怪・その32

「夜のベンチに」



もう何年も前の話ですが、
ふと思い出したので投稿させていただきます。

私の家から最寄りの電車の駅までは
歩いて6、7分といったところなのですが、
その間に、救急車の受け入れなどもよくしている、
わりと大きめの病院があります。

その病院には屋外喫煙所があり、
とはいうものの、
病棟裏口横の庇の下に
ベンチを1つ置いただけなのですが、
それが毎日通る道路から見えるのです。

たしか12月のある日、
仕事を終えての帰り道、
特に意識して見るでもなく、
歩きながらその喫煙所が視界に入ったのですが、

普通に座ると4人でいっぱいぐらいのベンチに、
6人のおじいさんやおばあさんが
ギュウギュウに詰めて座っているのです。

みんな病院から貸与される
ぺらぺらのガウン1枚羽織った格好で。

そしてなぜか、
喫煙所なのに誰もタバコを吸っておらず、
何もせず、何も話さず、
ただ無表情に座っているだけなのです。

寒いのに何してるねん‥‥と、
心の中で思いながら通り過ぎて
ふと気づいたのですが、
そのとき時間はもう夜の10時半。

当然とっくに病院は閉まっており、
消灯、入院患者も外には出られないはずです。

それに師走の寒さに
そんな格好で屋外に出るはずもありません。

ああ、これは「見て」しまったか‥‥
と思いながらも、
後戻りして確かめる気にはなりませんでした。

今のところ、私の唯一の、
ちょっと不思議な体験です。

(c)

こわいね!
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2021-08-25-WED