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ファイナルファンタジータクティクスアドバンス

 

ほぼにちは!
FFT-Aの開発者である松野泰己さんに
お話をきくシリーズの第2回目です。
クエストからスクウェアへ、
そして任天堂のゲームをつくるに至った
「企画の部分」などを、第1回ではおききしました。
今回は、さらに深く、このソフトの主人公たちが
おかれた境遇、それを生み出した松野さんの背景について
おききしていきます。
3人の主人公に託された思いとは!?!?
そして、「ジャッジメントシステム」という
シミュレーションRPGに初めて取り入れられた
新しいシステムとは!?!?


松野泰己(まつの・やすみ)
株式会社スクウェア業務執行役員開発担当、
及び第四開発事業部長。ゲームクリエイター。
「ファイナルファンタジータクティクス
アドバンス」のプロデュースを担当。
代表作に「伝説のオウガバトル」
「タクティクスオウガ」
「ファイナルファンタジータクティクス」
「ベイグラントストーリー」など。

ファイナルファンタジータクティクス
アドバンス




ゲームボーイアドバンスソフトの
シミュレーションRPGゲーム。
略称=FFT-A。

物語は少年マーシュがSt.イヴァリースという田舎町に
引っ越してきたところから始まる。
複雑な家庭の事情をもつ少年マーシュの周りには
気弱でおとなしい性格のため
いじめられっ子の男の子ミュート、
優等生だが勝ち気で敬遠されがちな女の子リッツが
集まるようになっていた。
そんな三人はある日、
FINAL FANTASYという一冊の古本を手にしたことで
St.イヴァリースの街を一変させてしまう。

それは、彼らが遊んでいたゲーム
"FINAL FANTASY"の世界そのものの
法と秩序が支配する剣と魔法の世界。
砂漠の国、人間ではないさまざまな種族、
白銀の騎士ジャッジ。
不思議な世界に紛れ込んでしまった三人は
それぞれの願望、葛藤、疑問を通して
三人の視点から、ひとつの物語を紡いでいく‥‥


※くわしくはオフィシャルサイトもごらんください。


マーシュ・ラディウユ
物語の主人公。
もともと離れ離れで暮らしていた父親と母親の離婚が
正式に決まったことと、
病弱な弟ドネッドの症状がおもわしくなく
空気のいい田舎へ、という理由から
母親の田舎であるSt.イヴァリースに引っ越してきた。
心優しく、他人の痛みを即座に見抜き、理解する。
正義感が強くまじめ、運動はちょっと苦手。
女の子っぽい顔だちのせいか、からかわれることが多く、
St.イヴァリースの生活になじめないでいる。




ミュート・ランデル

もう一人の主人公。
マーシュのクラスメイト。ぬいぐるみを片時も手放さない、
ちょっと変わった男の子。内気でおとなしいせいか、
学校ではいじめられている。
母親がミュートを置き去りにして病気で亡くなってから
父親のシドは定職に就かず酒浸りの日々。
ミュートはひとりぼっちで、母親の形見のぬいぐるみを
手放さずにいるのだ。
コミュニケーションはへただが、マーシュとはいつの間にか
親しくなっていた。
彼の見つけた古本がこの世界を一変させることに‥‥




リッツ・マルール
物語のヒロイン。マーシュとミュートのクラスメイト。
快活で男勝り、運動も勉強も得意な優等生だが
勝ち気で白黒はっきりつける性格が災いして
まわりからは敬遠されている。
リッツのコンプレックスは、生まれつきの白髪。
染めているが、実はとても気にしている。
勝ち気な性格も、コンプレックスの裏返しなのだ。
マーシュの前では強気だが、ほんとうは泣き虫な一面も。
一変した世界をマーシュとともに
元にもどそうと努力するが‥‥


■■主人公がかかえているもの。
ほぼ日 どこまでが勝手にやっていいよってことか、
興味があります。
主人公が3人出てきますよね。
彼らの「背景」みたいなことは
松野さんがお考えになっているんですよね。
松野 はい。
ほぼ日 で、彼らがみんな小っちゃな傷を、
いろんなパターンの傷を全員が負っています。
それは全部現代の子供たち、
あるいは子供だった大人に
少しずつあるようなものが入っていました。
しかも3人が、そんなに仲良くない、
ただ一緒にいるっていう関係。
一緒にいざるを得なくて
一緒にいるような感じでいて、
その3人が巻き込まれて行く。
さらに向こうの世界に行くと、
その前の世界では仲間だった2人が
敵対関係になります。
そういった骨子っていうのは
松野さんの中に
ずっとあったものなんですか?
97年でしたっけ、その企画書から
あったんですか?
松野 そうですね。
そこらへんはあんまり変わってませんね。
僕の中から出てきたものですが、
僕は平凡な家庭で育って来たんで、
決して不幸な境遇ではないんですけれど(笑)。
ほぼ日 例えば子供たちが今こうだからって
マーケティングから物を作って行く
やり方がありますよね。
松野 あ、はいはい。
ほぼ日 子供たちは今きっとこうだろう、多分こうだ、
だからこういう痛みを入れてやれ、
というマーケティング優先の考え方とは
違う気がしたんです。
もうちょっと自然に松野さんから
出て来たもののように見えるんですよね。
松野 そういう話自体が
僕はわりと興味があるんです。
ニュース見たりとか、
報道特集を見たりとか。
自分の周りの人間たちの
いろんな話を聞いていても、
主人公のマーシュみたいな経験を
してるヤツらはわりと多いですよね、
実は意外と。
ほぼ日 そうですね。
ミュートにしてもリッツにしても
こういう子はいますよね。

松野 実はいっぱいいますよね。
なかなかオープンになりませんけども。
ほぼ日 いつでも隠し事があるとか、
隠してることがすごく自分の
マイナスだと思ってる子、
隠したくないことを隠している子、
‥‥全部あるんですよね。
松野 たぶん僕らの世代よりも
今の世代の方がもっともっと
多いんだと思うんですよ。
ほぼ日 多くの人がリアルに感じてると思います。
子供たちにすごく受け入れられている
感じがするのは、
このベースの深さかなと思ったんですけど。
松野 そうかもしれませんね。
 
■■必ず違うエッセンスを。
ほぼ日 松野さんみたいな世界を作れる人って、
ひょっとして映画作家になったかもしれないし、
漫画を描いてたかもしれないし、
何かしらで絶対クリエイティブで
こういう表現をしてたと思うんですけど、
何でゲームなんでしょう?
松野 ああ、まあそれはゲームしか
作る能がないっていうのが
あるんですけど(笑)。
ぶっちゃけて言っちゃいますと。
僕はいつも物を作る時には
他の人と同じことはやりたくない、
っていうのが必ずあるんです。
同じことをするのは、つまらないんで。
だから必ず違うエッセンスを
取り込もうと思ってるんですね。
昔オウガバトルというゲームを
作ったときもそうでしたけど、
あんまり他ではやっていなかった…、
あれ一番最初の時は93年なんですけど、
ロールプレイングゲームって
正義と悪の戦いで、
必ず最後に正義が勝って、
悪は悪であるっていうじゃないですか。
実際戦争ってそんなもんじゃないし、
一言では語れないし。
だからどこに正義があって
どこに悪があるっていうのが
分からないゲームにしようっていう
エッセンスを持ち込んだり。

ほぼ日 ええ。
松野 あと、タクティクスオウガの時は、
たまたまあの時はユーゴスラビアとかの
紛争がけっこう多くあって、
それはニュースでずっと見ていたんです。
僕は個人的にも興味があったので。
で、文献とかあたってるうちに
紛争の根がすごく深いことに気が付いて、
ゲームにもそういう部分を入れたら
いいんじゃないかっていうのが
あったりとか。
ほぼ日 なるほど。
松野 今ではそれはわりと
主流になっちゃったんですけど。
そういう意味では今回のFFT-Aも
とっかかりとしては、
前回のFFTは僕は反省点が
非常にあったんですね。
僕の中で焦点定まらないまま
作り始めちゃったっていうのが。
ほぼ日 焦点が定まらないまま
作り始めてそれが最後まで
行っちゃったってことなんですね。
松野 そうそうそう。だから自分の中で
未消化だった部分があって、
実際ユーザーから
そういうところは見抜かれるんですよ。
それはもうご指摘の通りで、
反省点として、やっぱり今回は
一つ芯となるテーマをちゃんと作ろうと。
元々ファイナルファンタジーが
目指す世界っていうのは
わりとほんわかした世界なんです。
ほんわかした世界なんだけども、
そこに入り込むためのユーザーっていうのは
実はいろんなものを背負っていて、
ゲームに投影したいものじゃないですか。
ほぼ日 はい。
松野 そういうところを
アレンジしたかったんです。
やってみたかった。
だからほんとは最後の最後まで、
おまんじゅうをつくるなら
あんこを詰めるところまで
自分でやるべきなんでしょうけど、
出だしと最後だけ
こんな感じにしてとか言って、
あと真ん中に関しては
自由に作っていいよって、
スタッフに振る作り方をしました。
でも、僕の言った骨っていうものを
スタッフが理解をして
全部作ってくれたかって言われると、
それは違うんだろうなって思うんですよ。
ほぼ日 うんうん。でもそこは許容と言うか、
ゲームとしての、松野さんが予想しない
おもしろさが出て来たりしますよね。
松野 そうです。
ほぼ日 骨格さえしっかりしていれば
大丈夫、というチームのやり方ですよね。

