018 たのしく味わう。その18
ショートパスタの茹で時間は?

ショートパスタ。
20世紀のボクらにとって、それはすなわちマカロニで、
グラタン皿の底に埋まってベシャメルソースや
チーズをからめて口に運ぶための、まるで脇役。
そのおいしさや、茹で加減のコトを
とやかく言う人なんていなかった。

かつてのスパゲティーもそういう存在。
アルデンテなんて言葉もなくて、茹でて炒める‥‥、
焼うどんとか焼きそばなんかと同じ料理の
西洋風の食材のように思われていた。

例えば洋食屋さんで、メインの料理のサイドを彩る
ガルニという料理があります。
キャロットグラッセやポテトフライ。
インゲンを茹でたモノとか、
どれも脇役ではあるけれど、調理人の腕と技術の見せ所。
うつくしく切り、整える我慢強さや、
それをほどよき火加減で料理に仕立てる技術を、
みんな誇らしげにガルニに投入したものです。
当然、それらは手間を要する。
下ごしらを存分にしないと料理にならないモノで、
けれど思いがけずお店が忙しかったりします。
メインの料理を作る素材はまだ残ってる。
けれどガルニがないから料理にならない。
さぁ、どうしようと、そんな時に重宝するのが
あらかじめ茹でておいたスパゲティーやマカロニで、
それらをチャチャッととソースで炒めてサイドに添える。
なんとかお皿はにぎやかになる。

特にマカロニがケチャップ味でも
ホワイトソースをあえてもよくて、
メインの料理の味に合わせていろんな工夫を受け止める。
それ以外だと粉末になったマッシュポテトの素でしょうか。
それに温めたミルクを入れてかき混ぜれば、
お皿の脇がホッとする。
とはいえどれも「おいしさ」よりも「便利」が理由で
重宝された食材であったコトにかわりはなかったのです。



ところがまずスパゲティーに革命がくる。
アルデンテという革命で、
茹でたてにあらずんばパスタにあらず、
というような新たな常識が
日本のボクらに襲いかかってきたのです。
そう。
スパゲティーじゃなくてパスタ。
イタリアの麺は細いうどんのような形をしているモノだと
ずっと思っていた日本の人は、
いろんな形でいろんな名前の麺があるのをはじめて知って、
それらが「パスタ」と名付けられてる‥‥、
ってコトにビックリ。
たちまち熱中。
なにしろ、世界に冠たる麺が大好きな国民ですから。
いろんなパスタが溢れ出し、とあるコトに気がついた。

そうだ、マカロニだってパスタだよな。

パスタなんだからマカロニのような「ショートパスタ」も、
アルデンテに仕上げなくちゃいけないんだ‥‥、
と思い込む。
案外それがただの思いこみで、
実はロングパスタとショートパスタは
まるで違ったパスタなんだというコトを、
思い知らされた経験をしたのです。



とあるレストランで「ペンネリガーテの
ゴルゴンゾーラソース」という料理を食べた。
細かな溝が沢山入った、ペン先の形のパスタで、
その溝がソースをからめとっておいしくなっていく‥‥、
だからチーズソースやミートソースとの相性がよい。
クニュクニュ、奥歯の間を遊びまわるような
噛みごたえもたのしくて、
ロングパスタにはない味わいがある。
ところがそのとき。
作ってくれたペンネの食感が、プルプルなめらか。
クニュクニュ感もいつも以上に強くて、
色っぽくさえあるのです。
チーズソースとの一体感も際立っていて、
ボクがそれまで食べていたペンネリガーテとはまるで別物。

特別なペンネなんですか?
と聞いたら、いや、ゴクゴク普通のペンネです。
それを指定の時間より長く茹でるとこうなるんです。

どのくらい長く?
2、3分余分に茹でればこうなるの?

そう聞くボクに、
いえいえ、倍くらいの時間茹でてやるんです。
そうするとクタクタになる。
クタクタになったパスタはとても貪欲。
もっと水分を欲するようになるんですね。
そこにソースを加えてやると、
ゴクゴク飲み込むように自分の中に取り込んで
味が芯まで入るんです。
しかもなめらか。
ぜひ、ご自宅でも試してごらんくださいな‥‥、と。

試しましたとも。
それはそれはおどろきに満ちた経験でした。

というところで、次回に続きます。



2015-07-09-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN