怪・その12

「仕事が気になって」

15年前くらいの話です。

私が働いていた職場に
Sさんという上司がいました。

Sさんは、他の上司と違って
話しやすく親しみがありました。

ある時期、残業が重なり、
Sさんは、とても疲れているようでした。
その日は冗談も言えないくらいでした。

翌日、Sさんは出勤してきません。
課長がSさんの家に連絡しても
連絡がとれませんでした。

お昼になって、
ようやく連絡が取れたと思ったら、
Sさんが亡くなったという知らせでした。

慌ただしくその日が過ぎて、
お通夜のお手伝いをすることになりました。

斎場入口で受付をしていると、
2階の式場でお経が聞こえ始めました。

あぁ、始まりましたね‥‥

と先輩に言おうとしたら、
斎場の入口の二重になった自動ドアが
スーっと開いたのです。

でも、誰も居ません。

先輩と目が合ったけど、
何となく言葉を交わしませんでした。
二人とも思ったことは同じだったと思います。

それから1週間ほど経ったころ、
職場に一本の電話が架かってきました。

「Sさんをお願いします」

あら、この人は
Sさんが亡くなったことをご存じないのだな

「Sは先週、亡くなりました」

とお伝えすると・・・

「え?

 先ほどSさんから
 お電話を頂いたのですが‥‥」

‥‥!?

もしかしたら、Sさんは

仕事が気になって、
電話をしたのかもしれません。

(うたぷー)

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