糸井
国際的に見たら、
日本は「やりすぎじゃないか?」と思われるくらい、
お客さまをもてなすことがあります。
リンダ
「おもてなし」ですね。
糸井
そうです。
日韓ワールドカップを開催したとき、
カメルーン代表が
大分県の中津江村をキャンプ地にしていました。
そのときの日本対カメルーンの試合で、
「中津江村の人たちは
 カメルーンを応援していた」
という話があるんですよ。
リンダ
へぇー(笑)。
糸井
ほか国の人から見たら
ばからしく思えるのかもしれませんが、
ぼくは、これは日本人特有の
すごくおもしろいところだなと思っています。
リンダ
今年のブラジル大会でも、
日本対コートジボワール戦が終わったあと、
日本人がゴミ拾いをしていたことが
ツイッターで話題になっていました。
イギリス人だったら、そんなことはしません。
糸井
笑い話とか不思議な話として
広まっていましたね。
リンダ
そうですね、
わたしも不思議だなと思いました。
糸井
そういう日本人のユニークさは、
これから育てていけるものなんじゃないかと、
ぼくは思っているんです。
そのユニークさが、
もしかしたら観光資源になるかもしれない。
リンダ
観光資源、ですか。
その発想はすごくおもしろいですね。
糸井
ありがとうございます。

ぼくがずっと考えてきたことのひとつに、
「価値ってなんだろう」ということがあるんです。
「弱いことには価値がない」と思われていましたが、
弱いことのなかにだって、当然価値はある。
国際的には笑われてしまうような
過剰な親切というのも、価値なのかもしれないと。
リンダ
なるほど。
糸井
日本はいま、
はたらき方の転換期であるのと同時に
「価値体系が揺れ動いている時期」とも
いえると思います。
同様に、欧米でもきっと揺れ動いている。
リンダ
はい、日本だけじゃなく
世界規模で起こっていることです。
糸井
欧米は欧米で、日本は日本で、
アフリカはアフリカで、
行きづまりを突破する時期なんじゃないかな。
そして、
互いの考えを交換し合って
価値観が混ざり合っていったら、
世界はどんどんおもしろくなる。
リンダ
わたしは
日本は必ず「ワーク・シフト」という変化を
起こすと思っています。
年功序列やピラミッド型の組織などの
昔のやり方が根強い企業も
その度合いは弱くなるでしょう。
欧米諸国も「ワーク・シフト」を
起こすことによって、
日本のように
より品質を重んずるとか、
より平和的な生活を重んずるとか、
そういう方向に変わることがあるかもしれませんね。
糸井
そうですね。
リンダ
昨日、浜離宮恩賜庭園に訪れたのですが、
その公園の手入れしている日本人の仕事ぶりが
ほんとうに美しかったんです。
糸井
美しかったですか。
リンダ
はい、ビデオに撮りました。
糸井
そうですか(笑)。
リンダ
日本がつくり出す多くのものは非常に美しいです。
そのことを、
日本はもっと誇りにもっていいと思います。
糸井
うれしいです。

日本での「わび」「さび」のような、
壊れていくものや色あせていくものを
美しく感じる価値観というのは、
海外にもたくさんあると思うんですよね。
リンダ
そうですね。ありますね。
糸井
そうした美しさのなかに入っているものは、
やっぱり「経験」なんだと思うんです。
リンダ
ああー。
糸井
いま「ほぼ日」では
「気仙沼ニッティング」という
手編みのニットを販売している会社を
お手伝いしています。
手で編んだニットと機械で編んだニットの
なにがちがうのかというと、
手で編んだほうには「経験」が入っているんです。
機械が編んだニットには、
保温などの機能は備わっているんですけど、
「経験」は入っていないんですよ。
つかいこんだナイフであるとか
手で編んだニットであるとか、
商品のなかに経験が入っているもののほうに
ぼくらは魅力を感じるんです。
リンダ
非常によくわかります。
イギリス社会においても
色あせていたり、
つかわれていい味になったものを
価値あるものとしてとらえたりします。
世界的に有名な「ハリスツイード」という
テキスタイルはよい例ではないでしょうか。
ハリスツイードは重厚でタフな生地なので、
そのジャケットが父から子へと何代にもわたって
引き継がれるということも珍しくありません。
糸井
実はぼくらの会社に、
ハリスツイードをつかった商品があるんです。
リンダ
まぁ!
糸井
「ほぼ日手帳」というものなのですが、
このカバーが、ほら‥‥。
リンダ
ああ‥‥すばらしい。
たしかに、日本人なら
ハリスツイードのよさがすぐにわかるし、
とても好きになってくれると思います。
糸井
ヨーロッパと日本には
古いものやつかいこむことに
価値を見出だすという共通項がありますね。
さきほど見せていただいた
リンダさんの会社のオフィスもそうでしょう。
あの古さに、
ぼくらはあこがれを感じるんです。
リンダ
あこがれますよね。
イギリス、フランス、日本など、
歴史が古い社会は
もののなかに含まれている「経験」を重んじ、
いまなお、その価値観は
ちゃんと受け継がれているように思います。
糸井
一方で、
「伝統的である」ということには案外、
いまの行きづまった状況と共通するものが
あるんじゃないかとも感じます。
つまり、
ある時代に大きな影響力を及ぼした「伝統」って、
実はじゃまものだったんじゃないかって。
リンダ
といいますと?
糸井
「古いものから飛び出していかなければならない」
という話が、
リンダさんの本に書いてありますが、
実はもっともっと古いところまでさかのぼると、
現代の状況を突破する大きなヒントが
たくさんあると思うんです。
リンダ
ああー、なるほど。そうですね。
とくに、いまの日本の組織づくりは、
決して日本の古きよきやり方ではないと思います。
そろそろそこから脱却して、
新しいやり方をするときが
きているのではないでしょうか。
そういったときに、
わたしの著書を役立てていただければうれしいです。
糸井
日本の例だけを、分冊にしたりしてね。
リンダ
最近日本でも出版された『未来企業』では、
日本の企業の例もとりあげているんですよ。
ヤクルトです。
糸井
へえー!
リンダ
ヤクルトレディーたちが
高齢者と社会をつなぐ役割をしていることが
とても興味深かったです。
糸井
たしかに、毎日訪問してくれますからね。
あと、あの単価が安いもので
多くのヤクルトレディーが
あんなに明るくはたらいているというのも、すごい。
リンダ
そうなんですよ、すごいビジネスだと思います。
創始者の代田稔さんは
「人も地球も健康に」というスローガンのもと、
ヤクルトを創設したそうです。
そういう価値観が影響しているのではないでしょうか。
糸井
ああー、そうかぁ。
それはぼくにはわからなかったです。
いま言われて、
急にヤクルトがおもしろくなった。
リンダ
そうでしょう。
糸井
(ジャムを差し出しながら)
あ、そうだ、これどうぞ。
ぼくのレシピでつくっているジャムなんです。
リンダ
わぁ、ありがとうございます。
‥‥わたしもジャム、つくるんですよ。
糸井
えーー!
まいったなぁ(笑)。
リンダ
わたしたち、似たもの同士ですね。
ぜひ、次はロンドンでお会いしましょう。
糸井
そうですね、ロンドンで。
(リンダさんとの対談はこれでおわりです。
 最後まで読んでいただき、ありがとうございました)
2014-09-19-FRI