怪・その12

「傘越しに立つ人」

長雨が続く、梅雨の時期のことです。

その日も朝から
結構な量の雨が降っていたので、
大きめの傘を差して
自宅から最寄りの駅まで歩いていました。

いつも通っている道で、
駐車場の入り口前に差し掛かった時です。

ふと、忘れ物をした気がして、
傘の柄を左肩に乗せた格好で、
立ち止まって
トートバッグの中を確認していました。

その時、
傘越しに誰かが私のすぐ左側に、
こちらを向いて立っている気配を感じました。

傘を肩にかけるほど深く被っていたので、
相手の顔は見えません。

黄色いTシャツの胴体と、
お腹が少し出ている感じから
「おじさんだな」と何となく思いました。

ちょうど私が
駐車場の入り口の前で立ち止まったため
道に出ようとしているおじさんの行き先で、
立ち往生してしまった!

と思い、鞄の中身を確認して
すぐにその場を離れました。

その時は慌てていたのですが、
通り過ぎたあとすぐ、
何となくおじさんを確認しようと、
そっと振り返りました。

ただ、

雨がざあざあと降っており、

そこには誰もいませんでした。


後から思い出すと、
壁もない見通しの良い駐車場であったことと、

他に人気は無かったこと、

私の傘に当たりそうなぐらい近くに居たこと、

駐車場の入り口はかなり広く、
私を避けてでも通れたであろうこと。

そして傘越しに見えた、
黄色いTシャツのお腹が
息を整える様に
大きく膨らんだり縮んだりしていたこと。

こんなに鮮明に覚えているのに、
そこには誰も居なかった。

それ以来、
雨の日はその道を通るのをやめています。

(S)

こわいね!
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