怪・その56

「触っているものの正体」



自分がまだ
母と一緒に寝ていた頃の話です。

その日も
私は母と共に寝ていたのですが、
真夜中あたりにふと目が覚めて
なんとなしに母の方を見たとき、

なぜか母は黒いもやに覆われていました。

その時の自分は
起きたばかりということもあり、
「『黒いモヤ』は母の布団なのだろう」と
適当に考えていました。

眠かった私は
すぐに目をつぶり寝ようとします。

しかしある疑念が湧き上がりました。

その疑念とは、
『黒いモヤは本当に布団なのだろうか」
というものです。

幼い私はそれを確かめるべく、
瞼をそっと上げて
黒いもやに触れました。

もやに触れたときの感触は、
普通なら無いはずです。

しかし私が触れた『それ』は違いました。

例えるなら、
冷たい寒天ゼリーを詰めた
ビニール袋のような感触です。

私はその感触にさらなる興味を抱き、
『それ』に右手で触れたまま
目を凝らし始めました。

そして私はようやく気づきました。

私が触っているものの正体は
何者かの『顔』だったのです。

母でも父でも祖母でも祖父でもない顔が
そこにありました。

私はその瞬間に右手を離し、
枕元にある照明のリモコンを照明に向けて、
スイッチを押しました。

照明から母に視線を落としたときには
『顔』と『モヤ』は消えていました。

この出来事から何年もたった今でも
あの冷たい感触は忘れることができません。

(0)

こわいね!
Fearbookのランキングを見る
2021-09-12-SUN