第8回 あの震災で、ぼくたちは変わったのだろうか。

糸井 今までお話を聴いてきて思ったのは、
藤野さんが投資をするときに
考えていることって、逆説的ですよね。
つまり、
みんなが「これはこうだ」と思い込んでいることを
藤野さんは「あれ? ほんとかよ?」って疑ってみる。
そしたら違うことが見えてきて、
実態としてほんとうじゃないということが
わかってしまう。
藤野 ああ、そうかもしれません。
糸井 裸の王様を指摘し続けるこども、のような。
藤野 王様が裸だとも言いますし、
逆に、ボロボロの服を着ている人に対して
この人は王子様だ、とも言いますね。
糸井 ええ、両方ですね。
藤野 まさに、そのギャップこそが重要で、
ぼくの仕事の儲けって、偏見にあるんですよ。
糸井 人々の偏見に?
藤野 はい。
やっぱり、人って偏見に満ちあふれているんですよ。
東大を出ている人は優秀だ、とか、
東京の丸の内にある会社は立派だ、とか。
ほんとうはいい企業のことを悪く思っていたり、
悪い企業のことをいい企業のように思っている。
そのどっちにも、チャンスが出てくるんですよね。
糸井 それは、ぼくの考えとすごく重なりますね。
ぼくも意地悪と言えば意地悪で(笑)。
たとえ常識として通ってることでも
おかしいと思ったら、
「それはおかしくないか?」と言います。
藤野 やっぱり、そこですよね。
糸井

ぼくは今日のために、
藤野さんの本を読んできたんですよ。
『投資家が「お金」よりも大切にしていること
という本を。

藤野 ありがとうございます。
糸井 もうね、最初からつかまれました(笑)。
日本人って、自分たちが思っているようには、
美徳をもっていないんだ、というところから
話がはじまりますよね。
それが、ショックなくらいひどくて。
その中で、
東日本大震災のことに触れていらっしゃいますよね。
藤野 はい。
寄付金について触れました。
糸井 (聴いている「ほぼ日」の乗組員に向かって)
あのときは日本中がお金を寄付したと
思うでしょう?
一同 (うなずく)

糸井 実は、例年の倍くらいの金額だったんですよね。
藤野 そうです。
あれほどの震災が起こったのに、
例年の2倍しか寄付しないのが日本人なんです。
しかも、次の年からは例年通りの額に戻りました。

そもそも、日本人は寄付するのも
だいたい、ひとりあたり2500円くらいと
少額なんですよ。
糸井 年間で、ですよね?
藤野 年間です。
もし、個人の金融資産の1%を寄付していたら、
寄付金は14兆円くらいになります。
でも、実際には数千億円に留まりました。
糸井 (聴いている「ほぼ日」の乗組員に向かって)
ね、ショックだろう?
藤野 もう少し詳しくお話すると、
寄付については、
する人としない人に分けられます。
日本の場合は、3人に1人が寄付をしている。
つまり、
3人に2人は、年間ゼロ円なんですね。
年間の平均が2500円なので、計算上、
3人に1人が7500円の寄付をしていることになります。
ですので、日本人の中には
年間7500円を寄付をしている3人に1人の人間と、
まったく寄付をしない3人に2人の人間がいる、
ということになります。

 

じゃあ、アメリカはどうかというと、
1人あたりの年間平均は13万5000円です。
月に1万以上、どこかに寄付してるんですね。
かつ、寄付をしてる割合は、3人中2人です。
アメリカ人も3人中1人は寄付をしません。
この話をすると、よく言われるのは、
寄付をすると税控除があるから、
お金持ちが税金対策で寄付するんだろう、と。
たしかにそういうこともなくはないのですが、
実は、年収が低くなれば低くなるほど、
世帯収入に占める寄付の比率って上がっていくんですよ。
額は小さいかもしれないけれども、率は高い。
年収200万円とか100万円弱の人であっても、
給料の5%ぐらいは寄付をしているんです。

アメリカ人は金融資本主義者で
お金のことばかり考えている民族で、
日本人は献身的でとても公共心があり、
お金のことをあまり考えていないように
思われがちですが、
公共経済学では、「日本人は公共心がない」ということで
世界的に公表されているんです。
日本人は寄付もしないし、投資もしない。
とにかく貯蓄が大事。
1400兆円以上の金融資産のうちの55%は現金で、
手放さないで、大切そうに抱えているのが
日本人の実態なんです。


糸井 『投資家が「お金」よりも大切にしていること』を
読んでいて、
このつかみで、やっぱりおどろいたんですよ。
震災後に人の心は変わったんじゃないかって思って
ぼくらはいろんな活動をしてきました。
そのつもりでいたんですけど、
実はあまり変わっていなかったし、
変わってもすぐ元に戻れるほどの振れ幅しかなかった。
藤野 そうですね。
糸井 自分たちが思い込まされている、
あるいは、思い込んでることが、
いかに根拠がないもので
自分の都合のいいように解釈していたか。
たとえば、今の寄付の話でも、
民間が多額の寄付をするから
この問題のことを
政府がちゃんとやらなくなっちゃうじゃないか、
という人もいるんですよ。
でも、民間がやれてることだとか、
これからやっていくことの可能性は
ものすごく大きいですよね。
藤野 ほんとうに、そう思います。
糸井 弊社のCFOの篠田からよく聴く話なんですが、
アメリカでいちばん人気の就職先の会社、というか
組織はNPOなんだそうですね。
もうそこで、ぼくらのイメージとは違います。
そういうことが、
この本にはたくさん書かれていました。
もうね、最後のほうの章なんて、
書きながら興奮してたでしょう?
藤野 あははは。
興奮、していましたね。
糸井 それがまた、ぼくにはおもしろかったです。
(つづきます。)

2014-05-23-FRI

星海社新書 820円(税別)
Amazonでの購入はこちら。
20年以上プロの投資家として活躍されてきた
藤野英人さんが、
「お金の本質とはなにか」について考えた結果を
1冊にまとめた本です。
この本を読んだ糸井重里は、
「非常におもしろかったです」と社内にメール。
希望者を募って本を配りました。
糸井重里の
「これは、いい参考書です。」いうつぶやきは
この本の帯にもなりました。

「ほぼ日」の創刊12周年記念の特集で、
テーマは「お金」でした。
なぜ、お金について「あえて」取り上げるのかという
糸井重里のイントロダクションからはじまり、
芸術家の赤瀬川原平さんや、みうらじゅんさん、
日本マクドナルド会長の原田泳幸さんなどにうかがった
お金にまつわるお話をまとめています。

日本・台湾の実業家、作家の邱永漢さんの
2000年から2002年まで連載したコンテンツです。
「金儲けの神様」と呼ばれた邱さんが
お金や経済を中心に、人間、人生についても執筆。
全900回の連載になりました。

「もしもしQさんQさんよ」を連載していた
邱永漢さんと糸井重里との対談が、
同タイトルでPHP研究所から出版されました。
このコンテンツは、対談本の立ち読み版です。
本についてはこちらをご覧ください。

就職すること、はたらくことについて
あらためて考えたコンテンツ特集です。
ミュージシャンの矢沢永吉さんや
ディズニーの塚越隆行さん、
マンガ家のしりあがり寿さんなど、
さまざまな職業や肩書きの方に話をきいたり、
読者にアンケートしてもらったりしました。