デヴィッド・ルヴォー対談 だから演劇はやめられない。 ──昔の日々と、今の日々。──  ゲスト 宮沢りえ[役者と演出家編]/木内宏昌[演出家と劇作家編]
 
[役者と演出家編]その3 アントニオ・バンデラスほどの役者でも。
宮沢 ところでなぜルヴォーさんは『昔の日々』を
今、日本でやろうと思ったんですか?
ルヴォー 『昔の日々』は、3つの人生を、すごく凝縮した形で、
舞台上に置いた戯曲だと思うんですよ。
原作者のハロルド・ピンターは、
その大きな人生や主題を、非常に数としては少ない言葉、
最低限の表現方法を使ってギュッと凝縮して
舞台に置くっていうことをする作家なんですけど、
特にこの戯曲ではそれがされています。
ぼくは、それが、日本の文化にある、
大きなものを短縮した形、形式、
型の中で表現するっていうことと、
本質的にすごくつながっているって思うんですね。
たとえば時間というものが、
自由に行ったり来たりをするんですが、
それは日本の現代の演劇だし、
伝統的な能の中でも存在する、
同じ表現手段だと思うんです。
生前、ハロルドに実際よく言っていたんですけれど、
その凝縮であり、表現方法であり、
結果、感情にある蓋が被さっているような状態の
表現になるっていうところで、
非常に日本と共通したものがあるので、
彼の劇作っていうのは、日本で表現することによって
浮かび上がるものが非常に多いと思います。
本人はまったく意識していないと思うんですけど、

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ハロルド・ピンター
1930年生まれの、イギリスの劇作家、詩人。
映画の脚本も手がけていた。
「不条理演劇の大家」といわれている。
2005年、ノーベル文学賞受賞。
登場人物の設定をこまかく決めず、
観客に状況が知らされないまま、
時間、理性、論理性、現実感などが
ときにあいまいなままで進行していくため、
観るひとによっての解釈が大きく異なることも。
晩年は闘病のため劇作から引退、反戦活動に専念した。
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▲舞台『昔の日々』からの一場面(撮影:源 賀津己)
宮沢 なるほど。
ルヴォー だから、西洋でやるような『昔の日々』を日本でもやる、
ではなくて、やっぱり日本の現代の状況で、
この作品を浮かび上がらせたらどうなるか、
っていうことがやっぱりやりたい。
宮沢 お能で、こういうふうに
横を向いた瞬間に場面が変わるとか。
そう、顔も何も変わってなくて、
でも、ここ(内面)から変わっていくものがありますよね。
あれは本当に、演じていて、基本だなって。
ルヴォー 最も純粋な形ですよね。
宮沢 飛躍する様(さま)も、潔(いさぎよ)いしなぁと(笑)。
ルヴォー そう、潔くて豊かなんですね。
能舞台の端から端へと歩くだけで
30年の歳月が経過することをあらわすことができたりね。
そしてピンター劇も、ブランデーのグラスを
人に渡すっていうひとつの動きで、
それを使ってその人物を殺すことすらできる(笑)。
宮沢 うーん、わかります。
ルヴォー 日本っていうのは、ニュアンスの豊かな国でしょう?
とても。お互いのニュアンスにものすごく繊細な文化。
だから、まさにこの作品のように、
ちょっとしたニュアンスによって、
もうすべてが変わってくるっていうことをやるのに
最適な文化だと思う。
宮沢 そうですね。じゃあ、
今度のハロルド・ピンターの作品はぜひわたしが(笑)。
ルヴォー やっていただけたら、どんなにいいだろうと思う!
ハロルドが亡くなってしまっているのが残念です。
もう絶対、りえさんが自分の作品をやってる姿を
見たがると思います。やったら、ピッタリな作品がある。
『背信』をやるべきだと思う。
そして、まだ数年先のほうがいいと思うけれども、
美しい戯曲で、りえさんがやったら、
すごいことになると思う。
宮沢 『背信』。読んでみます。

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『背信』
1978年、ハロルド・ピンターが発表した戯曲。
1993年、tpt(シアタープロジェクト東京)
と組み、ルヴォーさんは『背信』を日本人キャスト、
日本語で演出している。
出演は塩野谷正幸さん、佐藤オリエさん、
木場勝己さん、春海四方さんだった。
現在もいろいろな演出、キャストで上演され続けている。
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ルヴォー それをやるとしたら、ぼくとしか組んじゃだめ(笑)。
宮沢 約束(笑)。
ルヴォー ぼくが日本を理解しているかどうか分からないんですよ。
むしろ「ありがとうございます」なんです。
情熱を持った興味ではあると思います。
愛でもあると思います。
理解しようとはしている、常に。
「わかりたい」と思わせてくれる国です。
そうやって、こんなふうに、
自分の人生の中で大事な要素になったんだろうなと思う。
それとね、宮沢りえさんと仕事がしたいと思ったら、
今のところはやっぱり日本に来ないと!
宮沢 (笑)是非。
また、本当に、あの濃厚な、
心が震えるような時間を。
ルヴォー またやろう。
宮沢 はい、是非。
ルヴォー もうできるだけ早く!
  (つづきます!)
2014-06-10-TUE
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