怪・その6

「早く見つけてあげれば」



当時私は中学校を卒業し、
高校が始まるまでの長い春休みに入っていました。

夕方にいつも愛犬を散歩させるのが日課で、
その日もいつも通りに散歩に出かけました。

私の家は坂道の途中に建っており、
坂を下ると田んぼと畦道が続いていて、
そこがいつもの散歩コースです。

犬を連れて坂道を歩いていると、
下から顔見知りのHさんが
飼い犬を連れて上がってきました。

Hさんは中年の女性で、
私の家のすぐ下にある家に住んでおり、
お隣さんということで挨拶をしたり、
よく会話をする関係だったと思います。

挨拶をしようかと思いましたが、
お互い犬を連れていたので
犬同士が喧嘩になると思い、
道路を渡って反対側の歩道に移ろうとしました。

その時、
Hさんの顔がチラリと見えたのですが、
顔の皮膚がまるで煤を塗ったように真っ黒で、
目と歯だけが剥き出しになっていました。

真っ黒な顔で白目を剥いた姿が不気味で、
話しかけることはできませんでした。

その次の日、
祖母と自宅でお昼ご飯を食べていると
インターホンが鳴り、
祖母が外に出ていきました。

戻ってきた祖母は難しい顔をしていて、
何があったのか僕に話してくれました。

今家に来たのは警察の方で、
Hさんが亡くなっていたというのです。

持病で、キッチンでうつ伏せに倒れたまま
息を引き取られたそうなのですが、
時期はおそらく1週間程前だったそうです。

その頃、前の週から地元は台風の影響を強く受け、
朝から晩まで雨が止まない日がよくありました。

Hさんの遺体はうつ伏せに倒れたままだったので、
湿気のせいで顔が
真っ黒に腐敗してしまっていたそうです。

昨日話しかけなくてよかった、と
その時はほっとしましたが、
今は、もっと気にかけて、
早く自分が見つけてあげればよかったと思っています。

(n)

こわいね!
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2021-08-04-WED