profile

September 20142014
九月のテーマは ハレー彗星

ハレー彗星が前回世間を賑わせたのは
いつのことだっただろうか。
私はたしか小学生で、担任の先生やTVが
話題にしていたのは覚えているが、自分の目で見た記憶がない。

それもそのはず、1986年にやってきたハレー彗星は
期待されていたほど地球に接近することはなく
軌道に沿ってまた遠くへ離れていってしまったのだそうだ。

人々が空に彗星を目撃した記録は紀元前のころから存在する。
明るく輝き、尾をひく物体が
ある日、前ぶれもなく夜空に出現することは、
古代人にとって底知れない畏怖を感じさせるものだった。

ローマ帝国時代は、王や英雄が亡くなった折に
ちょうど彗星が確認されることが幾度かあったため、
彗星は「偉人の死」を示していると考えられていたという。
15世紀に、多くの国で彗星は「神の怒り」であるとされ、
疫病の流行、飢饉、戦争の訪れ、
ひいては、この世の終わりを予言しているとささやかれた。

しかし、天文学の研究が進むにつれて、
迷信は少しずつ変化していく。

17世紀、イギリス人の天文学者エドモンド・ハレーは
20代の半ばに、初めて彗星を目にした。
その後、同じイギリス人で、数学者でもあった
アイザック・ニュートンの助けを借り、自分が見たのは
約76年ごとに地球へ接近する周期彗星であるという説を打ちたてる。
そして彼の死後、その説は実証され、彗星にはハレーの名が冠された。
多くの彗星が太陽のまわりに軌道をもち、
地球に衝突するわけではない、という事実も明らかになって
人々は多少ほっとしたことだろう。

ジュエリーの世界に限定して考えたとき、
もっとも興味深いハレー彗星の到来年は1910年である。
時代は20世紀に入り、芸術も産業も豊かに発展を遂げていた。
1910年の欧米のポストカードや商業広告には、
彗星のイラストが描かれたものがたくさんある。
不安を与えるようなデマも流れたりしたが、
人々がハレー彗星を、一大イベントとして
好奇心とともに心待ちにしていた様子がうかがえる。
また、ジュエリーデザインにおいても、
ハレー彗星をモチーフにしたブローチが
職人の手によって数多く作られた。

今月ご紹介する2つのブローチは、それらのほんの一例である。
手に取ると、ハレー彗星に心ときめかせ、
空を見上げたそのひと(持ち主)の華やいだ気持ちが伝わってくる。

次にハレー彗星が地球に接近するのは2061年とのこと。
その頃、生きていれば私は84歳のおばあちゃんだ。
叶うなら次回こそ、1910年に人々が目にしたような
「ほうき星」を見てみたい。
もちろん胸には、ひそかに
アンティークのハレー彗星ブローチをつけて。

※参考文献 Roberta Etter and Stuart Schneider著
 『HALLEY’S COMET : MEMORIES OF 1910』

 
2014-09-25-THU

 

まえへ このコンテンツのトップへ つぎへ

感想をおくる
「ほぼ日」ホームへ
ツイートする facebookでシェアする
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN