020 たのしく味わう。その20
冷凍エビのえらびかた。

最近、注意深く目を凝らさないと、
安心して買えない食材がいくつもできた。
中でも気を使うのが「凍ったエビ」。
パッケージを持ち上げ、目に近づけて、
中をよぉく見ないと買えない。
丸々太って、立派なエビに見えるのだけど、
不思議なほどに透き通っている。
そういうエビを買ってしまうと、炒めた途端に身が縮む。
それも大量の水を吐き出し小さくなってく。

そもそも食材を炒めたり焼いたりすると、水が出る。
中でも海の生き物は、
体の中に水分をたっぷり抱いているので
それが加熱されることで吐き出されるモノなんだけど、
通常の量を超えた尋常でない水が出る。
食材からでる水気というのは、大抵、旨味を含んでる。
だから、その尋常の量でない水気は
おいしいジュースのようなものかと味見をすれば、
ただの生臭い水だったりする。

一体、どういうコトなんでしょう。



冷凍すると身が縮む。
凍らせなくても、冷蔵庫の中に長時間入れておいただけで
食材は小さくなってく。
乾燥しちゃうからなんですネ。
その縮みを防ごうと、水分を注入して保存する。
保水液というそのための液体があって、
産地の処理工場でエビの中に注入をする。
細胞いっぱいにその液体を吸ったエビは、
ブルブル、エビ本来の食感じゃない
別の食べ物に変化するのです。
プリプリエビって名前で最近、
いろんなところに出回っている。

そのプリプリの食感をおいしいという人もいるけれど、
やっぱりそれはエビ本来の食感ではなく、
使わない方がいいのだろうなぁ‥‥、と思うのだけど、
それでもそれを使う理由がひとつある。

膨れて量が増えるから。
うどんもそばも、
水で膨れて量が増えることをみんなたのしんでいる。
だからエビも膨れていいじゃない‥‥、って、
無邪気に笑ってすますこともできるのでしょうけど、
食材が水で膨れて、身縮みしないという性格を悪用すると、
大変、かなしいコトになる。

ちょっと科学のお勉強。
細胞が飲み込める限界まで蓄えてしまった保水液。
凍ると膨れる。
水は凍ると量が増えるのは常識です。
膨れてしまうと、細胞膜を傷つけます。
それが加熱され解けると
蓄えていた水分が細胞から一斉に流れ出す。
それがフライパンの中で縮みながら、
大量の水を吐き出す憐れなエビの正体。

料理を台無しにしてしまうだけじゃなく、
彼らは保水液の分までお金をふんだくる。
なんたる非道。
そんなコトは許すまじと、
目を皿のようにして凍ったパッケージの中を見つめる。
さぁ、どのようにして見極めますか‥‥?



ヒントは蕎麦屋の天ぷらにある。

蕎麦屋さんはエビの天ぷらを
ちょっとでも大きく見せようと工夫をします。
天ぷら屋さんの天ぷらと違って、
蕎麦屋の天ぷらは衣が大切。
サクッと揚がった衣が
出汁に旨味とコクを出してくれるから、
ちょっとでも沢山衣が付くように揚げるのですね。
そのため彼らはエビを指でしごいて伸ばす。
伸ばすというか、指でおさえて
繊維を壊し衣をつけて揚げるのです。
縮まず、しかもまっすぐ揚がる。
ただあまりに大きく見せようと伸ばし過ぎると、
エビの食感も味もひ弱な衣のかたまりになってしまう。
あぁ、伸ばし過ぎだなぁ‥‥、と、
エビのとある一か所をみると食べずともひと目で分かる。
その場所は‥‥。

尻尾なんです。

身を伸ばすことができたとしても、
尻尾を伸ばすことはできないのです。
天ぷらの大きさに比べて尻尾があまりに小さいときには、
あぁ、伸ばしすぎ‥‥、ってわかるのですネ。
凍ったエビも尻尾を見る。
尻尾に比べてあまりに体が立派なエビは、
水で膨れた悲しいエビ。

尻尾は嘘をつかないのです‥‥、勉強です。



2015-07-23-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN