怪・その30

「大綱の上の先生」



今からもう30年以上前の話です。

当時、私の通っていた高校には
陶芸のコースがありました。

私は器を作る面白さにのめり込んでいて、
家に居ても、遊びに行っても、器を作りたい!
そればかり考えていました。

ある日、下校し夕飯を済ました私は、
ろくろを挽きたい!
という気持ちに居ても立ってもいられず、
暗くなった夜道を自転車で学校に向かいました。
その当時教室は夜も開いていたので、
入って製作しても大丈夫だったのです。

私の高校は、元は処刑場があったと言われており、
幽霊が出るとの噂も多々ありました。

校舎は、校門から200メートル近くも下った、
街灯がないと真っ暗闇の谷底に建っていました。

自分の発する音以外は
シーンとして静まり返った校舎。
私は陶芸室で、
一人夢中でろくろを挽いていました。

途中、俯いて集中している私の直ぐ前に、
誰かが立って見ている気配を感じました。

息遣いも感じるほどに‥‥。

今じゃ考えられませんが、
当時の私は余りにも夢中になり過ぎて
そんな事は気にならなかったのです。

ある程度作業をして
帰ろうと教室から中庭に出る時、

4メートル程先に
男の人が立っているのが見えました。

その人が立っている場所は、
釉薬を作る際に使う大綱が積まれている所でした。

綱の上を、
背を向けた男性が
ゆっくりと踏み締めながら歩いていくのです。

私は直ぐに警備員の方ではなく、
当時受けもっていただいていた
陶芸の先生だと思いました。

それ程、誰かはっきりと分かるぐらいの
後ろ姿だったのです。

私が「先生!」と呼ぶと、
あんなにはっきりと鮮明に見えていたのに
目の前でフッと消えたのです。
すぐ目の前で‥‥。

「!?」

その途端、今まで感じた事がない様な、
ゾーーー!!!
全身に鳥肌が立ったまま、
真っ暗闇の谷底から上り坂を
必死に自転車で漕ぎ帰りました。

そのことがあってから、
二度と一人では陶芸室には行きませんでした。

あの当時、
担当の先生はとてもお元気だったんですが、
私が卒業して二年程経った頃、
急に亡くなられました。
年齢もまだお若かったので
驚いたのを覚えています。

(y)

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2023-08-22-TUE