鍵井靖章さんのプロフィール 「ダンゴウオ」という魚をご存じでしょうか。 その名の通り、おだんごみたいに丸い魚です。 体長は約20ミリ‥‥20ミリ?! なんと、親指の爪くらいのおおきさです。 このかわいい魚を知ったのは、 『ダンゴウオ 海の底から見た震災と再生』 という写真集がきっかけでした。 水中写真家の鍵井靖章さんが、 震災直後から東北の海に潜り その記録を2年にわたって撮り続けた一冊です。  その写真集は「物語」でした。 再生していく海底のストーリーと、 写真家・鍵井さんのうつりゆく心の物語。 このかたに、お会いしたいと思いました。 江の島の水族館で「ほぼ日」山下がお話をうかがいます。  
もくじ 第1回 水族館でダンゴウオさがし   2013-07-01 (Mon)
第2回 水中写真家にできること   2013-07-02 (Tue)
第3回 ダンゴウオに会えたから   2013-07-03 (Wed)
第4回 誕生を撮りたい    2013-07-04 (Thu)
第5回 笑顔の力   2013-07-05 (Fri)
第1回 水族館でダンゴウオさがし。

こんにちは、ほぼ日の山下です。

ある日のこと、
糸井重里が一冊の写真集を手にしながら言いました。

「山下さんはかわいいものが好きでしょう」

え? ええ、好きです。

「釣りが好きだから魚に興味もありますよね」

あります、とてもあります。

「あと、たしか東北出身」

仙台で育って、実家は福島市です。

「じゃあ、この写真集をみるといいと思いますよ」



それは、震災後の海の中がすこしずつ再生していく様子を
2年にわたって撮影し続けた写真集でした。
撮影場所は、岩手県の宮古湾。
撮った人の名は、鍵井靖章さん。

かわいいダンゴウオや
海中の写真に心をつかまれながらぼくは、
そこに書かれてある
鍵井さん自身の文章にも、ぐいっと引き込まれました。
(文章も多くて読みごたえのある写真集です)
生意気な言い方になってしまいますが、
「正直な気持ちだけが書いてある」と思いました。
淡々としずかに事実を写しながら、
鍵井さんというかたは、
ご自分の心の揺れや不安を
すこしも隠さず記しているように感じたのです。

鍵井靖章さんに、会いたいと思いました。

ダンゴウオの話も聞きたいので、できれば海のそばで。
もっとぜいたくをいえば、本物のダンゴウオを見ながら。
‥‥調べてみるものです。
なんと「新江ノ島水族館」に、
ダンゴウオが展示されていることがわかりました!
※取材は4月下旬でした、現在は展示されていません

さあ、水族館へまいりましょう。
入口で待ち合わせたぼくたちは、
「はじめまして」のごあいさつもそこそこに、
さっそく魚たちが待つ場所へと向かいます。

大きな水槽の前に立つ、こちらが鍵井靖章さんです。

──── うわーーー‥‥
すごいですね、この水槽。
まるで自分が海の中にいるみたいです。
鍵井 ねー。
頭の上まで水槽だから。
──── ここで一枚、お写真を撮りましょう。
鍵井さん、こちらを向いてくださーい。
鍵井 はーい。
──── ‥‥あ‥‥エイ。
鍵井 ん?

鍵井 おおーー。

鍵井 おおー、いいなぁーー(笑)。

──── (笑)あらためまして鍵井さん、
きょうはよろしくお願いします。
鍵井 よろしくお願いします。
ダンゴウオがいるんですよね、ここに。
──── はい。
水族館の人に確認しました。
相模湾で見つけたのを展示しているそうです。
鍵井 なるほど。
‥‥で? どの水槽に?
──── さがしましょう。
鍵井 ‥‥??
──── じつはぼくも
どこに展示されているか聞いてないんです。
なので、いっしょにさがしましょう。
鍵井 あー、そういうことですか。
おっもしろーい(笑)。
いいですね、
海での出会いもそんな感じですからね。
わかりました、さがしましょう!

