怪・その29

「カセットテープ」



もう30年以上前、
私が小学生だった頃の話です。

友達のAちゃんから、妙な話を聞きました。

Aちゃんは、その当時人気だった
アイドル歌手のカセットテープを
買ってもらったそうなのですが、
そのテープに
おかしな声が入っていると言うのです。

そのころ、
そのアイドルのものとは別の曲ですが、
空耳のような、
言われてみたらそう聞こえるかもね、
といったテープの話が流行したこともあったので、
そういう類かな、と思ったのですが、
どうやら違うようです。

今まで入っていなかった声が、
突然、昨日の夜から
聞こえるようになったと言うのです。

私は放課後、
Aちゃんの家に遊びに行き、
そのテープを聞いてみることになりました。

Aちゃんの家に向かいながら、
私はAちゃんのお兄ちゃんの
イタズラなのではないかな、
と考えていました。

三歳年上のAちゃんのお兄ちゃんに、
私たちはしょっちゅう
からかわれていたからです。

しかしその考えは、
テープを聞いた瞬間、消え去りました。

Aちゃんが小さなラジカセにテープを入れ、
再生ボタンを押すと、曲が流れ始めます。

2番のサビにさしかかった時でした。
曲がすーっとフェイドアウトして‥‥、
あれは、女の子の声でした。

「お父さんは火を放った」

ハッキリとした声でした。

そしてまた曲がすーっとフェイドインして、
何事もなかったかのように曲が終わりました。

当時のラジカセは、
外の音をテープに録音するのは簡単でした。

録音、と書かれたボタンと
再生ボタンを同時に押せばいいのです。

ただ、録音と録音の間に
ブチっという音がどうしても入りますし、
録音中はサーっというノイズの音が必ず入ります。

でも、女の子の声が入っている部分には
一切ノイズはありませんでした。
そしてラジカセにフェイドイン、
フェイドアウトで録音出来るような機能はありません。

お兄ちゃんのイタズラではないことを確信し、
女の子の言葉の不可思議さに
背中がゾッとしたのを覚えています。

(h)

こわいね!
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2021-08-22-SUN