おとなの小論文教室。

受験のテクニックとして、小論文の書き方を勉強した?
その後は、ナイスなテキストを書いていますか?
考えること伝えることの愉快を、ここで味わいましょう。
ありがたいことに、小論文というものを
考えたり、たのしんだり、たくさん読んできた
カジュアルで優しい先生がいるんです。
さぁ、山田ズーニー先生、お願いしまーす。

Lesson977
もう歳だから、
何かを諦めようとしている人へ 2

「パッチワークは、
おかあちゃんの心が表現できるものじゃろ?」

86歳の母が、
何十年と続けてきたパッチワーク教室に通うのを
辞めるというから止めた。

私は、泣きそうになって、

「老いた今のおかあちゃんにしか作れんもんがある」

「若いときにはつくれんかった、
つくりたいとも思わんかった、
老いてこそ表現したい、できるものが必ずある!」

「パッチワークはおかあちゃんの自己表現なんじゃ。」

必死に止めた話を前回、
「もう歳だから、何かを諦めようとしている人へ」
に書いた。

その後、母はどうなったのか?

私のしたことは、おせっかいだったのだろうか?

…………………

あれからひと月以上たち、
母から電話がかかってきた。

ふるさとは、コロナで様変わりしたらしい。

「孤立」。

まだ感染者が1人も出ていない田舎町で、
「なにもそこまで‥‥」とも思うが、
田舎は、感染リスクの高い高齢者が多い。

「何かあってはいけない」と、
お年寄りを大事に思うあまり、
子や孫やひ孫は、訪ねて来なくなった。
兄弟姉妹や親戚さえ、いや身内だからこそ、
不要不急の用ばかり、結局、遠慮しあって、
行き来が途絶えてしまった、と言うのだ。

母は、生まれてこのかたない
「ひとりぼっち」を強いられていた。

それまで母は孤立することはなかった。
地元に姉さんたちや弟がおり、
娘のような姪もいて、親戚も多く、
しょっちゅう、おかずをつくって届けあったり、
遊びに行ったりしてきたのだ。

だから1日だれとも話さない毎日は初めてだ。

インターネットも無ければ、スマホも無い、
メールも、ZOOMも、オンライン飲み会も、
ネットフリックスもない。
母の寂しさは、はかりしれない。

「それでも、ひとりで歌をうたったり、
元気にやっとるんよ」

母は強がった。

私も孤立生活なら経験豊富なのでわかる。
本当に寂しいとき、人は寂しいと言えない。
こうして強がる。
母に、かける言葉がなかった。

その時、ふと母の口を突いて、

「パッチワーク、行きょうるんよ!」

パッチワークの話になると、
急に声に活気が出てきた。

「休まず行きょうるんよ!」

「パッチワーク教室行ったら、
人にも会えるし、話もできるし‥‥。
これがなかったら、
誰とも会わん、話もしない、
どこにも行けんようになっとったな…。」

「行ったら自然に手も動かすし、
今日も家でちょこっとパッチワークしたんよ。
ああ! こうやって続けることが、
ボケ(*母の表現のまま)防止にも
なっとるんかなぁ‥‥。」

私は驚いた。

これまで母に意見をしても、
昭和ひとケタ生まれの母は、
育った時代も、生きる環境も、価値観も、
まるで違い過ぎて、受け入れなかった。

なのに辞めないでと言った私の想いは、
こんなにも伝わっていた。

こんなにも母と通じ合えている。

さらに母は、私に、

「あんたは、いつも的確なことを言う。」

としみじみ言った。
“的確”と言われたのは初めてで、ぽかんとした。
けれど、母は、小さい頃からの私を思い出し、

「あんたは、あの時も、あの時も、
こんな的確なことを言っていた。」

と認めてくれた。
母は、

「自分ではパッチワーク辞めるつもりで、
もう先生に言うばかりになっとった。
辞めちゃあいけんことが、
自分ではわからんかった。
でも、あんたには、わかったんじゃなあ。
よくわかったなあ。」

