もくじ
第1回重要なのは「イシュー」だ。 2012-01-12-Thu
第2回人生は長い。使い方を知りさえすれば。 2012-01-13-Fri
第3回「根性論」が才能を潰す。 2012-01-16-Mon
第4回彼女の中に「神」を見た。 2012-01-17-Tue
第5回天才が天才を生む。 2012-01-18-Wed
第6回1000年の観点。 2012-01-19-Thu
第7回本当のビジネス書が必要だ。 2012-01-20-Fri

『イシューからはじめよ』のまわりで考える。

第7回 本当のビジネス書が必要だ。

糸井
和菓子の「とらや」って
もう「500年」以上の歴史があるんです。
安宅
そうなんですか。
糸井
以前、うちの社員が
北海道の六花亭の社長さんに取材したとき
憧れている会社を
「とらや」とおっしゃったそうです。
安宅
ほー‥‥。
糸井
ここ数年の不景気について
「100年に1度」だとか言われてますけど、
そうだとするなら
「とらや」は、これまで「5回」も
そういう大きな不景気を乗り越えてきてる。
安宅
ああ‥‥。
糸井
もちろん、不景気以外にも
戦争みたいな国家的危機だってあったわけです。
そういう「500年」を、
「とらや」は、生き抜いてきたから‥‥と。
安宅
尊敬のしかたが、すごいですね。
糸井
つまり「100年に1度」ということで
みんなが「自分が負けていい理由」にしてるけど
「とらや」は、負けなかったんですよ。
安宅
たしかに‥‥そうですね。
糸井
東北の被災地で
商売の基盤をすべて無くしてしまったかたに
会ったんですけど、
「羊羹だったら、
 ぜったい『とらや』がいい」って。
安宅
おお。
糸井
そう憶えていたので、
次、本当に「とらや」の羊羹を持っていって
お渡ししたんですけど、
一家総出で、よろこんでくれまして。
安宅
やっぱり「とらやだ」と。
糸井
これが「500年」のすごみなんだなぁと。
このあたりの時間の感覚って
「グローバル」と呼ばれる西洋中心の世界では
欠けてる部分だと思うんです。
それは「アメリカの歴史の短さ」に要因が
あるんじゃないかなと思うんですが。
安宅
ああ、そうかもしれません、はい。
糸井
ボストンで話したベンチャー起業家も
この視点を「おもしろい」と言うとは思うんですが
感覚としては、僕らと少し違うかもしれない。
安宅
どちらかというと
アジアの人たちには「響く」と思います。
糸井
あ、そうですね。ブータンの人とか。
安宅
10年くらい前、
アメリカから日本へ帰ってきたときには
すでに不況だったんですね。
糸井
ええ。
安宅
そのとき
「日本は2000年以上やってきてるから
 これくらい、どうってことないよ」
と言ったら、
アメリカ人は「こいつ、なに言ってんだ?」
という顔をしていました。
でも、中国人やインド人のやつらは
「ああ、おれたちも
 数千年、生きてるから」みたいな。
糸井
やっぱり。
安宅
この数百年の間だけを見ても
いろいろあったし、
これくらいどうってことないだろう‥‥という
アジア的な感覚が
これからの時代に生きてくるかもしれませんね。
糸井
自分の世代では無理だけど‥‥みたいな発想が
ありますよね。
将来世代の繁栄のために行動する、という。
安宅
ええ。
糸井
小川三夫さんという
宮大工のかたが、おっしゃるんです。
法隆寺というのは
1000年以上も人々に愛されてきたのだから
1000年後のために
今から檜を植えとかなきゃならない、
その責任があるはずだ、と。
安宅
なるほど。
糸井
数十年で育つ杉の木を植えるのでも、
外国から木を買ってくるのでもなく。
本気で、1000年単位で考えてる。
安宅
1000年の考え、かぁ‥‥。
糸井
僕、この安宅さんの本を材料にしたら、
そういう考えに
すっと移行できるような気がしたんです。
困った問題に直面したとき、
『イシューからはじめよ』を手がかりに考えたら
問題を長い視点で捉えて
そのための一歩を踏み出せるような。
安宅
そう言っていただけると、嬉しいです。
糸井
どんな人に、読まれてるんでしょうね。
安宅
やはりビジネスパーソンが多いんですけど、
不思議なことに
デザイナーさんに、けっこう刺さるみたいで。
最初のコンタクトは
インダストリアルデザイナーの人でしたし。
糸井
あー‥‥わかる気がします。
安宅
そうですか? 僕はビックリしました。
デザインには直接関係ない本だと思いますって
申し上げたんですけど
ぜひ、お会いしたいと言われて‥‥
「これ、デザインの世界と同じなんです」と。
糸井
商品の魅力をどう表現するか。
デザイナーも「イシュー」の捉えかたに
同じ悩みを抱いているんでしょうね。
安宅
そうみたいですね。
糸井
今、日本には「本当のビジネス書」が
必要なんだと思うんです。
安宅
はい。
糸井
つまり
「ビジネスは社会に必要だ、ということを
 言い切れるビジネス書」が。
安宅
なるほど、それは「気持ち」の部分ですね。
糸井
そう。
安宅
僕、ビジネスに本当に大切なのは
突き動かすような「気持ち」とかじゃないかと
思うことがあって。
糸井
それは、「思いの強さ」ですよね。
この本のなかの安宅さんみたいに。
安宅
あははは(笑)。
糸井
この『イシューからはじめよ』みたいな本が
たくさん書店に並べばいいなぁ。
安宅
そういっていただけると、うれしいです。
糸井
『イシューからはじめよ』を手がかりにして
いろいろ、考えてみます。
今日は、ありがとうございました。
安宅
こちらこそ、ありがとうございました。