松野 そういう考え方でやってるつもりですね。
よく言えばスタッフを信頼して任せてるし、
悪く言えば放置しているのかもしれません。
放任主義でもあるっていうことなんですけど。
ほぼ日 テーブルをひっくり返すようなことは?
松野 小さなテーブルなら
たまにひっくり返すかも(笑)。
■■■ジャッジメントシステムについて。
ジャッジメントシステム
イヴァリース全土に制定され、
すべてのバトルに影響を与えるのは、
国王の敷いた法「ロウ」。
イヴァリースでは「殺し合い」や「戦争」が
禁止されているため、すべてのバトルは
ロウ(戦闘ルール)にしたがって執り行われる。
たとえば「炎魔法禁止令」がロウとして公布されていれば
炎魔法をバトルで使用することができない。
バトルはすべて審判「ジャッジ」によって監視されている。


ほぼ日 今回入れた新しいシステムの中に
「ジャッジメントシステム」
というものがありますね。
松野 うーん。これがですね、
実際完成されて見てみると、
反省点が多いんですよ(笑)。
一同 ええっ(笑)
松野 正直に言いますと、
練り込みがちょっと足りなかったです。
‥‥反省点はいっぱいありますね。
ほぼ日 うんうん。
松野 FFT-Aは個人的にはおもしろい試みだし、
発展性はたくさん持ってると思うんですよ。
そういう意味ではこれはまだまだ
アレンジメントできる可能性を
持ってるシステムだと思うし、
チャレンジしていきたいんです。
今、北米版を作ってるんですが、
かなりタイトなスケジュールで作った日本版の
弱点は作り手も分かってるんですよ。
その弱点のいくつかの部分っていうのを
今回北米版では直そうとしています。
ジャッジメントシステムも
かなり、今、手を加えている最中です。
ほぼ日 どういうところがよくないんですか?
松野 簡単に言っちゃいますと、
元々シュミレーションRPGって
将棋っぽいイメージがあると思うんですけど、
ほんとに将棋にしちゃうと
やっぱりライトユーザーの方は
ついて来れないんですよ。
将棋は楽しいかもしれませんけど、
実際に将棋をやるかっていったら
そう簡単にはやらないですよね。
ほぼ日 はいはい。
松野 シミュレーションRPGも、
緻密な計算と戦略と戦術で
戦っていくっていうのは
楽しい人は楽しいと思うんです。
でもいろんな人に楽しんで欲しいという
裾野を考えるとそこは
大味に作らざるを得ないかなと
僕は思ってるんですね。
ほぼ日 はいはい。

松野 あともう一つは任天堂さんの方で
ファイアーエムブレムっていう
素晴らしいシュミレーションRPGが
あるんです。
これの真似してもしょうがないんですよ。
ファイアーエムブレム、僕は大好きなんです。
緻密な戦術と戦略で戦っていく、
非常に素晴らしいゲームだと思うんです。
それと同じものを作っても
しょうがないんです。
逆にエムブレムがあるからこそ、
シュミレーションRPGの
違ったユーザー層と遊びを
今度は提供したいってところで
FFT-Aを作ってました。
ロールプレイングの感覚で
ガンガン育ててガンガン戦っていくっていう
そういうノリは残したかった。
ただそれやるとほんとに力技で
なんでもなっちゃうんですね。
だから僕はどこかで制限事項を設けようと。
だから炎魔法禁止とか、
そういう制限事項を入れて行こうってとこから
元々「ジャッジメントシステム」という
発想が始まったんですよ。
ところが、実際に商品を作ってみると、
この辺のニュアンスの使い方が
僕が、まずかったというか、
コントロールできてなかったんでしょうね、
「制限」にしかなってないんですよ。
ほぼ日 うん? 制限にしかなってない、とは?
松野 できればそこに
一長一短は設けたかったんですよ。
制限はあるんだけど
これでいいところもあるよねってところを
やりたかったんですけども、
その制限だけが際立っちゃって
いいところが立たなかったんですよ。
ほぼ日 ああ!
松野 そういう意味では北米版は、
制限もあるんだけど
その制限を生かして
逆にプラスになることっていうのを
もっとオープンにしていきたいというか、
クローズアップしたいと思うんです。
ほぼ日 はあ、なるほど。
でも、ヘビーユーザーというか
FFT-Aをやりこんでいくと
ジャッジメントシステムっていうのが
いい、という声も増えるのでは?
松野 ええ、コアユーザーには
よかったんだけども、
ライトユーザーにはやっぱりかえって
足かせになっちゃったんですよ。
だからバトルはちょっと難易度を下げて
簡単にして、この制限で
多少頭を使ってもらおうって思ったんですけど、
バトルも作ってみたら意外と
そんなに簡単でもなくなって、
覚えなきゃいけないこともたくさんあるし。
一同 (笑)
松野 よく言えば奥が深い、遊び甲斐がある。
悪く言うと複雑である、
煩雑であるっていう形になったという
反省があるんです。だから今、
北米版に向けて改良しているんです。


そうか‥‥こんな背景をもったソフトである
ファイナルファンタジータクティクスアドバンスが
「いま」発表されたということは
やっぱりなにかとても深いものを感じます。
さて、このインタビューも次回で最終回。
松野さんがいつも心にとめている
「ユーザー」の意見のお話をおききします。
お楽しみに!
2003-03-25-TUE