怪・その21

「窓に、ウェブカメラに」

ニューヨークに住んでいます。
夏になって日差しが強くなり、
その分窓の汚れが目立っていたので
窓拭きをしていました。

私の部屋は地上12階。
どの窓もかなり大きく、外側を拭くために
回転式になっている窓を安全枠から外すと、
気をつけないと部屋から落ちてしまうような
不防備な状態になります。

それでも窓全体は外れないので
必然的に窓の近くで眼下に小さく見えるタクシーや
ジョギングしている人を見ながら作業をしていました。

窓が磨かれていくキュッキュッという音が心地よく、
夢中で拭いていると、
きれいになった窓に反射した私の顔が見えてきました。

満足して手を止め、外の景色を一瞬眺めて
窓ガラスに視線を戻すと、
私の後ろに5人くらいの人の顔が映り込んでいました。

日本人が一人だけいて、それはすぐ分かりました。
私が子どものときに亡くなった祖父。
あとは見覚えのない白人の男女でした。
そのうちの一人の女性が
私に向かって何かを言っているのに気付きましたが、
口がぱくぱく動いているだけで声はありません。

唇を読もうと顔をすこし近づけたら
にゅっと彼女の両手が窓ガラスから伸びてきました。
驚いて回転式の窓をバタンと閉めたら
全員が一瞬にして消えました。

祖父まで一緒に追い出してしまったような
悲しい気持ちになり、彼の写真の前で拝みました。

ちょうど日本ではお盆だったので
祖父は足(?)を伸ばして私の住む
ニューヨークまで来たのかもしれません。
でも祖父以外の人たちは一体誰。

子どもの時からほかの人には見えていないものが見え、
それが心労になるので
その感性を「閉じて」いるのですが、
仕事で頭を使い過ぎてボーッとしたときや
家事の単純作業中は油断して開いてしまうようです。

その夜、日本の友人とのネット通信で、
ウェブカメラをオンにしたとたん、
友人が開口一番
「あ、お友達来てるんだ。あとにしようか?」。

コンピュータの前に座っているのは私だけ。
もしかしたら友人に見えているのは
昼間の窓ガラスに写った女性ではないかと思い
「どんな人が見えているの?」
と聞くと
感の良い友人は顔を恐怖に歪ませて
「え、そういうことなの?
 ヤダ、ヤダ、ヤダ、ヤダ!
 ゴメンゴメンでもヤダ」
 と繰り返しながら通信を切ってしまいました。

友人をこうして巻き添えにしてしまうたびに
申し訳なく思うので
(それでも見放さないでいてくれる
 心が健全で頑丈な友人ばかりで幸せです)、
以来それについては話しをしていません。

私は窓ガラスの女性のぱくぱくと動く口を
何度も思い返して、
彼女が何を言っていたのかだんだん分かってきました。

でも、また誰かを巻き添えにしてしまったら
申し訳ないので、自分の中にしまっておきます。

(H. A.)

こわいね!
2014-08-22-FRI