019 たのしく味わう。その19
「水を食べる」料理。

よく茹でたペンネリガーテが
ソースや調味料の味を吸い込んで、
パスタそのものが肉感的なほどにおいしくなってくように、
博多うどんもゴクゴク、
出汁を吸い込みおいしくなっていく。

実は先日、博多のおいしいモノの食べ歩きをしたのです。
2日使って10軒ほど。
食べる仕事とでもいいますか‥‥、
よく自分でもこんなに沢山たべられるなぁ‥‥、
と呆れるほどに何軒も。
博多のうどんを見に行ったわけではないのだけれど、
おいしいものを挙げていくと結局、博多のうどんになって、
それで10軒の視察先の中で
半分の5軒が博多のうどん屋さん。
「牧のうどん」なんていうお店があって、
そこのうどんのやわらかさたるや前歯がいらないほど。
食べているうちに汁をすいこむ。
吸い込むから当然膨れて、食べたはずなのに麺が減らない。
出汁の入ったやかんが別にやってきて、
うどんに吸われて汁をなくした丼の中に
出汁を注ぎながら食べる。
減らないうどんを格闘するように食べ進め、
だからもうお腹がパンパンになるほどいっぱいになる。

なのだけど‥‥。

すぐにお腹が空くのです。
出汁という水気をタップリ含んだ麺は、
お腹にやさしく消化が速い。
だから一日、
5食もうどんを食べることができたのでしょうね。
博多のうどんはつまり、「水を食べる」料理なんですネ。



調理方法には2種類あって、
ひとつは「素材に水を加える」方法。
煮たり炊いたり、あるいは茹でたり。
素材はふくらみ、やわらかくなる。
もうひとつの調理法は「素材から水を奪い去る」
というモノで、焼いたり揚げたりがその代表。

例えば牛肉の塊肉を調理するとしましょう。
タップリの出汁の中でクツクツ煮込む。
すると、一旦、肉の脂や持ち味が煮汁の中に滲んでとける。
それをずっと続けていくと、
今度は煮汁が肉に戻っておいしくなっていく。
肉の持ち味をたのしむというよりも、
出汁やスープ、調味料の味や風味をたのしむ
料理のできあがり。
煮物は「水を食べる」料理の一種でもあるんです。

一方、それをオーブンの中でローストビーフにしてやると、
肉の中の水気が熱気で吐き出され、肉の旨味が凝縮される。
素材の持ち味をたのしむのならば、
茹でたり炊いたりしないで、
焼いたり揚げたりするほうが良い。
茹で野菜より焼いた野菜の方が甘みも旨味も強くなるのは、
みなさんもご存知のコトと思います。



ただ、焼いたり揚げたりするコトで、素材が縮む。
水分が調理の過程で蒸発していくことで
おいしくなるのですから、宿命的なコトなんだけど、
それをもったいないと考える人がいた。

例えば中国料理の調理人たち。
肉を炒める前に必ずある下ごしらえをする。
ボウルに水を入れたところに、調味料を次々入れて、
油と一緒に肉を投入。
グイグイ揉み込み、肉の中に水をタップリ含ませる。
焼くと当然、縮みます。
けれど焼く前に水を含ませ膨れた肉は、
縮んだとしても元の肉の大きさ、
厚さと変わらぬボリューム。
しかもみずみずしくて柔らかで、
シットリとした食感の料理を好む中国の人ならではの
こだわりとでもいいますか。
肉のコストと、肉に飲み込ませる水や調味料、
スープのコストを比較すれば、
当然後者の方が安くて、つまり経済的な料理でもある。
合理性を尊ぶ中国の人の見事な発明なのだろうと、
中国料理を食べる度に感心をする。

ちなみにこの「調理の前に水ぶくれさせる」という下準備。
悪用する人たちがいるのですネ。
それも今の日本ではとても目立った悪用で、ちょっと厄介。
その厄介なお話を来週しようと思います。



2015-07-16-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN