ラストワルツを聴きながら。
あのすごさを、余すことなく語りあう。

"The Band"の『ラスト・ワルツ』というライブDVDを、
夜中に仕事しながら、ずっと、毎晩観ているんです。
25年も前のコンサートでビデオも持っていたのだが、
今回のDVDは5.1チャンネルで、しかもオマケがすごかった!

ギターのロビー・ロバートソンが、
監督のマーチン・スコセッシと映画を観ながら語っている。
その会話の隅々までが、砂金の粒々のよう。
勝手に、このDVDのための企画を考えていたら、
あの「沼澤尚」ドラマーが食いついた!

沼澤さんも、おなじことをやってた時期があったらしい。
わがままなコンテンツのスタートですが、
これは相当に期待していてくれていいと思いますよー。

第6回 抱えている背景。

『ラストワルツを聴きながら』を
熱心に読んでくださり、ありがとうございます!
このページは、『ラストワルツ』DVDを見ながら、
「表現」について沼澤尚さんと糸井重里が
実感していることを掲載しつづけてきました。
今回は、本コーナー最終回ということで、
ちょっと、ゆるやかなまとめをしているんですよ。

と言いますのも・・・実は、
前回までのさまざまな芸術についての話の合間に、
ほんとうにものすごく長く語られたのが、
固有名詞満載の「バンドばなし」だったんです。

たくさんの人に伝わりやすい話ではないけれど、
まるで、高校生の先輩たちが話すバンドばなしに
中学生の自分が憧れつつ聞き入るみたいな雰囲気で、
たのしんでいただけるかもしれないなぁ、と思い、
敢えて、わかりにくいまま、
会話そのままで、お送りいたします。

固有名詞でわからない部分も、
まるで、学生時代の先輩の会話を
横で聴いている最中のように、
わからないまま読み飛ばしつつ、
どうぞ、対談の空気感をたのしんでくださいね!

「バックグラウンド」ということを主題にして、
最終回は、けっこう長めに、作ってみましたよ。
(ほぼ日・メリー木村より)

糸井 こないだ、沼澤さんの
好きな音楽を教えてもらった時に、
「俺が好きな文章の系列と、同じだ!」
と思ったんです。
沼澤 前にぼくが、
「ジェームス・テイラーがどうのこうの」
という話をした時、糸井さん、すぐ、
「ダニー・クーチマが好きなんですよ」
って言ったじゃないですか。

(※ジェームス・テイラーと
  ダニー・クーチマは幼なじみ。
  シンガーソングライターの先駆け(テイラー)
  最高級のスタジオ・ミュージシャン(クーチマ)は、
  ともに有名になる前にバンドを組んでいました)
糸井 ギターも、そうなんです。
好きな系列は、似てくる・・・。
沼澤 ぼくにとって、妙な言い方をすると、
「その見方、正解!」みたいに思うんです。
それで、ぼくはうれしくなっちゃって。
糸井 忘れてたけど、間に、
ダイアー・ストレイツなんかもいますよね。


(※ダイアー・ストレイツは70年代後半にデビューし、
  ボブ・ディランに認められて以降ブレイクしたバンド)
沼澤 いま、それを聞いて、
自分のドラムの先生の息子でもある、
ジェフ・ポーカロを思い出すんです。
彼はダイアー・ストレイツのアルバムを
やってたりするんですよ。

ぼくはジェフ・ポーカロに捧げて
ソロアルバムを作ったんですけど、
そうやって、好きな音楽ってつながりますよね。
さきほど糸井さんが、
「田中小実昌が好きという人とは、
 ともだちになれる感じがある」
とおっしゃったのと、
音楽の話で盛りあがるのも、一緒ですね。
糸井 つながっちゃうんですよね。
「そう言えば、その系列のやつって、
 俺、前から気になってたのがあった」とか。

そういう流れでThe Bandを聴くと、
『ラスト・ワルツ』がものすごくて・・・。
沼澤 しかも、背景で裏切りがあったわけで。
この人たちが、なんで解散コンサートを、
こういう風にやっているのかをあとで知ると、
余計にびっくりするんですよね・・・。

