INTERVIEW

志村洋子さんがいま
考えていること、
試みていること、
問うていること。

「ほぼ日」で追いかけてきた
染織作家の志村ふくみさん、洋子さん、
昌司さん、宏さん、そしてatelier shimura
(アトリエシムラ)の工房のみなさんの仕事と、
芸術学校アルスシムラの活動。
昔むかしから継承されてきた
植物から糸を染めるといういとなみ、
経糸と緯糸で織りなす世界を、
作品と活動をつうじて「いま」にどう伝えるのか──。
そのひとつの節目のような本が、この春うまれました。
志村洋子さんによる著作
『色という奇跡 ―母・ふくみから受け継いだもの―』です。
オリジナルの裂作品「色の扉」つきで16,200円という
高価な本である、ということ、
またこの本で描かれているものごとの「深さ」について
興味をもった私たちは、
あらためて洋子さんのお話を聞いてみたくなりました。

縁あって、
志村ふくみさん、洋子さんたちを追いかけた
ドキュメンタリー番組を手がけてきた
NHKエデュケーショナルディレクターであり、
アルスシムラの卒業生でもある、長井倫子さんも同行。
東京にできたばかりのちいさなアトリエシムラShop&Galley
「しむらのはなれ」を訪ねました。
インタビューは、その長井さんを中心に、
ときどき「ほぼ日」も質問をするという
かたちで行なっています。

このコンテンツは、ある意味、むずかしいお話です。
むずかしいのですけれど、ふしぎなことに、
すぅっと染み込んでくるものがあります。
そんなふうに、読んでいただけたらと思っています。

インタビュー 長井倫子
編集協力 武田景 新潮社

第3回

着物が育つということ

志村
植物染料って不思議で、
いろいろ表情が変わるんですね。
一週間着たら、また色が違うと思うし、
着物にしてから何年も置いておくだけでも、
もう全然違うんですよ。

たとえば、しばらくしまっておいた作品が
あったとします。
それを、5、6年経って箪笥から出したら、
成長してたという実感をもつことがあります。
──
着て、使い込まなくても。
志村
ずーっとしまったままでも、変わりますよ。
うちの母も、祖母も言ってました。
「着物ってものすごく成長するよ」と。
──
生き物が成長(生長)するのと似ていますね。
志村
ほんとうにそうだと思います。
成長する。年をとる。
いまそこにいる吉水まどかさん
(アトリエシムラのメンバー)も、
感じていると思いますよ。
あなたが4年ぐらい前に最初に織った着物、
どう変わった?
吉水
着物が変わるということを聞き、
最初は色が褪せるとか、
そういうよくないイメージだったんです。
けれども今、思っているのは、
色っていうのは、
織り上がった時よりも何年か後になって、
その人やまわりの人とか空気、いろんなものを通して、
やっと、落ち着くところに落ち着くんだと。
それが本当の色、みたいな気持ちがしています。
志村
この間、ふくみ先生の展覧会「母衣への回帰」のときに、
昔の、最初の頃の着物とか、
祖母豊さんのものとかが出ていたでしょう。
でも、全然古い感じがしなくて、今まだいきいきとしてる。
あれはどういうことなのかしらと。

最後の民芸の部屋が、
なんか、いちばん元気なんです。

あれ不思議よね。
古くても生命力ある作品は時を経ても
元気なのですね。
面白いなあ、と思います。
──
個人的な体験なんですけれど、
「個が消える瞬間がある」と思ったことがあるんです。
アルスシムラで、みんなが好き勝手に織った布を、
最後に一堂に並べて見た時に、一瞬、
自分のがどれかわからなくなったんです。
個性豊かに、自由に織って、
ひとつひとつを見たら、すごく個性はあって、
濃密な人たちが集まったねって言われるぐらいだったのに、
作品が、ひとつにとけあっているように見えた。
あれがちょっと衝撃的でした。
志村
それは、親和力じゃないですか。
植物と親和する力。
──
そうですね。
ふくみ先生と洋子先生も、
賛成するところと、反対に思うところとがあったり、
個の人間としての部分もありながら、
ずっとあの空間で一緒に織ってこられた。
そして織り上がったものはひとつひとつ、
見たら全然違うんだけれど、
どこか、やっぱり"一緒になる"っていうのがあるのかなと。
志村
それはあると思います。
工房はなんだか不思議な、
そういう場所になってるのかもしれません。
──
アルスシムラの最初の授業で、
ふくみ先生の作品「レクイエム」、
洋子先生の作品「麗水(よす)」を
並べて見せて下さって、
着物、織り方というのは
二通りありますよっておっしゃった。
ふくみ先生のほうは、
ほんとうにその時どき湧いてくる思いを
日々織っていくやり方っていうこと。
▲レクイエム(左)と麗水(右)
洋子先生の場合は、
あの経絣(たてがすり)を
どのように染めたらああなるのかっていう、
ものすごく複雑な絣の構成で、
それは実際に韓国にいらして、見て、感じた、
歴史的な、社会的ないろんな要素を形にする、
構築していくという方法でしたね。
志村
そうですね。
それはものを作る時の
とてもダイナミックな、大きな柱です。
今言った、母の「レクイエム」のようなものを
織る時には心の風景を思い描くことが大事です。

