怪・その21

「そういう写真」



あれは大学1年の夏休みのことでした。
当時仲が良かった友達と2人で、
とある温泉へ泊まりに行くことにしました。

車で向かったのですが、とても遠く、
着いたのは夕方でした。
ヒグラシの音と、暑い空気感を覚えています。
田舎の風景から、温泉に近づくにつれて
昭和に栄えたような廃墟や、
古びた温泉街が見えてきて、
温泉に来たな、とワクワクしました。

宿に着き、昭和初期に建てられたような、
とても大きく古い建物に、少し圧倒されました。

かつては、さぞ豪華で賑わったのでしょう。
部屋は、一階の廊下を
ずっと奥に進んだところにあり、
中はこれまた古い畳の和室でした。

夕方でしたが、
夏で外はまだ明るかったのに
部屋は電気をつけないと暗く、
カーテンを開けるとすぐ林が広がっており、
ちょっとした沢があったかと思います。

少し暗い雰囲気に、
当時はちょっとがっかりしていました。
学生なので、豪華な部屋には泊まれない。
部屋は仕方ないけど、
友達と楽しく過ごそう、と。

当時、写真にとてもハマっていて、
あえてフィルムカメラで撮ることが
ちょっとしたブームでした。
着くなり2人で、
交代に写真を撮ることにしました。

窓際で林を背景に、撮影しました。

なぜそこを背景にしたのか、
今でもよくわかりません。
なんとなくだったのか‥‥。

夜はご飯を食べ、温泉にも入り、
楽しく過ぎました。
ただ、2人ともなぜか
ほとんど寝付けませんでした。
なんとなく眠れず、
ゴロゴロして時を過ごして
朝を迎えました。

無事に帰宅した後、
数日経ってから近くの写真屋さんに
写真を現像しに行きました。

今思うと、渡された時、
お店のおじさんの渡す手や視線に、
なんとなく違和感があったような気がします。

家に着き、
1人でいそいそと
旅の写真をめくっていきました。

すると、あの、
林を背景にした写真が出てきました。

ん? モヤ? 煙?

背景の暗い林が、煙なんかなかったのに、
モヤがかかったように見えました。

いや、モヤじゃない。

その大きなモヤをよく見ると、
人の顔らしきものが大量に、
林の中に写っていたのです。

目も鼻も口も、なんとなくわかる。
人と認識できるくらいでした。
それが無数に、暗い林の中に写っていたのです。

それらの視線は、
ずべてこちらへ向かっているように見えました。

一瞬、凍りつきました。
アパートに1人でいたので、
怖くなり、飛び出し、
その友達に会いに向かいました。

そのまま、どこでもいいから、
近くの寺か神社!! としか考えられず、
飛び込みで近くのお寺さんへと向かいました。

御住職に見せると、

これは、そのようだね‥‥と。

写っている友達の方が危ないから、
しばらくお守りを
肌身離さず持つように、と。
お祓いをして、
友達も私も口数少なく
お寺をあとにしました。

それから、大学も卒業をして、
大きな事柄はありませんでした。
卒業して疎遠になりましたが、
今もその友達はどうしているかな、と
夏になると気になる時があります。

(m.k)

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2023-08-15-TUE