怪・その22

「同居人の気配」

今から15年近く前のこと。
私はアジアのある場所で日本語を教えていました。

住まいは古くて小さい5階建のビルの4階。
他のフロアには大家さん一家が住み、
4階を同僚3人とシェアしての生活でした。

赴任した時から「この4階、何かいるみたい」
という話は同僚から聞かされていました。

ある正月、といっても日本とは違い旧正月で祝います。
同僚たちは休みに入ると早々に一時帰国。
私は日本から友人が遊びに来てくれるので帰国はせず、
1日だけ4階の空間を一人で過ごすことになりました。

すると、
誰もいないはずの他の部屋の電気が勝手に点灯。
夜中には、私の部屋のすぐ脇にある
引き出しを開ける気配がし、
ガサゴソと何かを必死に探す音が聴こえてきました。

さすがに怖くて
ドアを開けて確かめることはできませんでしたが、
翌日その引き出しを見ると、
3段目だけがかすかに開いていて、
その中には地図のような紙が何枚も入っています。

「ガサゴソ」はこれだったのだと確信し、
背筋が寒くなりました。

何を探していたのか、
何を伝えようとしたのかはわかりません。
ただ、何かが私たちと一緒に住んでいたのは確かです。

後日、同僚の一人が、
真っ青な顔で教えてくれました。

「どうしよう、とうとう見ちゃった。
 そこの壁から女の人が出てきて、
 反対側に消えてった!」

その反対側というのが、
ちょうど引き出しのある壁だったのです。

2012-08-28-TUE