もう一つの「麗水」は、
亀甲型を経絣と緯絣(よこがすり)の
総絣でやったもので、
最初に、織り終わるまでの工程を
全部考えつくします。
気分に任せる、ということはないわけですね。

そっちのほうはある意味、織物の
骨格になるような気がするんです。
思想的なことと、
情感的なことの両方がそこにあるのです。

「麗水」というのは地名で、韓国の港町です。
豊臣秀吉の朝鮮出兵のときに、
韓国と日本で水軍の戦いになった処です。
そこの地に立つと、当時の人達の気持ちになります。
日本軍に応戦するために、李舜臣(イ・スンシン)将軍が
亀甲船という軍艦を作りました。
美しい名前の港町から出航し、
日本軍を打ち負かしたという話が、
私にはとても印象深かった。

人間って、立場が変われば敵にもなるし、
味方にもなるしという、
そういう原理って何だろうって考えて、
それで、あの八角形の亀甲型の着物を作ったんです。

ある意味、
社会的、思想的なバックがないと、
作品はつくれない。
とてもエネルギーの量が必要です。
ぼかしで織り進んでいくのとは違った意味での
別の責任が出て来るんですよね。

(つづきます)
2017-06-08-THU

色という奇跡
―母・ふくみから
受け継いだもの―

新潮社 16,200円
(税込・配送手数料別)

[販売時期・販売方法]
2017年6月6日(火)
午前11時より数量限定販売
※なくなり次第、販売を終了いたします。
[出荷時期]
1~3営業日以内

染織作家である志村洋子さんが、
2013年から2016年にかけて
季刊誌『考える人』に連載した文章を
1冊にまとめた本です。
毎号のテーマに沿って撮影された写真と、
洋子さんの文章とが織りなす世界は、
まさしく「作品」と呼ぶにふさわしいもの。
1点ずつ、洋子さんたちの手作業でつくられた
オリジナル裂作品「色の扉」がついています。

使われている小裂は、志村ふくみさんの代からの
かなり古いものも混じっているそうです。
色の組み合わせが1点1点異なり、
色というものを「自然からのいただきもの」と考える
思想そのままに、
どんな色のものが届くのかも「いただきもの」。
新潮社や「ほぼ日ストア」での販売は、その方式で、
それをご縁として受け取っていただけたらと思います。

ただ、今回、
6月6日から6月11日までの
東京・南青山TOBICHIでの展示販売においては、
シュリンク(パッケージ)を外して、
「色の扉」のいろいろを展示します。
そこから、「ご縁を感じた」ものを「出逢い」として、
書籍と組み合わせてお求めいただくことができます。
どうぞ、足をお運びくださいね。

撮影、編集:広瀬達郎(新潮社写真部)

「しむらのはなれ」は、ゆったり時間が流れる場所です。
もともと人が住むために建てられたこの家は、
明るい光に包まれて、窓を開けると風が吹き抜け、
様々な種類の鳥の鳴き声が聞こえてきます。
ここの2階で、ほぼ毎週末、
染色か機織りのワークショップを行なっています。

染めのワークショップでは、
その時々の手に入った植物で、
絹のショールを染めます。
晴れた日は広いテラスに出て、
絹のショールを風にそよがせ
太陽の光に透かしてみましょう。
たった一度しか出会えない草木の色に出会ってください。

機織りのワークショップでは、
糸を染めて機織りをします。
ご自身が染めた糸を織り入れることができます。
静かな「しむらのはなれ」で、織り機の音と、
色が奏でる音色をお楽しみください。
織り上げた裂は一旦お預かりし、
手製本で文庫サイズのノートの表紙に仕上げ、
後日お送りいたします。
きっと、世界で一冊だけの
宝物のノートになることでしょう。

1階ではアトリエシムラの裂小物や志村ふくみ、
志村洋子の本を販売しています。
こちらもどうぞご覧くださいね。
心よりお待ちしております。