鍵井さんといっしょに、
「新江ノ島水族館」の水槽を見て歩きます。
ダンゴウオはどこだろう?
こんなに大きな水族館で、
親指の爪サイズの魚をさがすということが、
なんだかとてもたのしいことに思えてきます。

雑談しつつ、水槽を見つつ、ダンゴウオをさがしつつ、
鍵井さんにすこし、
「水中写真家」というお仕事についてうかがいました。

──── 撮影には、どのくらいのペースで?
鍵井 月に1〜2回は海外ロケに行ってます。
その合間の時間で葉山に潜ったり、
東北の海に通ったり、ですね。
──── そんなに‥‥。
このお仕事をはじめたのは、いつから?
鍵井 水中写真家をこころざしたのは大学在学中です。
で、まったくのフリーランスになったのは、
1998年でした。
──── やっぱり、子どものころから海や魚がお好きだった。
鍵井 それがそんなこともないんですよ。
──── え? ちがうんですか。
鍵井 だってぼく、
兵庫県の川西っていう、
海とはまったく関係ないところで育ったので。
──── そうですか。
‥‥でも、じゃあ、なぜ水中写真を?
鍵井 それは、色彩というか‥‥
海の中で見えるものの美しさに
惚れちゃったからなのかもしれません。
──── 美しさ。

▲美しい水槽。でもダンゴウオはいません。
鍵井 どういう生態の魚なのか、とか、
そういうことには興味がなかったんですよ。
だって、
女の人を好きになるときに
その人の骨の本数とか歯の本数とか、
そんなん、どうでもいいですよね(笑)。
──── (笑)そうですね、
最初は外見なのかもしれません。
鍵井 ですよね!?
なにかを好きになるっていうのは、
まず美しさへのあこがれですよね。

▲ある意味の美しさがありますが、この水槽にもダンゴウオはいません。
──── ダイバーのあこがれといえば‥‥マンタとか。
鍵井 はい、あこがれです!
──── ウミガメとか。
鍵井 ウミガメもあこがれですよ。
──── ジンベイザメ。
鍵井 そう!
色彩の美しさ以外では、
そういうスケールの大きな生物たちの
「機能美」みたいなところにも魅了されました。

▲ウミガメも泳ぐ大水槽。ダンゴウオは‥‥いたとしても見つけられません!
※現在ウミガメはウミガメプールにいます。

──── なるほど。
きれいだから、美しいから、
それを写す仕事をしようと思った。
鍵井 ええ。
‥‥それにしても、
ダンゴウオの水槽はどこにあるんだろ?
──── それっぽい水槽は、まだないですねぇ。
鍵井 ‥‥あ、ここはクラゲのコーナーだ。

▲「クラゲファンタジーホール」というスペースです。

▲幻想的な空間には、ゆらゆら漂うクラゲの水槽がたくさん。
ダンゴウオの水槽を見つけられないまま、
ぼくたちは水族館をどんどん進みます。
やがて、順路としてはたぶん最後のコーナー、
「タッチプール」という場所にたどり着きました。
この水族館の目の前に広がる相模湾や
江の島の磯にすむ生き物に直接触れられるコーナーです。

果たして、ダンゴウオは、そこにいました。

鍵井 ‥‥‥あった。
──── いきなり、ありましたね。
鍵井 名前が、堂々と書いてある。

──── 「かわいいです。」って書かれてます(笑)。
鍵井 ねえ(笑)。
この水槽の‥‥どこにいるんだろ‥‥。

──── ‥‥いますか?
鍵井 ‥‥あー、いたいた。
ほら、あの黒い筒の中。
右側の筒の中に。

──── ん? んんんーー??
あれが、ダンゴウオ?
鍵井 はい。
──── そうですかー。
うーーーん‥‥かわいさを確認できない。
鍵井 ですよね(笑)、
筒から出てきてくれるといいんですけど‥‥。
──── あのぉ(水族館のスタッフの方に)、
質問をしてもいいですか?
水族館の人 はい。私でお答えできることでしたら。

