もくじ
第1回重要なのは「イシュー」だ。 2012-01-12-Thu
第2回人生は長い。使い方を知りさえすれば。 2012-01-13-Fri
第3回「根性論」が才能を潰す。 2012-01-16-Mon
第4回彼女の中に「神」を見た。 2012-01-17-Tue
第5回天才が天才を生む。 2012-01-18-Wed
第6回1000年の観点。 2012-01-19-Thu
第7回本当のビジネス書が必要だ。 2012-01-20-Fri

『イシューからはじめよ』のまわりで考える。

第6回 1000年の観点。

糸井
安宅さんも後輩のトレーナーを担う期間が
けっこうあったんですか?
安宅
明確に「トレーナーとして」というより、
後輩に対して
何やかや言っていた、みたいな感じです。
糸井
そうなんだ。
安宅
近くの席の子に、ちょこちょこ‥‥とか。
糸井
どんなこと言ってたんですか?
安宅
「そんなの考えてもしょうがないよ」とか
「そんなのやってるぐらいだったら、
 お茶でもしてきた方がいいんじゃない?」
みたいことばっかり言ってた気がします。
糸井
やっぱり「無駄な時間を使うな」と。
安宅
ええ。
糸井
マッキンゼー時代を知る知人からは、
オフィスの中でも
異様な存在感をお持ちだった‥‥と。
安宅
誰です?(笑)
糸井
廊下なんかでバッタリ会って
今やっているプロジェクトとか仕事のことを話すと
「違うんじゃない?」みたいに
短時間で、ズタズタに引き裂いて去っていくとか。
安宅
そうでしたかね‥‥(笑)。
糸井
もちろん引き裂くだけでなくて
同時に、代案を提示してるんだと思うんですが。
安宅
でも、それってあの会社の伝統なんです。
僕も上司に同じことやられてましたから。
糸井
引き裂かれた若手どうしで
「アタカさんに、あんなことを言われた」
みたいに
話し合う学びの場が生まれてそうですね。
安宅
「いま、こんな案件を抱えていて」
「いま、こんなことで悩んでいて」
と相談されたら、バシッと言うんです、みんな。
「誰々の話も聞いたほうがいい」とか。
糸井
「伝承アブル」だと思ってるからこそ
できることでもありますよね。
安宅
そんな社風のなかで
なぜか、先輩たちに妙にかわいがられて
育ったので、
その恩を返すような気持ちで、せっせと‥‥。
糸井
引き裂いてた(笑)。
安宅
愛情表現です(笑)。
糸井
そのへん、マッキンゼーらしさのひとつ、
なんでしょうかね。
安宅
だと思います。
マッキンゼー&カンパニーという会社は
経済学教授の
ジェームズ・O・マッキンゼーが
創設したんですが、
その他にも
会社を大きく成長させた人がいて‥‥。
糸井
マービン・バウワーさん、でしたっけ。
安宅
そう、そうです。
僕が入社したころ
マービンは、まだピンピンしてたんです。
100歳まで生きたんですけど‥‥。
糸井
なんか、おもしろい人だったみたいですね。
安宅
新しく入った社員たちを一箇所に集めて、
みんなで円陣を組んで、
「ウィー・アー・ファミリー」みたいな。
糸井
そこからはじまるんだ。
安宅
血の結束なんです、マフィアみたいに。
糸井
いや、そのことは、すっごく感じますね。
だって、マッキンゼーを卒業した人たちの
ネットワークって、ものすごいじゃないですか。
安宅
ええ(笑)。
糸井
その‥‥散り散りになっても成り立つ組織。
華僑のネットワークみたいな感じ。
安宅
そういうところはあります。
糸井
そうですか‥‥マービンさん、100歳まで。
安宅
ええ。
糸井
ちなみに僕は、
「1000歳まで生きる」と公言してまして。
安宅
すばらしい!
僕の師匠は「200歳」と言ってるんですけど、
ずいぶん負けてるなぁ(笑)。
糸井
あ、そうですか(笑)。
なんか「200年」だと
まだ「時代が似てる」ような気がするんです。
安宅
そうか、1000年も経てば
さすがに時代は、ぜんぜん違いますね。
糸井
だいたい、今から「1000年前」っていうと
『源氏物語』の時代ですから。
安宅
ええ、なるほど。
‥‥「価値観」がぜんっぜん違ってますね。
糸井
そう、そうなんですよ。
今の「常識」に照らして
『源氏物語』を道徳的にどうなんだとかって
言うことがありますけど、
仮に「GDP」みたいな指標で比べたら
当時の貴族って
「現代の庶民以下」じゃないですか。
安宅
ええ。
糸井
そういう人たちが、肯定する話だったわけです。
安宅
『源氏物語』というのは。
糸井
つまり、人の本性のある部分は、
『源氏物語』を肯定する側に、あるわけですよ。
そういうものの見方って
「1000年」という時間の射程で考えたら
すうーっと理解できたんです。
安宅
うん、うん。
糸井
つまり「1000年の視点」を持つことで
見えてくることが、いろいろあったんですね。
そして、そういうスパンの視点で
ものを発想することが
僕の「イシューの見極めかた」かなぁ、と。
安宅
すばらしいです。
糸井
どうぞ「2000年」でも「3000年」でも
プレゼントしますんで。
安宅
あ、ありがとうございます(笑)。
でも、まだまだ修行中ですから
まずは「500年」くらいから‥‥。
糸井
そうおっしゃらずに(笑)。
第7回 本当のビジネス書が必要だ。