すごいお母さん、 EUの大統領に会う   香川県丸亀市に 尾崎美恵さんという女性が住んでいます。 ごくふつうの主婦として家を守り、 ごくふつうに3人のお子さんを 育てていましたが、 ある日、たった一人で四国の文化を ヨーロッパに紹介する活動をはじめます。 その行動力はすさまじく、 なんと「EUの大統領」にまで会ってしまいました。 いったい、どんな方なんでしょう。 同じく丸亀市出身の「ほぼ日」藤田が 会いに行きました。
プロローグ:長女・えり子さんのブログ、       そして、母は大学院の門を叩く
今年の春のこと。
ある「ほぼ日」乗組員が
「このブログがとてもすごい!」と、
社内にメールを流しました。
それは、一人の女性が、
ご自身のお母さんのことを紹介した、
こんな内容でした。

「EUの大統領に会ってくる」
母の突然の一言には慣れているはずだった。
それでも驚いた。

「??!!」

「ラブレター書いたら返事が来て、
 30分もママのために時間をくれるって!!!」

「???????????」

母は日本の田舎の普通のおばちゃんだ。
そんな彼女となぜ
EUの大統領(欧州理事会議長)が会うのか?

母は6年前から「四国夢中人」という団体を立ち上げ
(と言っても、母1人でやっているのだが)
四国とヨーロッパをつなぐ活動を行っている。
パリで行われるジャパンエキスポに
四国のブースを出展したり、
インバウンド事業として
ヨーロッパのメディアなどを呼んで
四国の魅力を伝えるためのツアーを行ったり。
とにかく、旅行会社でも、広告代理店でもなく
全くビジネス経験のない
おばちゃん(いまだにキーボードは人差し指一本で押す)
1人でやれるレベルではないことを母はやっている。
しかも、ほとんどお金をかけずに。

去年、母はヨーロッパ人俳人を呼んで
2週間ほど四国ツアーを企画し、
その中で感じたことを350句も詠んでもらった。

それを1冊の本にした時、
母はふと思いついたのだ。
「EUの大統領にプレゼントしたら喜ぶんじゃないか!」と。
現在のEU大統領ヘルマン・ファンロンパイ氏
(元ベルギー首相)は検索をかけると 
≪ファンロンパイ 俳句≫とでるほど俳句好きで超有名。

ということで、彼にラブレターを書いたそうな。
「ヨーロッパ俳人が俳句にした四国の魅力を
 1冊の本にしました。あなたに差し上げたい」と。

(中略)

専業主婦で3人の子育てをしていた時、
母にとって世界は家の中だった。
自由奔放な母には窮屈に感じられることもあっただろう。
思いっきり外に出たいと思ったこともあっただろう。
しかし、好き勝手旅行にいくことはできない。
だから母は家の中を外国にした。
常にテレビはCNNが流れ、英字新聞を読み、
各部屋に取りつけられたスピーカーからは
有線でいつもフランス語か英語のチャンネルが流れていた。
どんなに忙しくても毎朝5時から
NHKのラジオ講座を聞いていた。

そんなエネルギーを貯めた母が子育てを終え、
たんすに閉まっていた
自分の羽を再度身につけ飛んだのだから
もうなんかめちゃくちゃ。すごすぎる。
末っ子の中学入学と同時に
母も44歳で岡山大学の大学院に入学した。
その時から、もう母は空から降りてこない(笑)。

(全文はこちらのブログをご覧ください)

うわぁ、このお母さん、かっこいい!
ブログを読んだ乗組員も糸井重里も、
ものすごく、このお母さんに興味を持ちました。
どんな方なのか、お会いしてみたい。
そこで、ブログで紹介されていた
四国夢中人」のWEBページなどを拝見しているうちに、
お母さまである尾崎美恵さんが
丸亀市にお住まいであること、
そして、ブログを書いた長女のえり子さんが
丸亀高校のご出身であることがわかりました。
それは、私、「ほぼ日」藤田の地元であり出身高校です。
思いがけないご縁を感じ、
取材の申し込みをさせていただいたところ
すぐにお返事をいただきました。
なんと、ご自宅に招いてくださったんです。
さっそくお話をうかがってきました!


