もくじ

第9回 制度論と個別論。

お手柄主義って、あると思うんです。

たとえば
「私がこうやったお陰で
 この会社は200万円稼いだんです」
みたいな。

糸井

ああ‥‥ありますね。

伊賀

「ここをこうこうこうすることで
 原価が2円下がりますので
 何万部売れば、何十万円儲かることになる」
というハンコをたくさんついてもらうことで、
ものすごく
自分が仕事した気になってる人‥‥いません?

糸井

はい、ありがちですよね。

伊賀

つまり、何が言いたいかというと
「お客さんに、よろこばれるものをつくって、
 がんばって売る」
というのが仕事じゃないですか。

糸井

逆に、誰も求めてないし、誰も喜ばないけど‥‥
みたいなことでも、
仕事のフリになっちゃうってこと、ありますよね。

伊賀

会社に入ってさえもそんなだから、
就職活動している人って
そういう考えに陥ってたりしませんか?

つまり、自己PRを聞いてくださいというのは、
ぜんぶ「お手柄の話」じゃないですか。

糸井

たしかに、そうですね。

「僕が家庭教師になったら
 教え子の成績が上がったんですよ」とか。

伊賀

つまりは「それくらい」ですよね。

糸井

そう、そもそも、
そんなにないんですよ、お手柄なんて。

伊賀

うん、学生をやっているときに
「お手柄」なんか、ほとんどないと思う。

だからみんな「お手柄つくろう」として
いろいろやってるわけでしょう。

糸井

そうですね。

海外ボランティアのツアーって
「就職活動に有利です」みたいな感じで
売ってたりしますし。

伊賀

中途採用の場合は、どうですか。

糸井

あるていど、社会人経験のあるかたですと
どんな仕事が好きかというのは、
明確になっていらっしゃることが多いので、
あとは
「マッキンゼーが欲しい人」に
適性があるかどうかになってくるんですね。

伊賀

ああ、そうか。

糸井

さっき、制度論の話が出てきましたけれど、
「制度論が好きな人」と、
「個別論が好きな人」がいると思うんです。

伊賀

個別論?

糸井

たとえば「企業経営」について、
制度論からすると
「この会社の事業が伸びそうなのか、
 そうでないのかを分析する」
わけです。

で、伸びると思ったら株を買うし、
ダメだと思えば
株を空売りしたりするわけです、人は。

伊賀

ええ。

糸井

でも、コンサルタントという職業は、
その会社がダメで、苦しい状態だったら
うまく回るように
もっていかなければならない。

伊賀

「株を売ってサヨナラ」はできませんね。

糸井

ですから、制度論的な考えかたよりも
「困ってる人を助ける」
みたいな気持ちがないとダメなんです。

伊賀

お役に立ちたい、と。

糸井

その気持ちがないとダメです。
でも、そこをわかってない人が、わりと多くて。

伊賀

制度論の好きな人って、
頭がいいみたいに思われてそうですしね。

糸井

一般的には、マッキンゼーという会社は
頭のいい人が受けるというイメージがあるので
制度論が好きなんだろうと思われがち。

でも、実際の仕事では
たったひとつのお客さんの会社の経営を
手伝うという仕事なので
「ここの会社、いろいろダメだから
 もうコンサルしません、終わり」
みたいな仕事は、できないわけですよね。

伊賀

ええ、ええ。

糸井

この「はたらきたい展。」に沿って言うなら
「はたらく」の制度論を排して
個別論を取り戻そうということなのかなあと
思ったんですが。

伊賀

そうそう、そうなんですよ。

出来上がった「はたらきたい展。」には
制度論が、みごとにない。

ここに秀才型の子が混じると、
そういう絵を、描いちゃうと思うんです。

「理想のはたらきかたって
 こうこうこんな感じなのに、現実は‥‥」
とかね。

そのあたりが「いっさいない」のが
うちの会社がつくる
「はたらく」の展覧会の特徴だと思います。

糸井

そうですね。

伊賀

自分の会社のことで言うと、
将来的には、うちではたらいている人が
どんどん自由に別の会社に行って、
また戻ってくるみたいな、
そういう社会になったらおもしろいなあと
思ってるんです、僕。

糸井

同感ですね、ほんとに。

世の中がそういう流れになっていったら
今、滞ってる部分も
うまく循環していきそうな気がします。

伊賀

<おわります>
2013-09-10-TUE


『採用基準』地頭より論理的思考力より大切なもの

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地頭より論理的思考力より大切なもの

伊賀泰代:著
価格(税込):¥ 1,575
発行年月: 2012年11月
判型/造本:四六並製
頁数:248
ISBN:978-4-478-02341-9

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