The Bandのドラマーのレヴォン・ヘルムは、
このライブのことを最低だって言うわけです。
「こんなもん、ただの商売道具で、
 俺らはやらなきゃいけないからやっただけだ」
「ぜんぜん、何とも思っていないね」
みたいなことを、
音楽雑誌で、ごく普通に語っていたりする。
糸井 そうとう意識的にしゃべってますね、それは。
沼澤 ほんと。
みんなが
「ラストワルツ、ラストワルツ」って騒いで、
ビデオだけじゃなくてDVDの方も出て、
ロビー・ロバートソン(The Bandのギター)が
日本に来て、タワレコでトークショーやる・・・。
そういうのを、他のメンバーたちは、
「俺らは別にそんな気でやっていないね」
みたいな。
糸井 正直言って、ロビー・ロバートソンの
その後のレコードって、
ぼくには、おもしろくないんですよね。
軸が抜けちゃってるみたいな・・・。
沼澤 ええ。
おもしろくないです。
The Bandの人たちと
一緒じゃないと、ダメでした。
糸井 リーダーなんでしょ? ロビーって。
沼澤 このDVDで、リーダーだっていう
風情を出し過ぎているのは、他の4人と
めちゃくちゃ対立している証拠
なんです。
糸井 The Bandの音楽的リーダーは、
あのキーボードのヒゲですよね?
沼澤 ガース・ハドソン。
彼は最初、"The Band"のコーチに来てくれ、
と言われた人なんです。

あの人はものすごい博識な音楽家で、
ハーモニーだなんだと知識のある人で、
もともとは、プロデュースをしにきたんです。
ツアーとかもサポートみたいに入っていたのが、
そのまま、メンバーになっていった・・・。
だから、ガースだけ、歌をうたわないんです。

いまのガースは、すごいですけどね、もう。
最近も、ソロアルバムとか出してるけど、
わけがわかんない・・・
現代音楽みたいになっています。
糸井 そっちに行ったんだ?
沼澤 現代音楽ロック、みたいな。
糸井 ふーん。
The Bandの、
「前に見えないのにキャラがそのままある」
という特色で言うと、
『プラネットウェイブ』というディランのアルバム。

(※全編ラブソングのこのアルバムをもとに、
  ボブ・ディランとThe Bandは全米ツアーを行う)


あの中でのThe Bandに、
ぼくは、最初にぶっ飛んだんですよ。

沼澤 そこでですか?

ディランとThe Bandの宅録の
『ベースメント・テープス』よりも?
糸井 うん。
沼澤 たしかに、音も、
『プラネットウェイブ』はいいから、
「やっぱり」って感じもするけど。

ディランと、はじめて組んだのは、
『ベースメント・テープス』で、
その直前に大ケガをしたディランが、
ケガを治しながらやっていたんですよね。

そのあとに、The Bandの
『ミュージック・フロム・ビック・ピンク』
が出て、
「おい、このバンドはなんだ?」
となって、それでクラプトンが、
「俺を、このバンドに入れてくれ」
と言いだして・・・。
糸井 そうらしいですねぇ。
沼澤 The Bandのギタリストの
ロビー・ロバートソンに、クラプトンが
「俺を入れて」って言うのがすごいですよね。
ロビー・ロバートソンからしたら、
「俺をクビにして入れろってこと?
 それとも一緒にやるということ?」っていう。
糸井 入っちゃってたら、
おかしかっただろうなぁ。

沼澤 クラプトンが作ったバンドって、
はじめのころは、
すごいThe Bandっぽかったですからね。
しかも、クラプトンのアルバムの中で、
The Bandがやっているのも1枚ありますし。
糸井 それ、知らなかったなぁ。
沼澤 めちゃシブい。
すばらしいアルバムですよ。
『No Reason to Cry』っていう。

糸井 あとさあ、The Bandで
ロックンロールばっかり集めた
1枚があって・・・いいんだよー。

『Ain't Got No Home』って曲が
最初に入ってるんだけど。
ロックンロールみたいなのばっかり
カバーしてるアルバムなんです・・・。

(※のちに調べて、このアルバムは、
  The Band『ムーンドッグ・マチネー』
  であるということが判明しました)


あ、そうだ、沼澤さんが
「The Bandって、
 ロックと言えばアメリカかイギリスという時期に、
 ほとんど全員がカナダ人で、
 ひとりだけ、レヴォン・ヘルムっていう
 アメリカ人がいるという編成
だったのがスゴイ
と言った、あの視点も、おもしろかったです。

つまり、女形っていう存在がありますよね?
ちょっと、それに近いものがあると思いました。
沼澤 なるほど。
糸井 男なのに、女以上の色気を出すからには、
「女っぽい魅力って、何だろう?」
と、ひとつずつ学んで再現できる人じゃないと、
芝居をできないわけで・・・
だから、女形は、女以上に女になるんですよ。


