怪・その33

「覚えていますか?」



私の夫は神父です。
私たちは教会に隣接した家に住んでいます。

5年前のある朝、
隣で寝ていた夫が目を覚まし、
先ほどまで見ていた夢の話をしました。

Nさんが夢に出てきた。
一階の入口に立っていて、僕が
「久しぶりですね」
と声をかけたところ
「神父様、私のことを覚えていますか?」
と聞くから、
「もちろんですよ、Nさんさんですよね。」
と答えたんだ。
Nさんとは君の方が親しいでしょ? だから、
「2階に家内がいるから呼んできましょう。」
と言ったところで目が覚めたんだよね。

Nさんは80代のおばあさんで、
戦争でご主人を亡くした後、
女手一つで娘さんを育ててきた人です。
私とは20年来のお付き合いで、
お元気な頃は毎週土曜の夕方と
日曜の午前中のお祈りに来て
一緒に聖歌を歌ったりしました。

そそっかしいところがあって
よくバスの中で忘れ物をするので、
市内のお忘れ物預かり所は
全部知ってると言ってました。

Nさんはこの3年間は施設に入っていたので、
お顔を見ることはなかったのですが、
突然夢に出てきて「覚えてますか?」と聞くなんて、
そそっかしいNさんらしいねと
2人で話していたところに電話がかかってきました。

私たちは無言になりました。
もしかして‥‥。

朝一番の電話は、
信者さんが亡くなったというお知らせのことが多いのです。
夫が電話をとったところ、
やはりと言うべきか、Nさんの娘さんからで、
昨晩Nさんが亡くなったと言うことでした。

きっとNさんは施設に入ってから、
神父様は私のことを忘れていないか、
教会でお葬式をやってくれるか
気がかりで夢に出てきたのでしょうね。

お葬式の時に見たNさんのお顔は安らかでした。
そのお顔に、大丈夫、
神父さんはNさんのお葬式をちゃんと執り行うからね、
と心の中で語りかけました。
(g)

こわいね!
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2022-08-24-WED