hobo Nikkan itoishinbun





第4回 識と薬との出会い
糸井 喘息のときって、
まわりの人がいろんなことを
勧めてくるじゃないですか。
梅の実を割って、
中の汁を氷砂糖で煮て‥‥とか。
清水 ああ、民間療法。
糸井 民間療法、やりました?
清水 はい。
ネギを焼いたりとか、
大根にハチミツ入れて汁を飲んだりとか。
糸井 やった、やった(笑)。
清水

日本酒を温めて胸に当てたりとか、
もう、あらゆる民間療法を
すべて試してみるみたいな。
やはり、そういうことって、
ほかの兄弟からしてみると、
「特別扱いされている」
というふうに見えるので、
それがいやでしたね。

糸井 また、半端に知識がついてくると、
どんどんつらくなるんですよね。
喘息って、もともとは免疫が
過剰に防衛してしまうという病気だから、
たとえば、畳の部屋にはダニがいますよ、
ということがわかると、
フローリングにしないとダメだ、
というふうに考えてしまう。
あるいは、外に出たら
こういう花粉がありますよだとかね、
さまざまなアレルゲンを意識すればするほど、
どこにいてもつらくなりますよね。

清水 はい。
糸井 勉強すればするほど、
「ここにはこういう敵がいる」というふうに
やっちゃいけないことが
どんどん増えていくわけです。
ぼくも、知識が半端な時期には、
これはダメだ、あれもダメだって
思いたくなっちゃってたんです。
でも、それだとつらくなるばっかりで、
生きていけないなと思ったので、
逆に、もっと深く勉強しようと思って、
一所懸命、免疫の本を読んだんですよね。
清水 ああ、なるほど。
糸井 これは、体の構造として、
こういうふうに起きるんだということを
まずはしっかり理解しようと思ったんです。
ほかの人が喘息を起こさないということは、
同じ状況でもへっちゃらでいるということですから、
いつかそういうふうになれたらいいなと思って。
そんなときに、
『免疫の意味論』という本と出会って、
これは助けになりました。
清水 どういった内容の本ですか?
糸井 免疫というものを通して
「自分とは何か」というところまで
掘り下げていく本なんです。
つまり、「自分じゃないもの」が入ってきたときに、
それを排除しようとするのが免疫なんですよ。
たとえば、ダニってたんぱく質ですよね。
ダニを吸ったときに、
「誰かが来たぞ、追い出せ」って、
どんどん攻撃しちゃうわけです。
その、攻撃した戦場の跡が炎症だったりする。
そういうときに、喘息じゃない人は、
ダニを吸い込んでも攻撃しないってことなんですよ。



「そうか!」と思ったんです。
オレは余計に攻撃をして、
他者と自己の区別をしすぎてるところに
自分の体の特徴があるんだと思って。
ひょっとしたら、心も、体の動きに習って
バランスを作っちゃうかもしれないなと感じたんで、
うまく治るということと、
心が変わっていくということが
重なってるかもしれないって思った。
そういうふうに思うようになってから、
「ダニがいるから危ない」みたいな
危険中心の考え方から、
「オレが過敏すぎるんだ」っていう
考え方に変えていったんですよね。
もちろん、オトナになってからですけどね。
そういうふうに、勉強して、
まずは心がけを変化させていくなかで、
発作をおさえるというのではなく、
薬で発作を出さない状況を続けていくという
自分にとっての最終的な治療法を見つけたんです。
吸入するステロイドの類なんですけど、
清水さんの使っている薬も同じやつですよね?
清水 はい。
炎症を抑えるタイプです。
糸井 あれに出会うまでは長かったなぁ。
清水 長かったですね。
糸井 清水さんは、その薬と出会うまでは、
治った時期はないんですか。
清水 ないですね。
糸井 あ、それはきついですね。
ぼくは、一度治ってるんですよ。
つまり、喘息を二度やってるんです。
一度は小学校の二年生くらいまでで、
それは小児喘息だったと思うんですけど、
いつの間にか治っちゃったんです。
で、そのあとは思春期くらいから
ずっと鼻炎を患っていて、
30歳になってからまた喘息になるんです。
それは、10年近く続いて、40代の手前に治った。
それからは、まったく再発していないです。
清水 へぇー。
じゃあ、本当に薬で治ったんですね。
糸井 そうです。
どの薬が効くかというのを、散々テストして
専門のお医者さんが、
「これで安定しますね」
というところを処方してくれて、
それを毎日朝晩シュッてやって、うがいする、
というのをずっと続けてました。
そのうち、朝晩だったものが1回でよくなって、
とうとう、お医者さんから
「息苦しさや発作がずっとなければ、やめていいです」
って言われたんですね。
でも、いつか必要になるからというので、
薬は捨てずに持っていたんです。
旅先にも持って行きましたし。
そのうちそれを持って行かないようになり、
忘れるようになって、最後には捨てました。
だから、いま、ぼくの家には
喘息の薬は何もないんですよ。

清水 へぇー。
糸井 だから、よくなるだけじゃなくて、
完全に治るってこともありうるんですね。
少なくとも、ぼくの経験からいえば。
 
(続きます)
2007-10-29-MON
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