第5回 好きではじめたこと

糸井 先日、村松友視さんと話したときに、
「オレはたまたま書き下ろしっていうのが
 好きな作家だったんで
 すごくたのしいんだよね」って
おっしゃってたんですよ。
つまり、書き下ろしをしているあいだは
仕事をしているということだし、
それを誰かに預けたら本になって、
「それがオレの仕事なんだ」って
思えることの健康さみたいなものがあって
「悪くないなぁって思ってんだよね」って。
白岩 ああ、なるほど。
糸井 そういう考えもあるなぁと思ったんですけど。
これが、書き下ろしができないという人だと、
たとえば月イチの連載がベースだとすると、
その場所がなくなったとたんに
さびしくなっちゃうと思うんですよ。
白岩 そうですね。
場がないっていうのは確かにつらいんですよね。
もう、それを取られてしまったら
どうしようもないっていうか‥‥。
糸井 しかし、そういうことを、
ひとりの作家がそんなにも
考えなきゃいけないというのは、
いま特有の問題なのか、
それとも昔から変わらないことなのか。
白岩 場が持てないっていうことに関してですか?
糸井 うん。そもそも、職業作家っていうのが
きちんと成立した時代って、
日本文芸史の中で
そんなに長くないのかもしれないですね。
菊池寛が「文藝春秋」を出したのは
書けないし、場も持てないし、お金にならない、
っていう人たちの場をつくったわけですよね。
あとは、その、漱石にしても森鴎外にしても
作家のほかに職業がありましたし。
白岩 そうですね。
糸井 もちろん、いくらかの例外は
どの時代にもありますけど、
おおづかみにいえば、
いまは作家じゃ食えないっていうより、
そもそも食えてた時代がひじょうに短かった
ということがいえるんじゃないかなぁ。
白岩 うーん‥‥じゃあ、今後も、
食える方向性ってのは難しいんですかね?
糸井 いや、それはわかんない、どうなんだろう。
まぁ、少なくとも今後は、
純文学とか大衆文学とかいう垣根みたいなものは
どんどん崩れていくでしょうから、
「作家」「小説」というくくりからして、
どうなるかはわからないと思いますけどね。
白岩 そうですねぇ‥‥。
あの、「場」という意味では、
糸井さんはインターネットの上に
自分の場をつくられたじゃないですか。
糸井 はい。
白岩 そのときは、どういう思いで
新しい「場」をつくられたんですか?
糸井 乱暴にいえば
そのときいた場所がイヤだったからですね。
白岩 広告の世界が?
糸井 うん。広告の世界で、自分がいた場所が、
すごくこう、未来を見て惨めだったんですよ。
そのときはまだセーフだったんですけど、
「まだセーフ」っていうくらいのことって
ようするにアウトなんですよ。
白岩 あ、そうか(笑)。
糸井 わざわざ「セーフ」っていうようなことは
「アウト」なんですよ。
白岩 セーフっていうことにしてるっていうふうな。
糸井 そうですね。
で、それはイヤだったんですが、
なにしろぼくはほっとくと何もしない人なんで、
とにかく、ここじゃない場所に
引っ越したかったんですね。
白岩 その場所がインターネットだったんですね。
それは、偶然、出会ったんですか?
糸井 そうですね。
そのときはインターネットという場所が
やっぱりすばらしく思えたんです。
なんていうか、「おもしれぇぞ!」って
はっきり言えるような場所だった。
白岩 あの、ぼく自身も、勝手に
「小説」をそういう場所に思ってるんです。
すごく可能性があるメディアだと
ぼくは感じてるんです。
けど、ま、あんまり、
みんなは理解してくれない(笑)。
糸井 おおむね、そういうものは
理解はされないでしょう。
白岩 うん。なんでなんですかね?
糸井 しょうがないんですよ。
「好きではじめたこと」って
理解されなくてもしょうがないんです。
白岩 あ、そっか。
糸井 うん。
白岩 理解させる必要もないのかもしれない。
糸井 あの、たとえばね、
青山とか渋谷とかをずっと歩いてるとね、
いま、どんどんレストランが
潰れていってるんですよ。
もう、笑っちゃうくらい、店が閉まってる。
白岩 はい。
糸井 で、そういう店を見ながら
よく行く蕎麦屋に入ったんですけどね、
その店は、お客さんがいないころもあったけど、
潰れなかったんですよ、けっきょく。
で、なにが違うのかなぁと考えたんですけど、
ひとつわかったのは、
「これで食っていけるぞ」とか
「これやったら儲かるぞ」とか
「こうしたらお客さんが来るぞ」とか
そういう理由ではじめた人たちの店は
潰れるんですよ。
白岩 ああーー。
糸井 一方で、ほかになんにもなくって
その店をやってる人っていうのは、
味が悪かろうが、お客さんが来なかろうが、
潰さないんです。
白岩 うん。
糸井 ぼくのよく行くその蕎麦屋は
お客さんが来るようになったんですけど、
仮にあの店が、
お客さんが来ないままだったとしても、
たぶん、借金くらいはするかもしれないけど、
とにかくなんとか我慢して、
なんとかなるまでやると思うんですよ。
白岩 ああ、その根本的な違い。
糸井 うん。「お前、食えてんの?」
っていうタイプのことじゃなくって、
「ほかになんにもないから
 オレ、これやってるよ」っていうのは
潰さないでいるんですよね。
白岩 そっか、そっか。
糸井 だから、「好き」ってすげえことでね。
白岩 はい(笑)。
(続きます)
2009-07-27-MON
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