怪・その16
「ホテルの廊下」
20年くらい前のことです。
私はある学会で某県を訪れました。
その時は宿泊予約がギリギリになってしまい
かろうじて取れたホテルを予約しました。
当日部屋に入ると
昼間で大きな窓もあるのに
薄暗くじめじめ・ざらざらした感じがして
「あー嫌だな」と思いました。
さらに嫌だなと思ったのは
窓の真向かいに鏡があることでした。
よく合わせ鏡は良くないといいますが
窓と鏡の向かい合わせも良くないと
聞いた事があったからです。
その日学会から戻り、普通に寝床に付きました。
すると夜中にパッと目が覚め、
ベッドのヘッドボードに付いている時計を
少し起き上がって見ると、3時でした。
その時外の廊下から
「ガシャンガシャン」
と音が聞こえて来ました。
よくよく聞いていると
ちょうど部屋のドアが足元にあったのですが、
左の方からその音はやって来ているようでした。
「あー明日の朝の配膳の用意かな、
それにしては早いしちょっと迷惑じゃないかな」
なんて思ってました。
というのもその音が、
カートに食器を積んで
運んでいるような音だったからです。
でもやっぱりそうは思ってもどこかで
「ほんとに配膳?
私の部屋の前で止まるとか絶対やめてよねー」
と思いながらその音を聞いていました。
「がしゃんがしゃん。がしゃんがしゃん。」
無事に私の部屋の前を通り過ぎて
廊下の奥に遠ざかって行きました。
やっぱり業務用のエレベーターでもあるんだなと思って
そのまま眠りました。
翌朝しつこい私は、やっぱりまだ気になって
ドアをあけて廊下の右側を見てみると、
昨日は気が付かなかったのですが、
私の部屋の斜め右向かいにもうひとつ部屋があるだけで
突き当たりは階段があるだけでした。
そんなに遠ざかって行く音が聞こえるほどの
距離もなければ、
エレベーターもありませんでした。
そのあともまだ学会は残っていたので
さらに2泊しましたが
その音が聞こえたのはその夜だけでした。
(りんご)