──── この「タッチプール」のコーナーには
近くの海の生き物たちがいるようですが、
ダンゴウオはスタッフの方がつかまえたんですか?
水族館の人 そうです。
ダンゴウオは冬になると産卵をしに
浅いところに出てくるんですね。
ですから寒ーい冬の日の真夜中に、
スタッフでさがしにいくんです。
──── 毎年のことですか?
水族館の人 毎年です。
──── そこまでするのは、
やっぱりダンゴウオが人気者だからですよね。
水族館の人 はい。ダンゴウオのマニアの方がいらして、
みなさんこれを目当てに来てくださいます。
──── へええーー、
ほんとうにアイドルなんですねぇ。
鍵井 ‥‥あっ。
──── どうしました?
鍵井 出てくるかも。
ほら‥‥。

──── ほんとだ、こっちを向いてますね。
鍵井 うん‥‥‥‥。
──── ‥‥‥‥‥‥。
鍵井 ‥‥‥‥‥‥。
──── ‥‥‥‥‥‥。
ふたり ‥‥‥‥出た!

──── 出てきました!
鍵井 ちょこちょこ動いてる(笑)。
──── はははははは!
かわいい! こーれは、かわいい!
かっわいいなぁー。
鍵井 ねー(笑)。
──── おなかに「吸盤」がついてるんですよね。
鍵井 そうそう。
それで岩とかに吸い付いて流されないように。
ちいさくて泳ぎが下手で、浮き袋もないので。
──── かわいらしいなー。
‥‥あ、帰っていきます。

鍵井 また、筒に戻りますね。

──── やっぱり右の筒のほうがいいんだ(笑)。

鍵井 おやすみー。

──── ‥‥‥‥はぁ〜。
鍵井 ふうーー。
──── いやぁ‥‥会えましたね!
鍵井 会えました。
──── すごくあわてて写真を撮ったので、
たぶん写真がぜんぶピンボケだと思います。
でも、それはもう、いいです。
会えましたから。
鍵井 うん。
よかったー!
ぶじ、ダンゴウオに会えたふたりは、
江の島が見渡せる「海辺のデッキ」へ行きました。

ここのテーブルで海を見ながら、
すこし落ち着いて、写真集のお話をうかがいましょう。
時間はまだ、たっぷりあります。
(つづきます)
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写真集、 『ダンゴウオ  海の底から見た震災と再生』と ダンゴウオ・フィギュアのセットを 抽選で5名様にプレゼント!

鍵井靖章さんの写真集、
『ダンゴウオ 海の底から見た震災と再生』と、
ダンゴウオのフィギュアをセットでプレゼント。
(フィギュアは全16種類をおひとりずつにさしあげます)
ダンゴウオのフィギュアは、
こちらとか、こちらでお世話になった
玩具メーカー「奇譚クラブ」さんのご提供です。

下の応募ボタンをクリックしてたちあがるメールに、
ご感想をお書き添えのうえご応募ください。
送付先のご住所などは、
当選された5名様にメールでおたずねしますので、
記入の必要はありません。
締切は2013年7月8日(月)午前11:00。
たくさんのご応募をお待ちしています。

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Amazonでの写真集ご購入はこちらから

「新江ノ島水族館」のご紹介

今回の取材で、たいへんお世話になりました。
「新江ノ島水族館」さん、ありがとうございました!

とても人気のある有名な水族館ですが、
あらためて、やっぱり、たのしかったです。
ウミガメも泳ぐ大水槽や、
クラゲがただよう幻想的な空間、
迫力のイルカショーなどなど、
見どころもイベントも盛りだくさん。
みなさんも、ぜひ「新江ノ島水族館」へ!



公式ウェブサイトはこちら

2013-07-01-MON
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN