イラストに乗ってどこへでも飛んで行けるオレンジ。
ホワイトボードカレンダー2022版は、
ずーっとご一緒したいと思っていた
100%ORANGEさんに
月の数字のイラストをお願いしました!

で、そのことにかこつけまして、
100%ORANGEの
及川賢治さんと竹内繭子さんに
インタビューさせていただいたのです。
高校時代の出会いから、
とつぜん来た大きなお仕事のこと、
イラストとは何か‥‥という創作論まで。

9月20日(月・祝)まで
千葉県立美術館で開催中の個展の会場で、
ゆっくりお話をうかがいました。
担当は、ほぼ日の奥野です。
第3回 こちらから「どうしたの?」って行く感じ。
写真
──
ポスターの仕事が好きだと
展覧会のキャプションに書いてありましたが、
それって、どうしてですか。
及川
‥‥でっかいからかなあ。
──
ははは、なるほど(笑)。
でも、たしかに。デッカイとアガりますしね。
及川
マーク・ロスコなんかも
美術館で見るとデカーッと思うけど、
やっぱり、あのデカさがいいじゃないですか。



ぼくなんて、とくに、
ふだんはこんなちっちゃなデスクで、
ちっちゃな絵を描いてるから。
それがポスター大にデッカくなるとうれしい。
竹内
以前、広告をやりたかったっていう気持ちも、
どこかにあるんじゃない?
及川
そうかも。サヴィニャックとかモルバンとか。
──
ああ、雰囲気が似ていますね。
竹内
あと、アンドレ・フランソワとか‥‥
ヨーロッパの古いポスターが好きだったんです。



「ジュース飲んで、おいしい」みたいな感じの、
まわりくどくないポスター広告。
──
なるほど。
及川
ぼく、ただ純粋に風景画を描くとかより、
何らかの「目的」があるほうが描けるんです。



何ていうのかな、広告ポスターのために描いて、
そこに、何気ない感じで
コピーやデザインが入って完成する、みたいな。
そういう絵が、いちばん気持ちいいんです。
竹内
それとストレートに「ポスターのお仕事」って、
なかなかないんですよ。



しょっちゅうないぶん、うれしいのもあるよね。
──
いま、大きなサイズのポスターって、
どんどん貼る場所がなくなっていますしね。
だからこそ、
たまにいいのを見かけると、わーって思う。
及川
新潮社の「Yonda?」くんの特大ポスターとか、
大きな本屋さんにも、
貼るスペースがあんまりなかったらしいです。
──
これまで四半世紀のキャリアを積んできて、
絵とかイラストについて、
わからないことって、まだまだありますか。
及川
うん、ありますよ。だいたいわかんないね。



前回うまくいったし、
同じ感じで描けばいいかと思ってやっても、
うまくいかないし(笑)。
──
1回1回が別の試合なんですよね。
及川
依頼をくださる人は、
過去の、まあ、うまくいった仕事を見て
「こういう感じでお願いします」
って言ってくださるんだけど、
「それ、うまくいったやつだからなぁ」
っていつも思ってる(笑)。
──
ははは(笑)。
竹内
毎回毎回、一生懸命やってます(笑)。
写真
及川
でもさ、何か今回、
変にがんばりすぎちゃったかな‥‥とか、
反省したりしてるんですよ。



依頼してくださった人が、
どこまで本当に気に入ってくれてるかは、
ぼくらにはわからないので。
──
まあ、何でしょうね、その人にもよるし、
会社によるのかもしれないけど、
ぼくらの場合は「驚きたい」があります。



想定していたどおりのものがくるより、
「えっ!」ていうほうが、楽しいですし。
竹内
でも、あまりにも予想外のものが来ても、
困りますよね? ね?
及川
困るね。抽象画みたいな。
──
まあ‥‥ですかね(笑)。



ブックデザインの祖父江慎さんなんかは、
そのタイプなんでしょうけどね。
及川
でも、祖父江さんから、
おかしなアイディアが出てきたら
うれしいでしょ。
──
それを楽しみにしてるフシもありますね。
こちらとしても。



浅田政志さんの写真集を、
青幻舎さんが祖父江さんに依頼したら、
「浅田さんの息子さん篇」と
「浅田さんのお父さん篇」の
2冊にわけましょうと、祖父江さんが。
つまり、1冊が2冊になっちゃったと。
及川
ははは。増えてる。
──
しかも、1冊が青幻舎さんなんですけど、
もう1冊は
赤々舎さんから出ることになって、
ブックデザインはぜんぜん違うんですが、
大きなタイトルは、
どっちも『浅田撮影局』なんですよ。
及川
へぇぇ、そんなことありえる?
──
結果として、出版社の垣根を超えた
コラボレーションとなり、
流通面とか大変だったかもしれませんが、
まぎらわしいとか(笑)、
でも、読者として見ると、
まったくおもしろいことになってまして。
及川
すごいなあ、祖父江さん(笑)。
竹内
コンセプトとデザインが
素晴らしいからですよね。
──
編集者としては本の可能性を感じました。
まだまだいろいろやれそうだ、と。



ちなみに、仕事の依頼を受けるときって、
ターゲットみたいな情報を、
描くうえでの参考にしたりしていますか。
及川
はい、それは。お客さんは
何歳くらいのどういう人がメインですか、
みたいなことをはじめ、
あと、いくらくらいで売るつもりかとか。
竹内
そうですね。
及川
つまり、1000円なら1000円の、
3000円なら3000円の、
その値段の商品についてるっぽい絵かどうかが
ありますし。
──
なるほど、それは重要ですね。
及川
そうなんですよ、かなり。
竹内
でも、昔の及川は
そんなことは聞かなかったと思うんです。
──
あ、そうですか。
竹内
そこ気にするようになったんだ‥‥とか。
何だか、いいような、悪いような。
細かいことを気にし過ぎないほうがとか。
及川
悲しいね。
心が汚れちゃったのかな(笑)。
竹内
そうかな、ははは(笑)。
及川
でも、たしかに気になるんだよね、最近。
これって、いくらの商品なんだろう‥‥
いや、お客さんが、
その金額を出して買うんだと思うと、
身が引き締まるんです。



これに1000円払うんだ、がんばろう。
みたいなことです。
──
ご自身でもグッズをつくっていますから、
値付けの感覚もお持ちでしょうし。



50円かもしれないし、
1億円かもしれないなとか思いながらは
描けないですもんね。
及川
そうですね(笑)。
写真
──
あの、ご本人としてどう思っているかは
わからないですけど、
100%ORANGEさんみたいに、
優しげでかわいらしいタッチなんだけど。
及川
うん。
──
でも、それだけじゃなくて、
ちょっと「怖さ」を感じさせる作品って、
あると思うんです。



わかりやすいところで言ったら、
せなけいこさんの絵本で、
寝ない子がお化けに連れて行かれちゃう
『ねないこだれだ』とか。
竹内
ああ、はい。
──
あるいは、かわいいふりして、
よくよく見ると、さみしさやかなしみや、
狂気性なんかをはらんでいるような。
及川
ああ‥‥誰だろう?
──
そうですね、たとえば福田利之さんって、
個展を開いたときに取材したら、
ご来場のお客さんに「闇を感じる」って、
言われたそうなんですよ。
及川
福田さんの闇。
考えたことなかったなあ。
──
ぼくも「闇」は感じないし、
その人は、福田さんのことが好きだから
そう言いたかったみたいなことも
あると思うんですが、
たしかに「さみしさ」は感じるんですよ。
及川
ああ、そうかもしれないですね、たしかに。
心地良いさみしさ。
──
素敵な絵なんだけど、どこか、さみしい。
好きなさみしさ。



で、そういう感じは、
100%ORANGEさんのイラストには、
あんまり感じないんです。
及川
ははは(笑)。
写真
──
福田さんの絵は大好きだし、
額装の作品を飾っているくらいですが、
100%ORANGEさんは、
こっちで振りきっていて素敵だなあと
個人的には思っていました。



そのあたりについて、
ご自身の気持ちとして、どうですか。
及川
うん。たしかに作品によっては、
感情の気配のようなものは
抑えるようにしてるかな。



でも、本の装画なんかでは
思い切りエモーショナルな絵を
描くこともあるよ。
竹内
うん。
──
ああ‥‥たしかに。そうか。
及川
イラストって、
本当にちょっとしたことで、
感情らしきものが発生するんです。



たとえば、女の子の立っている背景に
「水平線」を描いた場合、
それが、
ちょっと「斜め」になっているだけで、
何らかの感情が表れちゃうことがある。
──
へええ‥‥おもしろいです。
及川
たぶん、ぼくの絵って
露骨に感情が出ないほうが
入り込みやすいんだと思います。



女の子なら女の子を、
どこかの風景の中に置くんじゃなくて、
その子だけを、ポンと描く。
──
はい。
及川
あちらから何か訴えかけてくるというより、
こちらから
「どうしたの?」って行く感じ。



この前も、トートバッグをつくろうと、
子どもの絵を描いたんです。
──
ええ。
及川
そのとき、背景に道を描いたんだけど、
そうすることで、
トートバッグという商品に、
妙なストーリーが見えちゃったんで、
もっとカラッとさせたいなと思って
背景はやめました。
──
なるほど。
絵のストーリー性‥‥ということかあ。
及川
奥行というか、背景というか。ね。



風景という意味の「背景」じゃなくて、
その人物の裏側にあるもの、
そういうものが見えると、
絵として、うれしいもんね。
──
物語と言い換えても、いいような?
竹内
福田さんの絵って物語的で、
いろんな想像をすることができるし。
及川
そうだね。
ぼくはちょっと、ドライすぎるのかな。



福田さんとは近いフィールドで
仕事をしているけど、
似ているようで違うんだね。
──
どっちもそれぞれで、素晴らしいです。



今回「ほぼ日」のカレンダーに
描いてくださった12枚のイラストも、
かわいくて楽しいんだけど、
物語を感じると言ったら、ちがうかも。
及川
ああ、あれは、子どものころに見てた
『ポンキッキ』とか
『セサミストリート』みたいな感じで
描いてみようと思って。



粘土でできた「1」とか「A」とかが、
ニョキニョキニョキ~って、
そういう短いアニメがあったんですよ。
──
あー、はい。
及川
ああいう知育っぽいイメージがありつつ、
でも、あっけらかんとしてるほうが
かわいいかなと思って、ああしたんです。



クマちゃんとかにしても、
何にも考えず、
こうワアーって出てくる感じとか(笑)。
──
最初にメールで送られてきたときに見て、
ぱあっと、うれしくなりました。
及川
パッと見で子ども用みたいに見えつつも
大人も好きな感じを目指しました。



自分の好きな雰囲気なんですが、
そんなふうにできたかなあと思ってます。
写真
<つづきます>
2021-09-16-THU
100%ORANGEさんの個展、

千葉県立美術館で開催中!
写真
いま、千葉県立美術館で
100%ORANGEさんの個展を開催中です。

みんな知ってる
新潮文庫のパンダの「Yonda?」から
福音館書店『母の友』装画、
映画のパンフレット、ポスター、
オリジナルの文房具‥‥
さらにはマンガや「こけし」に至るまで。
100%ORANGEさんの世界を
たっぷり味わえる、楽しい展覧会です。
100%ORANGEさんは
イラストさえあれば
どこへでも飛んでいけるんだなあって
うらやましくなりました。

9月20日(月・祝)まで開催中です。
詳しくは公式サイトをごらんください。