HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

いまは走れば、
いいんじゃない?
<対談> 水野良樹(いきものがかり)× 糸井重里
8.ホームランになりたい。
水野
歌詞を書いたり、ことばをつむいだりって、
「シンプルにしよう」とするところが
あるじゃないですか。

ことばで表そうとするものって、
いつも、ことば自体より大きい。

たとえば好きな人へ
「愛してます」と言うときの気持ちって、
「愛してます」ということばよりも
大きくて、深い。
それを無理やり「愛してます」という
ことばに詰め込んで渡すじゃないですか。
糸井
そうだね。
水野
その「シンプルにする」ことと、
「現実のややこしさ」は矛盾すると思ってて。
で、ぼくはいつも
「シンプルにしたい」と思いながら、
「ややこしいことって素敵だ」
と思ってるんです。
糸井
ああ、なるほど。
水野
で、糸井さんの書かれたコピーの
「ほしいものが、ほしいわ。」とかって、
そのややこしい現実のおもしろさを、
すごくシンプルに言い表してると思うんです。
あのことば、すごいなと思ってて。
糸井
ああ、シンプルにできたらいいなとは
いつも狙ってますね。
水野
でも糸井さんも、ややこしいことのほうが
素敵だと思っているんですよね?
糸井
おおもとは、ややこしいからおもしろい。
だって、そのシンプルなことを
考えるようになったのは、
現実がややこしかったからですから。
水野
ああ。たしかに。
糸井
‥‥あと、いまの水野さんのお話で
「ことばが表すものよりも、
表わそうとしたもののほうが大きい」
というのは、
そうじゃない人もいるから、
またややこしいんですよ。
水野
あ、そうですか?
糸井
つまり、そんなに愛してなくても
「愛してる」と言いたがる人がいるんですよ。
あと
「それ嘘でしょ?」「思ってないでしょ?」が
あるのもことばだし。
水野
はい(笑)。
糸井
だから、ことばはいつでも
「表したい」と「人に伝えたい」が
交差するところにある。

そういうなかで、ストン!と
気持ち良く落とし穴に落ちるみたいな
ことばができたら、
ものすごくうれしいですよね。
なかなか狙ってできないですけど。
水野
そうですね。
難しいですけど、やりたいですね。
糸井
ぼくは自分でそのややこしい現実を
シンプルに言い表せたな、と思った例が
ひとつあるんです。
水野
はい、なんでしょう?
糸井
それは「何になりたいですか?」と
聞かれたときの答えで、
ぼくがとくに気に入っているのが、
「ホームランになりたい」なんです。
水野
すごい、「ホームラン」。
考えたこともなかった(笑)。
糸井
「ホームラン」って、出来事だから、
取り出して見ることもできない。
でも、野球場にいると、
明らかに見えるじゃないですか。
で、あれになりたいというのが、
これまででいちばん
ぼくが自分の欲を言えた感じなんです。
水野
「ホームラン」は
なにか成し遂げた感じもしますね。
1個を超えているような。
糸井
「球場」があって、みんなの「視線」があって、
ゲームのなかで何かが起こる「大事件」という。
水野
いろんな感情が渦巻くのもいいですね。
チームにとっては喜びだけど、
投手にとっては悲しみで。
あと、なにか意志も感じられて。
糸井
そうそう、そうなんですよ。
形はないけど、明らかにあるもので。
水野
いいですね。
糸井
そう、いままで自分が考えたなかで、
いちばん好きな答えなんです。
でも、説明はそれ以上できないし。
そして、みんなが知ってるし。
飛距離もいいし。
「なに、それ、遠くまで打つ?」みたいな
雑さもあって(笑)。
水野
いま、ぼくにとってのそういうことばって、
なんだろう、と思ったんですが。
糸井
ありますか?
水野
「どんな歌が書きたいですか?」の答えで、
いまの暫定一位が
「桜のような歌」ということばなんです。
ぼくら、デビュー曲も
「SAKURA」と言うんですけど。
糸井
桜。
水野
桜って、きれいなんだけど、
ただ咲いてるだけできれいというか。
たとえば震災があったときとかに、
「お前をなぐさめてやるぞ」という感じでは
咲かないじゃないですか。
季節が来ると咲いて、同じところで咲いてて、
彼は自分がきれいっていう価値も
ぜんぜん知らなくて、ただ咲いてる。

そして、見るほうがそこに
「この桜を亡くなったお母さんと見たなあ」とか、
「入学式のこと、思い出すなあ」とか
「もう春か、やばいなあ。新年度だ」みたいに
勝手に思いを寄せるじゃないですか。
そういう歌を作れたらと思うんです。
歌って、そういうものになれる気がするから。
糸井
いいですね。
水野
あと、さきほどの「ホームラン」の話で
思い出したのが、
「いきものがかり」の山下とぼくは、
小学校のときからの付き合いなんですが、
彼のことばですごく影響を受けたことがあって。
‥‥って、メンバーだし
ちょっと恥ずかしいんですけど(笑)。
糸井
うん。
水野
10代のときとか、音楽をはじめると、
大人たちが「夢は何だ?」と聞いてくるんですね。
糸井
言うね(笑)。
水野
そして、周りの人たち、
たとえばライブハウスの店長とかが
「おまえら、ぜったい武道館行けよ。
夢叶えろよ」
とか言ってくれるんです。
でも、ぼくはそこにずっと違和感を感じてて。
糸井
うんうん。
水野
それを、あるとき山下が言ったのは、
「自分はそれを夢にしたくない。
だって、武道館とかって到達点だから。
夢を点でとらえると、
終わっちゃうからつまんないじゃん」って。

そして彼が思う「点じゃない夢」というのは
「最期死ぬときに
『ああ、楽しかった』と言って
終わるのが夢だ」みたいな。

だから彼は、
「高校時代のいまも日常が最高だし、
この状態のままというか、
ずっと『日常最高』という状態のまま、
最後まで生きていきたい。
それが自分の唯一の夢だ」
みたいに言ってて。
そこにぼくも「おお、いいなあ」と思って。
糸井
ああ、いいね。
「夢」ということばには、
みんな、ほんとうに悩まされますよね。
水野
そう、ずっと言われるんですよ。
デビュー当初なんて
「夢について語ってください」
みたいな話とか来て、
「いやいや、違うでしょう」
とか思ったりして。

夢って「夢がある」という事実だけで
得られる快楽があると思うんですよ。
でもそれ、すごくつまらないと思ってて。
糸井
それ、麻薬的な快楽だからね。
水野
そうなんです。
何もしていなくても気持ちよくなれてしまう。
さらに、その「夢」ということばで
身を崩す人もたくさんいて、
すごく精神が辛くなったり、
どうすればいいかわからなくなったり。
それは、いろんな人に不幸なはずだし。
糸井
夢って、語るとなまじ拍手が来ちゃうから、
それにやられちゃうと思うんです。
水野
たしかに。そうですね。
(つづきます)
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2016-11-01-TUE