「どうやってわかったん?」

「あんた、よう勉強しとるんじゃなあ。
がんばったんじゃなあ。」

「自己実現」という言葉が母の辞書にない。

中学で成績1番だった母が、
家が貧しいから高校には生かしてもらえなかった。
それでいて母の弟は、進学も出世もした。

女の子に学問はいらない。

夫の食べたいものは何か?
子どものやりたいことは何か?
親にしてあげられることは何か?
で、ずっと生きて来て、

自分のことを考えるのが母には一番難しい。

そんな母が、
子どもが巣立ってしまった喪失感や、
病苦をのりこえて、
たった1つ見つけたささやかな趣味、
パッチワークまで、

「自分が歳をとって、
まわりの人に迷惑になっていってはいけない」

と遠慮から手放そうとしていた。

母の人生ってなんなのだろう。

「もう歳だから」
「定年だから」
「足手まといになりたくないから」

母のように、
自分のことを考えるのが苦手な人は、
自己表現の唯一の手段まで、
自分でも気づかず、
あっさり手放してしまうことがある。

でも、

「自己が表現されないとき、人は虚しい。」

失ってはじめて、
自分の想いが全く外に表せなくなって、
なぜこんなに不自由なのか、と苦しむ。

プロサッカー選手が、プロを退くことと、
何らかのカタチで一生サッカーに関わって、
自己を表現しながら生きていくことは別だ。

同様に、

それが仕事になるか、売れるか、
人気者であり続けるか、
生産性があるか、人の役に立てるか、

そういう問いとは全然別に、

「人は一生、自分の想いを表現して生きる」

そのための表現手段を放さないで、
と私は思う。

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【満員御礼!】この講座は満席になりました。
キャンセル待ちも締め切りました。
たくさんのお申込みありがとうございました。

宣伝会議 表現力養成コース

編集・ライター養成講座20周年記念講座

山田ズーニー専門クラス
——–伝わる・揺さぶる!文章を書く

山田ズーニーです。
私は、これまで北は北海道から南は鹿児島まで、
大学・高校生から
ビジネスマン・プロのライターから作家まで
幅広い層に、数えきれないほど表現講座を開いてきました。
その原型が生まれたのが、
宣伝会議の編集・ライター養成講座でした。
現在も講師をつとめており、毎回、
受講者に次のような声をいただき手ごたえを感じています。

 

・自分の想いの根幹を探るという経験を
こんなにじっくりと時間をかけてやったことはなかった、
得難い経験でした。

・終了したとき、この講義の意図が
身体にしみわたるように理解できた。
コミュニケ―ションが苦手だったが、
非常に楽しく有意義に受講できた。

・自己開示が苦手だったが、一気に開くことができた。

・現実の出来事を多角的に見て、表現のヒントを探すことは
全ての実務に活かせると思います。

・自分の可能性を信じようと思えた。
自分はつまらない人間ではない。

今回20周年を記念して、ご担当者の、
「この先を行く特別な講座をひらきたい。
表現力をつけたい気持ちはあるものの、
そもそも自分に伝えたいことはあるのか、
と悩む人も多く、その人たちに、
自分を貫くテーマを発見したり、
相手の心に響くように伝えるコミュニケーション力を
つけたりできる場を提供したい。」
という志に共感しました。
2時間×12コマで、
文章表現の本格的な基礎づくりから始まって、
相手に伝わる表現、社会に説得力を持って書く、
さらに、自分にしか書けない主題を発見して書く!
までを責任を持ってサポートします。
ひとりでは気づけない自分の潜在力も、
多彩な仲間とともに引き出しあえるから開花します!
表現を通して他の受講者と心底通じ合える
「感動」の授業です。
心を揺さぶる文章を書きに、ぜひ、来てください。

