと楽しめるし、
詩人も潤うんですね。
つくってほしいなあ、
僕の短歌で。

第3回 「何だ、これは!」を求めて

第4回 エネルギーを読む

2000-05-25-THU

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