そこをこの The Bandにあてはめると、
ほとんどがカナダ人だから、
アメリカ以上にアメリカの音楽になる。
沼澤 あの人たちは、
アメリカ音楽をやりたくて
しょうがなかったみたいですね。
糸井 そこが、強さですよ。
沼澤 バンドメンバーとの出会いも、
レヴォン・ヘルムがアメリカで入ったバンドが、
カナダにツアーに行ったことがきっかけで、
「こんなミュージシャンが、カナダにいるんだ!」
と、どんどん、カナダ人たちが雇われていく形で。

ひとりずつ、順番に入っていくんですよ。
ロビー・ロバートソンが入ってきて、
リチャード・マニュエルが入って、
で、あのメンバーが揃っていった・・・。

バックグラウンドって、
おもしろいものだなぁと思います。
『NOTHING BUT FUNK』
(※沼澤さんが参加しているバンド)
ギターをしてるジュブ・スミスって、
あのメンバーの中で、
ひとりだけすっごい若いんですけど、
誰よりもおやじくさい。

ジョークや話しっぷりがおじいちゃんみたいで、
若さを出すことと、
熟練していっぱい音楽を知った
ベテランギタリストみたいなことと、
両方ができる、すごいめずらしいタイプで・・・。

「俺もこれだけたくさん音楽を聴いてきて、
 音楽を知ったつもりでいたけれど、
 おまえの弾く、そういうギターのフレーズって、
 聴いたことがないんだよね?」

みたいに訊ねたら、
そういう曲のルーツは、ぜんぶ、ゴスペル。

元になってる歴史的な宗教音楽を
弾いてもらったら、
ものすごく美しいのですが、彼は、
「これは、おばあちゃんが、うたってくれた歌」
と言ったんです。

彼のバックグラウンドは教会にあって、
小さいころから、毎週日曜日に、
ゴスペルの母体になっている音楽を
ギターで演奏し続けていた男なんです。
だから、そういうフレーズを弾ける。
糸井 スゴイ。

確かに、他の分野でも、
聖書のコンセプトで、
ずいぶん物語を作ることができるし、
絵画も、神様をあらわすための技術から
はじまっているわけで、
「天」とつながるものは、
芸術の原石みたいになっているんですね。
沼澤 ええ。
それで、彼の弾いてくれた美しい曲を
聞きたいから、紹介してもらって、
メモして、CDショップを捜しまくったけど、
ぜんぜん、見つからないんです。

タワーレコードに行っても
ゴスペルなんてバーッとあるのに、
彼が言ったのは一切なくて。

それで、「全然ないよ」って
ギタリストにもう一度訊いたら、
「これは俺らが住んでるところの、
 地元の何とか町の地元の、
 タワーとか新星堂とか山野楽器とか
 そういう大きいショップじゃなくて、
 『その町でアルバムを買うっていったらそこ』
 みたいな、傘屋さんと合体してるみたいな、
 そういうところに行けば、
 ぜんぶCDになって売っている」って・・・。

要するに、そこに行けば、
他のところにはないCDが売ってるんです。
糸井 へぇー!
それを「ほぼ日」で紹介したいぐらい。
沼澤 いいですねぇ!
そういう曲、ぼくら、いくらでもライブやるし。
糸井 沼澤さんのやってるバンドだと、
そうとう、スタジオ料とか安いでしょう?
早く終わりそうだから。
沼澤 ええ、ぼくたちは、
演奏能力と録るエンジニアの技術
キーだと思ってるので、
1日50万円のスタジオに行かなくてもいいんです。
『J&B』で録った時も、3日間でやりましたから。
しかも、ぼくのとこの事務所のスタジオを借りて。
糸井 じゃあ、もしかしたら、
「ほぼ日」でCDも出せちゃうかもしれないんだ?

低予算ですごい技術で作って、
ほんとうに聞きたい数千人や数万人に届ける。

それって、インターネットがあれば、
できないことも、ないですから・・・!
(※この後も、ふたりの話は、盛りあがりつつ、
  夜更けまでどんどん続いていったのですが、
  今シリーズは、これでいったん、おわりです。
  
  現れるたびに、何かを一緒にしたくなるドラマー
  沼澤尚さんの、またの「ほぼ日」の登場を、
  どうぞ、たのしみにしていてくださいませ。
  ご愛読、どうもありがとうございました!)

これまでの「ラストワルツを聴きながら。」
第1回 太鼓は言葉。
第2回 送り手は、口説き手。
第3回 コピーと表現。
第4回 バンドの終わり。
第5回 ホンモノの技術。

このページへの激励や感想などは、
メールの表題に「ラスト・ワルツ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2003-05-14-WED

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