糸井重里
・日本には昔から象という動物はいなかったわけで、
「そういう動物がいるらしい」と知った人たちは、
おそらくすっごく興味を持ったと思うんだよね。
中国から知識としては伝わってきていたから、
姿かたちやら大きさについては、知ってる人は知っていた。
いやそのね、伊藤若冲の絵のなかの象が、いかにも
「描きたかったんだ」という感じで描かれているので、
江戸時代の日本の象というもの存在に興味があったんだ。
獅子だとか、麒麟だとか、エキゾチックな動物については、
いろんな絵師がけっこう積極的に描いているものね。
本物を知らないままに、想像を膨らませていたんだろうな、
と、気軽に検索してみたら、まぁ、いまの時代は恐ろしい。
出てきちゃった、本物の象が江戸時代の日本にいたんだね。
徳川吉宗の時代(享保13年)に、ベトナムから献上され、
長崎から江戸まで歩いて運ばれ、多くの人に見物もされ、
将軍や天皇に謁見したって、そんなの知らなかったよ。
社会科で習ったりすることもなかったしね。
学校の先生も、もし知ってたらきっと生徒に話すよね。
そういう「こぼれ話」をうまく混ぜる先生の授業は、
きっとおもしろいから人気になるのにね。
ぼくらシロウトは、どうしても、「昔」というときに、
10万年前も、500年前も、100年前も、
ざっくりいっしょにしちゃいがちだけど、
ほんとはぜんぶ、ぜんぜんちがうわけですよね。
わりとぼくの好みなのが、「恐竜」の件ね。
知識としては、2億年の昔からいたと知ってるけど、
「恐竜」という概念が生まれたのは18世紀だから、
それまでは、そんなものがいたとは知られてなかった。
偶然に化石が見つかったりはしていたはずなのだが、
それは「龍の骨じゃねーの」と考えられていたらしい。
貝の化石だって「悪魔のプレゼント」だったらしいぞ。
そう考えたほうが、納得しやすかったんだろうね。
どうせ現代にだって恐竜はいないんだから、
鎌倉時代にゴジラを出しちゃっても、よかったね。
「源頼朝対ゴジラ」、見てみたいような気もする。
今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
いまの知識を、いったんわざと忘れると、しばらく遊べるね。