あなたには書く力がある。

●詳細・お申し込み・お問い合わせは、すべて
こちらのページから
(株)宣伝会議 教育事業部 担当:小林Tel.03-3475-3030まで
*「ほぼ日」へのお問い合わせはしないでください。
*コラムの感想メールでお問い合わせはしないでください。

………………………………………………………………………

「おとなの小論文教室。」を読んでのご意見、ご感想を
ぜひお送りください
題名を「山田ズーニーさんへ」として、
postman@1101.com までメールでお送りくださいね。
★仕事のご依頼はここに送らないでください。
山田ズーニーtwitter( @zoonieyamada )へお願いします。
または山田ズーニーの本を出している出版社に
連絡先をおたずねください。


表現して人とつながる勇気のレッスン!



『理解という名の愛がほしい。』
河出文庫

会社を辞めた私がツラかったのは、まわりが
平日の昼間うろうろしている
無職のおばさんと見ることだった。

それまで仕事をがんばって経験を積んできた
他ならぬ私をわかってほしい。

この発想・考え・想い・感性が、
かけがえなく必要とされたい。

理解という名の愛がほしい。

「理解されたいなら、自分を表現しなきゃだめだ。」

やっとそう気づいた私は、
インターネットの大海原で
人生はじめての表現へ漕ぎ出した。


山田ズーニーワークショップ満員御礼!

いったんウェイトリストを締め切ります。

2017年6月開講したワークショップ型実践講座
「伝わる・響く!言葉の表現力をつける」
にたくさんのお申込みをありがとうございました。

大好評で即日満席、
2期、3期、4期と増設するも追いつかず、
1年待ちのウェイトリストのみ受け付けておりましたが、
現在までに12期分のお申込みがあり、
2年待ち以上の方が出てくる見込みが強くなりました。

責任を持って対応するため、
ここでいったんウェイトリストを締め切ります。

言葉の表現力をつけたいと
申し込んでくださった方々の想いを大切に
受け入れを進めてまいります。

 

●この講座に対するすべてのお問い合わせはこちらへ。

お問い合わせ先 
毎日文化センター東京 TEL03-3213-4768

http://www.mainichi-ks.co.jp/m-culture/each.html?id=699

2018年以降、東京開催、詳細未定、1年待ち。

*「ほぼ日」へのお問い合わせはしないでください。
*コラムの感想メールでお問い合わせはしないでください。

 

ワークショップ型実践講座
「伝わる・響く!言葉の表現力をつける」

――3回で一生ものの書く力・話す力が育つ

書くことによって、人は考える。
自分の内面を言葉で深く正しく理解する。
そのことにより、納得のいく選択ができるようになり、
意志が芽生える。

さらに、

言いたいことを、相手に響くように伝えられるようになる。
インターネット時代に、広く社会に
説得力を持って自分の考えを発信できるようになる。

書く力=想い言葉で表現するチカラを鍛えれば、
自分を知り、自分を表現することができる。

自分の想う人生を、この現実に書いて創っていける。

あなたには表現力がある。

山田ズーニーワークショップ型実践講座、
2017年6月東京で開講しました!


「おとなの小論文教室。」を読んでのご意見、ご感想を
ぜひお送りください
題名を「山田ズーニーさんへ」として、
postman@1101.comまでメールでお送りくださいね。

注:講演など仕事の依頼メールは、
上記アドレスに送らないでください。
山田ズーニーのtwitter(@zoonieyamada)に
直接ご連絡いただくか、
山田ズーニーの本を出している出版社に
連絡先をお問い合わせのうえで、
ご依頼くださいますようおねがいします。


★出演情報などお知らせのあるときは
 山田ズーニーのtwitter(@zoonieyamada)にも掲載します。



『半年で職場の星になる!
 働くためのコミュニケーション力』
 ちくま文庫

あなたが職場の星になる!コミュニケーション術の決定版。
一発で信頼される「人の話を聞く技術」、
わかりやすい報告・説明・指示の仕方、
職場の文書を「読む技術」、社会人としてメールを「書く技術」。
「上司を説得」するチカラ、通じる「お詫び」、クレーム対応、
好感をもたれる自己紹介・自己アピールのやり方。
人を動かし現場でリーダーシップを発揮する表現力から、
やる気が湧き・上司もうなる目標の立て方まで。
この1冊で仕事のフィールドで通じ合い、チームで成果を出していける!
自由はここにある!


