ラストワルツを聴きながら。
あのすごさを、余すことなく語りあう。

第4回 バンドの終わり。

沼澤 The Bandの人たちに関しては、
「知ってはいたけど、
 こんなにすごかったっけなぁ」
って、最近、特に感じるんです。

前にThe Bandはスゴイって
コラムに書いた時、
「DVDが出たらなあ」
って言っていたぐらいでした。
まさか、ほんとに出るとは思わなかった。

ぼくがすごく信頼している
ローディーのひとりは、
(※ローディー:
  楽器のセッティングや、音質の調整をはじめ、
  ミュージシャンから、様々な相談を受ける人)

The Bandのフリークで・・・。
糸井 The Bandって、一見、地味じゃないですか。
でも、音楽フリークやバンドフリークに、
好ましいと思わせる何かがあるわけで。
沼澤 絶対、そうですよ。
頭脳明晰な大人が真剣にロックをやると
こういうことだ
と。おそろしい・・・。
糸井 『ラスト・ワルツ』って、
ロックってガキのもんだと思ったら
おおまちがい、っていう作品ですよ。
とにかく奇跡のような映画で、
奇跡のようなコンサートなんですよね。
オトナの実力って、こわいなあ。
沼澤 The Bandの人たちが
こんなにうまいんだっていうのを、
ぼくは、あとになって知ったんです。
前は、全然そんなふうに思ってなかったの。
糸井 わかります。
何て言うか、きれいにできた建築を見ても、
すごいけど、素直に好きとは言えないというか。
最初は、ぼくもそうだったと思う。

でも、The Bandとぜひ演りたいっていう、
ニール・ヤングみたいな
ハチャメチャな人がやってくるわけで。
沼澤 ええ。
このライブも、曲を演奏しない間に、
ひとりひとりすごいアーティストが出てきて、
The Band と、ちょっとした
やりとりをするところが、イイですよね。
糸井 すごい・・・。
舞台の前には、
ふつう、楽屋で会ってると思うんですよ。
だけど、舞台で会う時と楽屋で会う時は、
きっと顔が違うんですよね。

特にニール・ヤングのゴリラぶりを
好きだったぼくには、たまらない映像。

ニール・ヤング、とにかく、
客に背中向けっぱなしだったもんね。
沼澤 ニール・ヤングは、
いちばん、おもしろかったです。
ステージに出てきて・・・。
糸井 怪しく入って来て(笑)。
沼澤 The Bandの人たちとしゃべって、
「俺はほんとに、ここにいられて最高!」
みたいな・・・。

翻訳には出ていないんですけど、その後、
「それはこっちのセリフだよ。何言ってんだよ」
みたいなことを、ロビー・ロバートソンが
ニール・ヤングに、言うんです。
糸井 ほー。
沼澤 その一連のシーン、いいですよね。
糸井 ニール・ヤングと一緒にやっても、
The Bandは崩れずに・・・
逆に、ニール・ヤングのほうは、
The Bandの良さを思いっきり吸い込んで、
もっとキチガイになってますよねえ。
沼澤 そのすごさがあるんだと思う。
クラプトンがThe Bandと組んでもそれだし。

だから、ぼくも焦って、
いろんな人たちがThe Bandに頼んで作った
アルバムを、ぜんぶ、買いはじめたんです。

「こんなすごいのを、知らなかった!」
・・・もっと知りたいと思うじゃないですか。
糸井 体系化したくなったんだ。
沼澤 はい。それでいろいろ聴いたら、
「うわぁ、こんなことやってたんだ?」って。

なんで、グレイトフル・デッドが
The Bandと一緒にライブアルバムを出すの?

マディ・ウォーターズが
The Bandと組んだアルバムも、
他のアルバムに比べて、ぜんぜん泥臭くない?

・・・すげえ、って驚いたんです。

『ラスト・ワルツ』も、
背景を知るとさらにだけど、こんな気持ちで
音楽やったり映画撮ってる人、今はいないです。
いるのかもしれないけど、ぼくは、知らない。
糸井 『ラスト・ワルツ』に出てくるゲスト、誰一人、
祭りごとだからって、手を抜いてる人がいない。
沼澤 きっと、
「頼まれた仕事をやってるんだ」
っていう人が、一人もいなかった
んでしょう。
糸井 ゲストのミュージシャンの全員が、
「いちばんのステージをやろう」
と思ったんじゃないですか?
沼澤 「好きなバンドが解散するんだって?
 じゃあ俺も行こうかな・・・」
っていう、ただ、それだけで集まった。
糸井 大葬式。
沼澤 そうですよねぇ。
糸井 やっぱり、終わりの時に
ぜんぶがわかるんだね、なんでも・・・。

沼澤 このあと、メンバー、
それぞれ、みんな何かをやるんですよね。
でも、だめで・・・。
糸井 それをぼくらはいまは知っていて、
そう思いながら見ると、切ないんですよ。

メンバーがしゃべっていることは、
もう、グルグルまわっているけど、
ひとり醒めていたのがロビー・ロバートソンで。
沼澤 それは、なぜそうかと言うと、
実はこの解散ライブの直前に、
ロビー・ロバートソンと彼のマネージャーの
ふたりが、The Bandの権利を、
法律的に彼らだけのものにすることに
成功しちゃったんです。
糸井 ほぉー。
沼澤 「超裏切りの図」のあとなんですね。
みんなでやったことなのに、
ロビー・ロバートソンが、The Bandの
印税から何からをぜんぶ自分のものだけにする、
それを弁護士とやって、成功しちゃった。

それで、他の連中が、
「そんなもんやってられるか!」
ってなったけど、
「じゃあ最後にこういうことをやろう」
と解散コンサートになっちゃったんです。

そしたらみんなが俺も出してくれって言って、
一緒にやりたい人が全員ここに出てきたんです。
「終わっちゃうんだったら」って。
糸井 現実というものの
すごい深みと広さを感じる・・・。
沼澤 ・・・本人たちの意志とは別に、
すばらしいライブだったというところが、
また・・・演奏はすごいし、音もすごいけど。

撮影にしても、ものすごい考えてるもん、これ。
「運がよくてぜんぶ7時間で撮れてよかった」
と監督が言ってましたね。
糸井 マーティン・スコセッシ。
おそろしい仕事って、何かしら、
そういう、「運のよさ」がありますよね。

ライブを映画で撮るって、
撮り直しはないんだもんなぁ。

現場で演出できない分を
ぜんぶ言葉でカメラたちに指示したと、
特典のメイキングで、
スコセッシが語ってますね。
沼澤 台本をタイプで打ってる時なんて、
もう、笑いが止まんないと思うんですよ。
糸井 でしょうねぇ・・・。
沼澤 実際は、すごい、大変なんでしょうけど。
  (つづきます)

2003-05-08-THU

BACK
戻る