約束の日、丸亀駅に到着。
ここから15分ほど歩いたところに、
尾崎さんのご自宅があるそうです。

見慣れたこの町に、
そんなすごい方が住んでいると思うと、
いつもの丸亀城も、なんだか違って見えるような‥‥。

(ピンポーン)

ーー はじめまして!
今日はお時間をいただき、
ありがとうございます。
尾崎 ようこそいらっしゃいました。
いいお天気ですから
先に、お庭でお茶でもいかがですか。

▲この方が、尾崎美恵さん。
 すすめられるままお庭でお話をうかがうことに。
ーー お嬢さまが書かれていた
ブログを拝見しました。
尾崎 ありがとうございます。
娘も、たまたま書くことがなくて
あれを書いたらしいんですけど(笑)。
ーー すっごく、おもしろかったです。
尾崎 自分では、ふつうのことをしているつもりですけど、
そう言っていただけるとうれしいです。
ーー EUの大統領とは、どれぐらいの時間
お会いされたんですか。
尾崎 30分くらいです。
廊下で5分くらいの立ち話かな、
と思っていたんですけど
通常、国家元首等とお会いする部屋に
通してくださって‥‥

▲ファンロンパイEU大統領(欧州理事会議長)と。
ーー すごいですね。
大統領の30分って、かなり大きいと思います。
お会いすることが決まったときは
どう思われましたか。
尾崎 もともと、私から手紙を出したんですけど
2〜3ヵ月前のことでしたし、
お返事をいただけるなんて思っていませんでした。
エアメールが届いて開けてみたら
大統領の秘書官からで、
「大統領がお会いしたいと言っているので
 ブリュッセルに来てください」と!
もう、びっくりしました。
ーー うわぁ、それは驚きますよね。
今日は、尾崎さんのご活動など
たくさんうかがいたいことがあります。
そもそも、こんなふうにいろいろなことに
取り組まれるようになった、きっかけは‥‥
尾崎 フランス語を学びはじめたことですね。
もともと外国に対する憧れが人一倍ありましたが、
まさかこんな活動に結びつくなんて
最初は夢にも思っていなかったんですよ。
フランス語を学びはじめたのも
30年前、うちの長男が通っていた
近所のカトリック系の幼稚園に
フランス人のシスターがいて、
その方にはまってしまったのがきっかけなんです。
ーー シスターに、はまる?
尾崎 そのころの私は、
「主婦として子育てをしているけど
人生これでいいのかなぁ」という迷いがあったんです。
でも、シスターたちは
「神に仕える」という意識で生きていて
私がかかえていたような迷いとは
別の次元にいるというか、献身的で、崇高で‥‥。
私は別に宗教を求めているわけでもないし
クリスチャンでもないんですけど、
その幼稚園でシスターたちに接しているだけで、
「見栄とか虚栄とか欲の塊しかない
 このドス黒い自分はなんだろう」
みたいな気分になって、
シスターたちの存在に憧れはじめました。
そんなある日、シスターが主催する
フランス語を学ぶ会がはじまったので、
参加することにしたんです。
最初はすごく気軽な感じだったのですが、
香川にはフランス語を勉強する学校が
ほとんどなかったので、
「丸亀にフランス語を教える先生がいる」というのを
どこかで聞きつけた私みたいな主婦たちが
高松のほうからも4〜5人集まってきました。
それで、みんなでフランス語の小説を読んで、
訳しあうようになって。
私はその後、2人子どもを産んだので
そのたびに休んではまた顔を出して、
どうにかこうにか、合計7、8年続けたんです。
ーー じゃあ、ずいぶん長い間、
フランス語を学ばれていたんですね。
尾崎 ええ、それでフランス語をかじったものだから、
もうちょっと勉強したいという欲が出てきて。
そしたら、たまたまフランスから
帰国していた人が、岡山大学の大学院に
仏文科があることを教えてくれました。
岡山にフランス語を学べる大学院がある‥‥!
大学院のレベルというのが
どれぐらいか分からなかったんですが、
すぐに岡山に向かったんです。
アポイントも何もないのに。
ーー えっ。そんな急に。
尾崎 はい。「マリンライナー」という電車で
瀬戸大橋を渡りました。
岡山大学に着いたら
「仏文科」と書かれているところに
教授達の名前が書いてあって。
それを見て、
「どこに入ろうか」なんて思ってました。
ーー (笑)
尾崎 それで、教授の部屋らしき扉を
トントン叩いたら、中に先生がいました。
「すいません、香川から来た主婦なんですけど、
 大学院に行きたいと思うんですけど、
 主婦でも大学院で勉強なんて、できるものですか?」
と、聞いたんです。
そしたら、その先生がめちゃくちゃいい人で、
「もちろんです、ぜひ試験がんばってください」と
その場で受験のための参考書を貸してくださって。
ーー 尾崎さんもすごいですけど、
その先生もすごいですね。
尾崎 そこで
「いやいや、主婦が来れるようなところじゃないですよ」
と言われたら、私は諦めるつもりだったんです。
でも、その先生が「がんばって」と
言ってくださるような方だった。
もう、帰りのマリンライナーの中では
「私が行かなきゃ、誰が行くんだ!」って
気分になってしまって(笑)。
  (つづきます)
 
2014-06-17-TUE

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