ラジオで、山田ズーニーが、
『おかんの昼ごはん』について話しました!

録音版をぜひお聞きください。
「ラジオ版学問ノススメ」(2012年12月30日~)
 インターネット環境があれば、だれでもどこからでも
無料で聴けます。
 聴取サイトは、http://www.jfn.co.jp/susume/
 (MP3ダウンロードのボタンをクリックしてください)
 または、iTunesからのダウンロードとなります。


ほんとうにおかげさまで本になりました!
ありがとうございます!


『おかんの昼ごはん』河出書房新社
「親の老い」への哀しみをどう表現していいかわからない
私のような人は多いと思います。
読者と表現しあったこの本は、思い切り泣けたあと、
胸の奥が温かくなり、自分の進む道が見えてきます。
この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
想いがこみ上げいつまでもいつまでも本に頭をさげていました。
大切な人への愛から生まれ、その先へ歩き出すための一冊です。



『「働きたくない」というあなたへ』河出書房新社
「あなたは社会に必要だ!」
ネットで大反響を巻き起こした、おとなの本気の仕事論。
あなたの“へその緒”が社会とつながる!



『新人諸君、半年黙って仕事せよ』
―フレッシュマンのためのコミュニケーション講座(筑摩書房)
私は新人に、「だいじょうぶだ」と伝えたい。
「あなたには、コミュニケーション力がある」と。
            ――山田ズーニー。



『人とつながる表現教室。』河出書房新社
おかげさまで「おとなの小論文教室。II」が文庫化されました!
文庫のために、「理解という名の愛がほしい」から改題し、
文庫オリジナルのあとがきも掲載しています。
山田はこれまで出したすべての本の中でこの本が最も好きです。



『おとなの進路教室。』河出書房新社
「自分らしい選択をしたい」とき、
「自分はこれでいいのか」がよぎるとき、
自分の考えのありかに気づかせてくれる一冊。
「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
自分らしい進路を切りひらくをテーマに
選りすぐって再編集!



▲文庫版でました!
 あなたの表現がここからはじまる!

『おとなの小論文教室。』 (河出文庫)


ラジオ「おとなの進路教室。」
http://www.jfn.co.jp/otona/

おとなになっても進路に悩む。
就職、転職、結婚、退職……。
この番組では、
多彩なゲストを呼んで、「おとなの進路」を考える。
すでに成功してしまった人の
ありがたい話を聞くのではない。
まさに今、自分を生きようと
もがいている人の、現在進行形の悩み、
問題意識、ブレイクスルーの鍵を
聞くところに面白さがある。
インターネット、
ポッドキャスティングのラジオ番組です。



「依頼文」や「おわび状」も、就活の自己PRも
このシートを使えば言いたいことが書ける!
相手に通じる文章になる!

『考えるシート』文庫版、出ました。



『話すチカラをつくる本』
三笠書房

NHK教育テレビのテキストが文庫になりました!
いまさら聞けないコミュニケーションの基礎が
いちからわかるやさしい入門書。


『文庫版『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
ちくま文庫

自分の想いがうまく相手に伝わらないと悩むときに、
ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!


『17歳は2回くる―おとなの小論文教室。III』
河出書房新社


『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社


『おとなの小論文教室。』
河出書房新社


『考えるシート』講談社


『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
筑摩書房</small



『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
PHP新書

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)



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