「役割」と「本人」のあいだで。   2012-02-28
ブータンはトクしてる。 

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糸井 ブータン初の日本人公務員として
1年間、過ごされたあと、
久々に日本に帰ってきて、いかがですか。
御手洗 やっぱり日本は快適でいいですね。
寒い夜に家に帰っても、
すぐに温かいお湯のお風呂を入れられますし、
朝は、ふとんの中からエアコンをつけて
部屋を温められますし。
うわぁ、うれしいなぁ、としみじみ思います。
それから、私自身がちょっと
ブータン化しちゃったみたいだ、と気がつきました。
糸井 ブータン化(笑)。
具体的にはどんな感じなんでしょうか。
御手洗 帰国後に日本の友達と会ったら、開口一番、
「しゃべるのが遅くなっているけど、大丈夫?」
と指摘されてしまいました(笑)。
それに、予定通り物事が進まないことに対して
あせらなくなったり、
働いていない、のんびりした状態が好きになったり‥‥。
ちょっと、いいかげんになったみたいです。
糸井 もともとはそんなに
いいかげんじゃない人だったんですか。
御手洗 どちらかというと、たぶん
いいかげんじゃない人間だったと思います。
糸井 よく漫画に出てくる
野球部の女子マネージャーみたいな人?
しょうもない人ばっかり集まっているチームの中で、
脱ぎ散らかした洗濯物を
「んもうっ」ってプンスカ怒りながら
片づけているような。
御手洗 うーん、そうかもしれないです。
糸井 じゃ、そういう子がブータンに行って、
ずっと「んもうっ」と言っていたんですね。
御手洗 たしかにそうだったかもしれないです。
ブータンでは、みんなが
ユニフォームを脱ぎ散らかす野球部員みたいな(笑)。
糸井 「んもうっ、洗濯よ!」みたいな。
御手洗 そうですね(笑)。
でも、「んもうっ」と言いながら
過ごしてきたつもりが、日本に帰ってくると、
「お、どうやら私も日本人の中では
 ブータンっぽくなっちゃったらしい」
ということに、気がつきました。
糸井 南伸坊とぼくがブータンを訪れた「黄昏」で、
あなたがガイドしてくださったときのことを
いま思いだしていたんですけど。
たしかに「んもうっ」と言っていましたね。
ぼくと伸坊については、
「ほんとにしょうがないなぁ‥‥」って
思ったんでしょうね。
御手洗 そんなことないですよ(笑)。
糸井さんと伸坊さんがいらっしゃって、
道中ずっと、漫才のようにお二人で掛け合いをされていて、
みんなけらけらと笑いっぱなし。
その雰囲気が、なんだか
すごくブータンらしかったといいますか。
ブータンの人って、しょうもない話を
日がな一日して笑っているのが好きなんですけど、
それと同じ空気を感じました。
糸井 ああ、たしかにそんな感じでした。
あの旅はよかったです。
思い出のブータン旅行ですよ。
御手洗 あぁ、よかった。うれしいです。
ブータンの人たちも、
糸井さん、伸坊さんとの時間を本当に楽しんでいました。
糸井 ぼくは、ブータンに行く前に
ブログとツイッターを通じて
御手洗さんのことを知ったんですが、
いくつか誤解していた面があって。
あなたはべつに、
ブータンにずっと暮らしていた人じゃないんですよね。
御手洗 そうなんです。
糸井 なのに、ブータンを案内する側で。
10年いたわけでもないのに、
10年いたかのように
振る舞わなければならないというか、
状況によってはブータンの代表のように。
御手洗 そうですね。
ブータン政府の人間として、
海外からのお客さまをお迎えしなくてはいけなかったり。
糸井 「んもうっ」っていうタイプの人なんだろうな、
ということは、薄々気づいていたんですけど、
それはそれとして、優等生的に、
「私は公務員です。ブータンをご案内します」
っていうのを役割として、
ちゃんとやってましたよね。
そのギャップが、ぼくはおもしろくて。
御手洗 あはははは。
糸井 「無理だろう、それは」と思いながら、
そこのところを楽しんでいたんです(笑)。
だって、つい役割をわすれて
「本人」になっちゃう部分がありますよね。
御手洗 はい(笑)。
糸井 その、「本人」と「役割」の行ったり来たりが
見ていておもしろかった。
御手洗さんが書いていたブログの
おもしろさの本質もそこにあるんですよ。
ブータンの公務員として
ブータンを賛美するだけじゃなくて、
ちゃんと愚痴を言ったり、
「ブータン、変だぞ?」って
書いたりするからおもしろい。
御手洗 ありがとうございます。
糸井 でも、それってなかなか簡単なことじゃないんです。
つまり、その役割に徹して、
ほんとの自分を出さないほうがラクなんですよ。
「本人」の部分を出すためには、
自分の警戒心も解かないとダメだし、
自分の「本人」の部分が
受けとめてもらえる状況がなきゃダメだし。
御手洗 そうですね。
糸井 あの、昔の飛行機ってね、
着陸する前にお菓子を配っていたんです。
いまでいうキャビンアテンダントの人が
お盆にお菓子をいっぱい持ってきてね。
で、ぼくが「どれがおいしいの?」と聞いたら
「どれも」って言うわけです。
それが公務員の態度ですよ。
御手洗 はい。
糸井 でも、「この人は話が通じるな」と思った人に、
「いちばんおいしいのは、どれ?」って聞くと、
「どれもおいしいんですけど‥‥
 (小声で)これはちょっと‥‥」
って言ってくれたりするんです。
その、「これはちょっと」に出会えるのが、
ぼくらはうれしいんですよ。
だから、御手洗さんのツイッターもブログも
たくさんの人に読まれたし、
そのブログが本になったりもするんです。
  (つづきます)

  2012-02-28-TUE



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