すごいお母さん、 EUの大統領に会う   香川県丸亀市に 尾崎美恵さんという女性が住んでいます。 ごくふつうの主婦として家を守り、 ごくふつうに3人のお子さんを 育てていましたが、 ある日、たった一人で四国の文化を ヨーロッパに紹介する活動をはじめます。 その行動力はすさまじく、 なんと「EUの大統領」にまで会ってしまいました。 いったい、どんな方なんでしょう。 同じく丸亀市出身の「ほぼ日」藤田が 会いに行きました。
第7回:何もないことが財産
ーー EUの大統領と面会された話を
新聞にも寄稿されていましたね。
一気に「四国夢中人」の知名度が
上がったんじゃないでしょうか。
尾崎 そうですね、そこはやっぱり
みなさんのおかげですね。

ーー それにしても、
大統領に「会いましょう」と言われても
ふつうは尻込みして会えない気がします。
尾崎 私はフランス語によって人生が大きく変わり、
そして今も新しい世界が
どんどん広がっています。
自分にできることがあれば何でもしたいし、
それが自分を支えてくれた人への
恩返しだと思ってるんです。
だから、緊張はしますが尻ごみはしないですね。
これが大統領に持って行った
俳句ツアーの句集です。
ーー 大統領にこれをお見せしたんですね。
尾崎 そう。ふつうに印刷すると
大切にされないかもしれないと思って
友だちに和紙で装丁してもらったんです。
内容は、ミンさんというエールフランスの
マネージャーが、ブロガーとして
俳句ツアーに参加されたときのものです。
350ページにわたる
ブログを書いてくれたんですけど、
全部載せきれないので、
一部だけ抜粋してまとめたんです。

ーー わぁ‥‥すごく本格的ですね。
私も香川出身ですけど、この写真見ると
「四国ってこんなにきれいだったんだ」って
思います。
尾崎 撮り方が美しいんですよ。
ミンさん本人も、大統領のところに
自分の俳句集を持って行くなんて
想像もしてなかったので、喜んでいましたね。


▲ファンロンパイ大統領とミンさんと一緒に。
ーー 大統領にもお会いになった尾崎さんが、
次に興味を持っていることはありますか?
尾崎 ZOOM JAPON』という
フランスで配られている
日本の情報を載せたフリーペーパーが
すごくおもしろくて、
ぜひ何か一緒にやりたいなと思っているんです。

ーー すごい。これ、かなり本格的な冊子ですね。
尾崎 これは月刊誌なんですけど
2010年からフランスで7万部も配られているんです。
2012年から英語版もでき、
イギリスやドイツでも配られています。
この『ZOOM JAPON』を創刊した
編集長のクロード・ルブランさんは
本業はフランス全国紙の外報部長ですが、
「もっと日本のことを知ってもらいたいのに
 日本の情報があまりにも乏しいので
 自分がその役割をするんだ」とおっしゃっていて。
スタッフに給料さえ払えれば
自分の給料はなくていいと言っている方なんです。

ーー あぁ、すごい。
熱意がなければできないことですね。
尾崎 ええ。だから、彼を呼んで
四国のプロモーションを
一緒にしたいという気持ちがあったんですが、
なかなかお金が集まらないし
誰も賛同してくれなくて。
でも、
「じゃ、外務省に話を持って行こうか」
と言ってくださる方が現れ、
外務省の支援で四国に招へいできたんです。
これも、彼が有能なフランスのジャーナリストとして
認められていたからです。
東京で政府関係者や有識者とミーティングをされて、
その後で、四国に5日間滞在されました。
東京から高松まで
「サンライズ瀬戸」に乗って来られたんです。

ーー 「サンライズ瀬戸」!
寝台列車ですね。
尾崎 彼が、大の「鉄ちゃん」だからなんです。
それも、ふつうのレベルではなく
日本の鉄道に心底惚れていて、
フランス語で書かれた
日本の鉄道ガイドブック『電車で巡る日本』を
2冊も出版されている方なんですよ。

ーー すごい方なんですね。
尾崎 だから、四国に来てもらうからには
彼がしたいツアーを、と思って
まず「サンライズ瀬戸」。
そして、四国ならではの「坊ちゃん列車」と
「アンパンマン列車」と
ことでんの「レトロ電車」にも乗ってもらって。
さらに、
「欧州メディアからみた四国のクールとは」という
テーマで講演もしていただいたんです。

ーー そういう四国での行程は
全て尾崎さんが組まれたんですか。
尾崎 そうですね。
EUの大統領と会ったのが1月下旬で、
その直後の2月15日から5日間が
クロードさんのスケジュールだったので
準備が大変でした。
でも、おかげさまで
『ZOOM JAPON』3月号に
「金刀比羅宮」や「こんぴら歌舞伎」、
5月号に「豊島」、
6月号に「しまなみ海道」の記事が
英語版(4万部)とフランス語版(7万部)に掲載され、
12ページに及ぶ四国のスポットが
英仏両国で紹介されたんです。

ーー わぁ、本当ですね。
大きな特集記事になって‥‥。
尾崎 これだけのフリーペーパーを作って、
電車や漫画やアニメにも詳しくて
日本文化をどんどん海外に
紹介してくれている人なんて
なかなかいませんよ。
だから、私もすごく彼を応援したくて
「ぜひ彼をサポートしてください」と
外務省や観光庁にもお願いに行きました。
私自身が支援していただいている身分なので、
人を支援なんかできる立場じゃないんですけど、
どうしても何か手伝いたくて。

ーー あぁ‥‥いいですね。
クロードさんと尾崎さんには
どこか共通点がありますし、
国を越えて気が合うような気がします。
尾崎 私は主婦、彼はフランス全国紙の外報部長なので
レベルが違うのですが、
彼とは、ほんとうにビジネス抜きで
重なり合うところがあるように思うんです。
私はどこともしがらみがないぶん、
日本で彼をサポートすることができるかもしれません。
目的のためなら直接トップに会ったり
ラブレターを出したりね。
それをクロードさんにうまく利用していただいて
進められるといいなと思っています。

ーー 尾崎さんならではの方法ですよね。
尾崎 やっぱり「地位も組織も資金も何もない」
って強いですよね。
何もないから、何でもできる。
もし私が准教授ぐらいの肩書があったら
これまでしてきたようなバカなことは
できなかったでしょう。
大学でフランス語を教えてるといっても、講師だし、
誰も「尾崎さんそれはやめて」なんて言わない。
何もないからこそ、誰の制約も受けずに
自分の思ったことを通してやれる。
だから、何もないことが財産。

ーー 何もないことが財産。
すごく、いい言葉ですね。


(つづきます)

 
2014-06-26-THU

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